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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

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 施設案内が終わり、昼食の時間となる。大食堂で生徒達は解散を宣言され、皆各々、ビュッフェ形式の食事を見に回った。

 その中でカナリア、クロウ、ロビン、クレインの第六音楽室の四人組は、何も言わずとも同じテーブルに集まる。

 というか、カナリアが座った席に、各々が集まった。


「クロウさん、そろそろ腕を離してくださる? 昼食はきちんと摂りますわ」

「……分かりました」

「何食べます? 色んな地方のお料理があるみたいですよ!」

「僕のおすすめは、北の国の煮込み料理ですかね。とても美味しいんですよ」

「わあ、食べたことないです! 食べてみたい!」


 ゴクリと唾を飲み込んで、キラキラとした瞳で料理を遠目に見るロビンに、クレインが楽しそうに笑う。

 四人で移動し、様々な料理を各々取っていれば、カナリアの上に影が落ちた。


「カナリア、カナリアの好きなローストビーフあるよ」

「ホウゴロウ……また貴方ですの?」

「おいブス、道の邪魔だどけ」

「あら、鏡とお話してますのかしら? この国の王子はやはり奇特で馬鹿ですわねぇ〜」

「んだとコラ、バカナリア!!」

「黙りなさい、アホークが!!」

 

 顔を合わすだけで臨戦態勢の二人に、ホウゴロウが不愉快そうに眉を寄せる。

 今にも掴み合いの喧嘩をしそうな二人の間に挟まりながら、彼は口を開いた。


「もぉー、いっつもいつも〜。仲良くして」

「そうですよ、ホーク様。王族たるもの、この国に尽くす臣下を蔑ろにしてはいけません。いくら幼馴染と言えど、顔を合わす度に暴言とは頂けませんよ」

「黙れ、クレイン。カナリアは、俺にとって生まれた時から腹が立つ存在なんだよ。歌を歌うだけで何故、貴族の称号を賜ってやがる。政治も何も分かりゃしねえくせに、成り上がってその中枢に胡座かいてるバークライト家なんざ、この国にいらねえ」


 冷たい視線と苛立ちが存分に含まれた言葉を、カナリアは黙って受け止める。

 氷のような冷え切った空気の中、クレインは信じられないとでも言いたげな表情で、ホークの前へ躍り出た。


「ホーク、今の言葉は見過ごせませんよ。この国に長きに渡り尽くしているバークライト家を侮辱する発言を、今すぐ撤回しなさい。彼らはこの国の外交を担い、この国の灯りを司る、なくてはならない家です」

「はんっ、火の魔法なんて誰でも使える。外交だって歌だけ歌って終わり。そんなんなら、バークライト家の人間を使う必要なんざねえよ」

「ホーク!!」


 初めて見る声を荒らげたクレインに、傍に居た女子三人だけでなく、周りの遠巻きに見ていた生徒達も肩を跳ねさせる。

 クレインの怒りに満ちた顔を、この場にいる誰もが初めて見たのであろう。ホークですら、目を丸くして固まっていた。


「ホーク、君はカナリア嬢の幼馴染だ。ならば、彼女がどれほど努力していたのか、見ていたはずだろう。何故そんなことを言うんだ」

「……努力なんざ、当たり前だ。そいつだけが、特別なわけじゃない。俺もお前も、皆してきた」

「そうだけれど……」

「歌だけの外交に頼るなんざ、国として終わってる。俺は、こんな馬鹿げた国を変えるんだ」


 敬語を忘れてカナリアを庇うクレインに吐き捨て、ホークが舌打ちをする。そして、カナリアを睨んだ。


「お前なんざ、この国に要らない存在にしてやるから、首洗って待っとけよ」

「ふっ、やれるものならやってみせなさい。歌こそ全てのこの国を作った王族が、この私を不要に出来るかしら」

「フンッ」


 顔を背け、カナリアから離れていくホークをクレインが悲しげに見送る。

 面倒臭いですわねと、カナリアが小さく息を吐けば、大きな手が彼女の頭を撫でた。


「分かってるでしょ、カナリア。ホーク、馬鹿」

「分かってますわよ、だから、私の頭を撫でるのは辞めなさい」

「言い方、悪いから、あのバカ。ごめんねの代わり」

「分かってると言っているでしょう。早くあの馬鹿の元へ行きなさい」

「うん、またね」


 大きく暖かな手が離れ、ホウゴロウがホークの隣へと走り寄り、カナリアにしたのと同じように馬鹿王子の頭を撫でる。その手はすぐにはたき落とされたが、ホウゴロウは気にせず、彼の隣を歩いた。


 その様子を眺めていたカナリアの手に、そっと柔らかな手が添えられる。


「大丈夫ですか?」

「いつものことですのよ、お気になさらず」

「それにしても、言い過ぎですよあのバカ王子」

「まあ、馬鹿は馬鹿なりに考えているのですわ」

「え?」


 あれだけの暴言を受けながらも、怒りを微塵も感じないカナリアに、クロウが不思議そうに首を傾げる。

 いつもならば怒り狂ってもおかしくない彼女の落ち着いた様子に、クロウは先程のホウゴロウの会話でも感じた、幼馴染三人の分かり合っているような世界を垣間見た。

 それに、彼女は眉間に皺を寄せる。


「……なんか、ムカつく」

「えっ、急になんですの」

「あんな人達より、私達と一緒にいる方が楽しいですよね?」

「は? なんですの」


 またもや、自分の腕にクロウの腕が絡まり、カナリアは面倒そうに眉を顰めた。

 その姿を見たロビンが、思わずクスクスと笑い出す。


「クロウってば、嫉妬しすぎだよ! それに、私だってカナリア様と腕組みたいのにっ!」

「嫉妬?! そんなのしてないよ、変なこと言わないでよね、ロビン!」

「ええ〜、そうとしか見えないなぁ〜」


 ニヤニヤと茶化すロビンに、クロウが顔を真っ赤にして否定する。ぎゅうぎゅう締め付けられる自分の腕に辟易としながら、最推しからの自分も腕組みしたい宣言に心をぶっ刺されまくっているカナリアは、空を仰いだ。


 そんなかしましい三人娘に、先程まで怒りに満ちていたクレインは毒気を抜かれ、また元の優しい表情に戻る。


「……皆さん、早く食事をしましょうか。折角の料理が冷めてしまいますしね」

「はいっ!」

「ねえ、嫉妬してませんから!! さっき頭撫でられてたのだって、別になんとも思ってないですから!! カナリア様、分かってますか?!」

「はいはい、分かってますわよ……」


 喚くクロウに笑うロビン、呆れるカナリアと楽しそうなクレイン。

 この四人も傍目から見れば、四人の世界が出来上がっているのだが、四人は気付いていない。



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