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ヒロインガチ推し悪役令嬢は今日も悪役を楽しむ  作者: 月見里 雪
第一章 『お相手を見定めましょう』
3/33

 カナリアは、右斜め前の亜麻色の髪をずっと眺めながら、その隣で微笑む漆黒の髪の少女を視界の端に捉えた。


 先程、カナリアが教室に戻ってから数分後に、二人はクラスへと帰って来た。

 仲良さげに話す二人に、カナリアはゲーム通りだと思いながらも、クロウの言葉がずっと胸に引っ掛かる。


 出会ったばかりではない、と小さく、けれどはっきりと彼女は自分に言い放った。

 そんなクロウに、カナリアの頭の上に疑問符が現れる。

 ゲームでは、ロビンとクロウはこの学園で初めて出会い、仲良くなったはずだ。

 幼い頃から出会っていたなんてエピソードは、聞いたことがない。

 だが、前世のカナリアはこの『唄う恋のコマドリ』以外やったことはないので、続編で何かしらエピソードがあったのかもしれない。


「……それか、私と同じ前世の記憶持ち」


 ボソリと呟いて、カナリアは鼻で笑い、有り得ないとでも言うように、首を小さく横に振った。


 前世の記憶なんて、そうそう思い出せるものではない。

 しかも、前世でやっていた乙女ゲームの世界だなんて、ファンタジーも良いところだ。

 あら、貴女も前世でこの乙女ゲームをやってらしたの? 私もですのよ、おほほほ。なんて言う女、頭が可笑しいにも程があるだろう。


「カナリア様、どうかなされまして?」

「……いえ、お気になさらず」

「貴女のお話がつまらないんじゃない?」

「あら、失礼ですね」


 目の前でわいわい話す女子生徒達に、心の中で溜息を吐く。


 あれ程まで辛辣な態度を取ったというのに、クラスメイト達は変わらずカナリアに擦り寄ってきて、今もカナリアを囲んでいる。


 ああ、本当に嫌になる。

 この下心ばかりな人間達に付き纏われるなんて。

 そして、我が物顔で”お友達”面するんだもの。


「……クロウが羨ましい」


 誰にも聞こえない程の小さな声で囁いて、カナリアは楽しげに話す二人を眺めた。


 ***


 放課後、自分に付き纏う生徒達に形だけの笑顔で別れを告げ、カナリアは誰もいないことを確認して走り出す。


「さあ、ミニゲームの始まりですわ!」


 駆け出したカナリアが、キラキラとした表情で迷わず旧校舎へと向かう。

 入学した日の曜日は、月曜日。

 月曜日、ロビンは旧校舎の誰もいない音楽室で歌の練習をしているはずだ。

 軋む廊下を静かに歩きながら、カナリアはひょこりと音楽室の中を覗いた。

 そこには案の定ロビンがおり、その隣にはクレイン・ホワイトの姿もあった。


 おや?と、カナリアが首を傾げる。


 初日のミニゲームでは、ロビンは一人で旧校舎の音楽室で歌の練習をしていたはずだ。

 けれど、確かにロビンの隣には、微笑むクレインの姿がある。

 しかも、クレインはピアノの前に座り、ロビンの歌の指導を優しくしているではないか。


「……ゲームとは少し違うのかしら?

 それとも、ゲームの容量的に、背景に相手のキャラクターを加えられなかっただけ?」


 悶々とした表情で二人を見ていたカナリアだが、小さくて聞き取れなかったロビンの歌声が段々と大きくなっているのに気付き、瞳を輝かせる。

 さっきよりかは幾分マシになったその歌声に、カナリアはまたしてもだらしなく口角を上げた。


「ロビンちゃんのまだ下手くそな歌声も可愛過ぎですわぁ……」


 はぁ、と悩ましげな溜息を吐くカナリアは、傍から見れば誰もが手を差し出したくなるような美しさなのだが、その思考が残念過ぎる。

 数分、そのままロビンとクレインの練習を聞いていれば、突然そのメロディーが止まった。

 不思議に思い、こっそりと中を見れば、ロビンとクレインの笑い合う姿が、目に入る。


「クレイン様、ご指導ありがとうございました」

「いえ、力になれたのなら嬉しいです」


 微笑み合うロビンとクレインのなんとお似合いなことか。

 やはり、クレインが最有力候補ですわ、とカナリアは一人頷いた。


 クレイン・ホワイト。

 アリア学園の生徒会長であり、この学園のトップに君臨する青年だ。

 物腰柔らかで誰に対しても優しく接する正統派王子様タイプである。

 柔らかな白色の髪と同色の瞳は、彼の儚げな美しさを引き立たせており、前世では一番人気のキャラクターだった。


 まさか、入学した日のミニゲームで、ロビンとクレインの推しカプを見ることが出来るなんて、自分はなんてツイているのだろうか。


「ああ、私このカプ大好きですのよね……。私の邪魔にも頑張って二人で立ち向かう姿が健気で本当に良くって。ロビンちゃん、クレインを選んでくれないかしら。そうしたら、もう出来る限り、最大限の力を発揮して、虐めまくるというのに……!」


 ぶつぶつと物騒なことを呟くカナリアが、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべる。

 すると、二人が話し終えたのか、帰り支度をし始めた。

 それに気付き、カナリアはシュッと表情を戻して、足早に旧校舎の出口へと向かう。


 二人に見付かってしまうのは、面倒くさいし、何よりストーリーが変わってしまう恐れもある。

 まあ、クレインがあの場にいる時点でその心配をしても意味が無いような気もするが、悪役令嬢カナリアがあの場にいるのは場違いにも程があるだろう。


「けれど、もう少し二人を見ていたかったですわね……」


 残念そうに後ろをチラリと振り返り、小さくなった旧校舎に、彼女は別れを告げた。




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