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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第三章『乱立恋愛フラグを叩き折りましょう』

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「どういうご関係なんですか?」

「幼馴染ってことは、婚約者候補の可能性もありますよね、ねっ! ねっねっ!」

「幼馴染以上の関係なんてありませんわよ! あのアホは、幼い頃から距離感がアホなだけですわ!」

「そこの御三方、施設の説明を聞いてくださいね」


 施設案内中だというのに質問をやめないクロウとロビンに、カナリアはとうとう声を荒らげる。

 彼女達の後ろを歩くクレインが苦笑し注意すれば、質問攻めの二人は渋々口を閉じた。

 やっと静かになった周りに溜息を吐き、施設の説明をしている一際大きなホウゴロウへ視線を向ける。


 大きなクリっとした瞳の上に黒縁眼鏡を掛け、ベリーショートのツンツン頭は、知的さと快活さを併せ持っている。

 そして何より目を引くのが、2メートルはあるその身長と体格の良さだ。

 幼い時に東の国からやってきた彼は、この国の人間とは遥かに違う遺伝子を持っていた。足の速さと聴力は誰よりも秀でており、すぐにホークは彼に目を付けたのだ。


 ――ホークの従者として仕えてから、彼とは顔を合わせる事が多かっただけのこと。額のキスも、彼は挨拶と思い込んでいて、今も続けてしまっている悪癖ですわ。彼のルートに行けば、ロビンちゃんは毎回顔を合わせる度にされていましたのよ。


 自分をチラチラソワソワ見ている愛しのヒロインに、カナリアは苦々しげに眉を寄せる。


「――ここが、この施設の目玉のひとつである大図書館です。ここにしかない秘蔵の本もありますので、勉学に役立てるも良し、教養を磨くのにもご活用下さい」


 ホウゴロウが大きな両扉を開けば、広がる本の世界に生徒達が驚きの声を上げる。四階建ての全ての壁に敷き詰められた沢山の本と大きく長いいくつものテーブル。休憩用の椅子も満遍なく置かれており、一日どころか一ヶ月丸々ここに居られそうだ。

 

「……カカポさん、歌魔法についての本はどの辺りにありますの?」

「ああ、えっと、三階部分のあの一帯全てが歌魔法関連の物だったはずです。あれでも、カナリア様って歌魔法もう既に発現されてますよね?」

「ええ、けれど、歌魔法の知識はいくらあっても困りませんから」


 確かに……、と頷くカカポさんから三階の本棚へとカナリアは視線を移す。

 施設案内中であり集団行動中ということを忘れ去ったかのように、ツカツカと階段へ向かうカナリアにクロウが気付いた。自分中心過ぎる彼女を嗜める為に彼女の元へクロウが急げば、彼女よりも早く、紅の乙女の元に辿り着いた人物に、漆黒の令嬢は不愉快そうに眉を寄せる。


「カナリア、自由行動はもう終わり」

「私はここで施設案内を終了していただいて問題ありませんわ」

「勝手な行動はダメ。今は皆と一緒。これが終わったら好きなだけここに来ていいから」

「私は今すぐに、あそこにある沢山の本を読まなければなりませんの。時間が惜しいですわ」

「だとしても、ダメ。自分勝手なことしちゃいけないよ、バークライト家の令嬢なんだから」


 立ちはだかる巨人の尤も至極な正論に、カナリアは口を閉じる。

 今の自分の行いは身勝手極まりない。だが、カナリアにはやらなければならないこと、知らなければならないことが山ほどあり、その為にはここにある貴重な本を読み漁らなければ、それの足掛かりにすらならない。

 一分一秒、コンマ秒数ですら、彼女には惜しい。


「口を慎みなさい、ホウゴロウ。貴方の言う通り、私はバークライト家の娘、カナリア・バークライトですわよ。いくら生徒会の一員だとて、この私に命令するなんて頭が高いですわ」

「……命令してない。案内しないと、ここ広いから迷っちゃうし……」

「施設案内なんて私には不要。もうマップは頭に入っていますわ。貴方は、そこらのヒヨコを連れてさっさと案内しに行きなさい」


 シッシッと追い払うように手で示せば、ホウゴロウが不機嫌そうに口をへの字に曲げる。

 小さな頃から変わらない怒り顔を鼻で笑い、カナリアは階段の一段目へと足を乗せようとした。


「えっ」


 が、その足は空を舞い、カナリアは不思議な浮遊感に包まれる。そして、至近距離にあるホウゴロウの顔に、カナリアは思考が停止し、固まってしまった。


「な、ななっ! ちょっと貴方!! 何してるんですか?! 今すぐカナリア様を降ろしなさい!!!」


 クロウの怒りと驚きの叫び声が耳に届き、カナリアは思考停止状態から一気に意識を引き戻される。

 今まさに、お姫様抱っこ、なんてものをされている現状に羞恥と苛立ちが湧き上がった。


「ホウゴロウ!!」

「ええ……なんで二人ともそんなに怒るの......怖い」

「淑女を軽々しく持ち上げるなんて言語道断です!! 婚約者が居たら決闘ものですよ?!」

「そうですわよ! 貴方、距離感を間違えるなと何度言わせますの!!」

「カナリア、婚約者いないじゃん」

「「そういう問題じゃない!!」」


 顔を真っ赤にして怒る二人の淑女に、ホウゴロウは困ったように眉を下げる。

 そんな騒ぎを遠巻きに生徒達が見つめ、ロビンははわはわと瞳を煌めかせ、クレインは大きな溜息を吐いて頭を抱えた。


「こうでもしないとカナリア、ここに居座るし。施設案内は絶対に受けなきゃいけないから仕方ないよ」

「私が腕を掴んで無理矢理歩かせます!! だから、そんなベタベタ触らないで!!」

「……ベタベタ触ってないのに」


 不服そうにホウゴロウがカナリアを降ろす。カナリアは、しゃがむホウゴロウの頭を思いっきりはたき、唇を尖らせる昔馴染みに冷たい視線を送った。


「いたい」

「こういうのは恋人にだけしなさい」

「……じゃあ、今だけ恋人になる?」

「……アホ過ぎてお話になりませんわ」


 呆れ果てて肩を竦めた瞬間、グイッと腕を掴まれ、カナリアの腕にクロウの腕が絡む。

 毛を逆立てる猫のように、ホウゴロウを睨み付けるクロウは、低い声を出した。


「破廉恥……破廉恥野郎が……ベタベタ触り過ぎなのよ」


 ぎゅううっとカナリアの腕を力強く抱き締めるクロウの目の中に、炎が揺らめく。そんなクロウをホウゴロウは静かに見つめ返し、口を開いた。


「カナリアとボク、キミよりずっと前から仲良し。だから、アレくらい普通」

「なんですって……っ?!」

「はい皆さん! 行きますよ、次の場所! ホウゴロウ、早く案内して下さい!」


 一即触発の状況に、クレインが間に割り込み手を叩いて止める。

 渋々離れたホウゴロウの後ろ姿を睨み続けるクロウに、カナリアは目を丸くしながら腕の温かさに困惑した。


「アイツ……絶対カナリア様のこと好きですよ」

「え? いえ、それはないと思いますわよ」

「無いわけない。ずっとベタベタ。ロビンの時より、なんか、嫌な感じします!!」

「ええ……?」


 キレ散らかすクロウに、カナリアは首を傾げる。

 彼女はまだ気付かない。この合同合宿で巻き起こる恋愛フラグの乱立に、彼女が振り回され続ける一ヶ月間になることを。

 恋愛経験皆無のカナリア・バークライトは、気付く訳が無かったのだ。




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