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お部屋に咲くのは蓮華草


 学園で爆睡してしまうという初日から大失敗をした柚香だったが、そんな失敗も持ちネタにしてしまい、転入生にも関わらずすぐにクラスで友達もでき楽しい学園生活を送っていた。

 亮太はというと、男子生徒とは仲良くしているみたいだが未だ柚香以外の女子とはほとんど話したことがない状態である。それは目つきの悪さのせいか、本人が出している自覚はないが他生徒からは出しているように見える“話しかけるなオーラ”のせいなのか……何にせよ怖がられているのは事実だ。


「柚香はすごいよねー。真柴くんとあんなに仲良くしてさ」


 一人の女子生徒が柚香に話しかける。


「え? 亮太? まぁ腐れ縁の幼馴染だからね。ずっと一緒にいるし」

「一緒に転入って、ただの幼馴染でそこまでしないでしょ! 実際付き合ってるの!?」

「あ! あたしもそれ気になる!」


 女子が大好きな色恋話が始まり、近くにいた女子生徒も興味津々といった様子で柚香達の会話に入った。


「ないないない! だって亮太だよ?」

「えーっ! 本当に? 真柴くんさ、目つきも態度も怖いけど顔は普通にかっこいいじゃない」

「そうかな? 私は怖いとも思わないしずっと隣で見てきた顔だからなぁ……」


 柚香はそう言いながら、少し離れた席で男子生徒に絡まれている亮太をちらりと見る。


――まぁ、昔より男らしくなって、かっこよくなったとは思うけど。


 気付いた時には背も自分より随分と高くなって、最後に亮太と同じ目線で話した時はいつだっただろう、なんて柚香は思ったりした。


「柚香はさ、真柴くんよりほら……羽鳥くんでしょ?」

「へっ!?」


 ニヤニヤと笑いながら女子生徒は柚香にそう言うと、柚香は驚いて思わず変な声を上げてしまう。


「図星だー! でもわかるよ。羽鳥くんめっちゃかっこいいもん! 真柴くんとは違うジャンルだよねぇ。正統派っていうかさ」

「柚香のタイプはあっちなのか……ふふふ」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 別にそういうんじゃないってば!」


 先程の亮太の時とは違い、顔を真っ赤にし大袈裟に否定する柚香を見て、女子生徒達は楽しそうに笑う。


「かっこいいし、優しいし、素敵だなぁ~とは思うよ? 思うけど、何だろ、憧れ的存在っていうか?」


――ああ! 自分で何言ってるかわからなくなってきた! そうなの、創くんは憧れで、別にまだ好きとかそんなんじゃ……


 今度はちらりと窓際の席に座っている創の方を見る。何かをするわけでもなく、創はただ窓の外を眺めていた。


――やっぱり、かっこいいなぁ。ただそこで佇んでるだけで、こんなにも絵になるんだもん。


 そんなことを考えながら創を見ていると、柚香の視線に気付いたのか、外を眺めていた創の視線が柚香へと向いた。

 いきなり目が合ってしまい、見ていたことがバレてしまったと思った柚香は驚きと焦りで固まってしまう。

 そんな柚香を見て、創は笑いながら柚香に手を振った。


「!」


 同じ教室内でこんな近くにいるのに、他の生徒もたくさんいるのに。

 創に手を振られた瞬間だけ、まるで今ここには二人しかいないような錯覚に陥る。

 立ち上がって隣に行くことも出来るけど、今はこの距離感で手を振り合う関係が心地よかった。


 へらへらと笑いながら創に手を振り返していると、後ろからいきなり軽く頭を叩かれる。


「いった! ちょっと何すんのよ!」


 幸せな時間から一気に現実に引き戻された気分になった柚香が後ろを振り返ると、そこには亮太が立っていた。


「お前何一人でへらへらしてんだよ。気持ち悪すぎて周りの友達引いてんぞ?」

「う、うるさいな! 別に一人で笑ってたわけじゃないし!」

「いや笑ってた。ドン引かれる前に俺が助けに来てやったんだから感謝しろよ」

「とか言って本当は女子と話したかっただけでしょ亮太は! 残念でした! あたしの友達には絶対手出させないんだからね!」

「ばっ! ちげーよ! こんな手使って女子と話したいとか俺は小学生か!」

「なんだなんだー? 真柴、お前ってば女子とそんな喋りたかったのかよ~」

「だから違うっつってんだろ! お前らも野次飛ばしてくんな!」


 柚香と亮太のやり取りを聞いてさっきまで亮太に絡んでいた男子生徒が面白がって茶々を入れると、教室内に笑いが起きる。

 まだ数日しか経ってないのにも関わらず、今のように、柚香も亮太もクラスの中心ともいえる程目立つ存在になりつつあった。

 創はそんな二人の様子を眺めて軽く微笑むと、クラスメイト達の笑い声を聞きながら、また外を眺めていた。



****


「ゆずちゃんのそれって、才能だよね」


 放課後、席でダラダラと帰り支度をしている柚香と、そんな柚香を隣で待っている亮太の元へ創が話しかけに来た。


「創くん! えーっと……それって?」

「あまりにもバカなとこじゃねーの?」

「亮太は黙っといて! てか先に寮戻ればいいのに。私しか友達いないわけ?」

「うっせーな! お前の面倒見ろって頼まれてんだよ俺は!」

「亮太くんもすぐ憎まれ口叩くけど、ゆずちゃんと同じ才能持ってると僕は思うなぁ」

「あ、つまり亮太もバカってことなんじゃないの? あははっ!」

「お前……! おい、さっきからその才能って何だよ」

「“誰とでも仲良く出来る才能”だよ」


 創はニコニコしながら答える。


「え、そうかな?」

「うん。だってもうクラスで人気者だし。ゆずちゃんも亮太くんも」

「私はともかく亮太はないでしょ~~なーんて」

「あ? お前が人気者も有り得ねーだろ自意識過剰か」

「はは。でも二人とも愛されキャラだと僕は思うけど。僕とも仲良くしてくれるし」

「なな! 何言ってんの創くん! 寧ろ人気者なのは創くんと思うけど!」


 学園の生徒会長。見た目も中身も王子様。創の存在を学園内で知らない人はいないといえるだろう。

 そんな創に人気者と言われても、二人ともなかなかピンと来なかったのかもしれない。


「いや、実は僕そんなに仲良くしてくれる人いなくて……」


 恥ずかしそうに創は言う。


「え? 創くんが? 意外……」

「まぁ確かにいっつも一人で席座ってぼーっとしてるだけだもんなお前。あんま誰かと会話してるイメージねーよな」

「違う! 創くんはぼーっとしてるんじゃなくて物思いに耽ってるだけだよ! 亮太はそんなのもわからないの?」

「いやいや、亮太くんの言うとおりだよ。話しかけずらいのかわからないけど、元々一人が好きで一人でいることが多かったから。そしたら余計に話しかけられなくなっちゃって」


 きっと創に話しかけたい生徒はたくさんいる筈なのに、と柚香は思う。

 でも確かに、自分も初日に創に会わなかったら、今こうして仲良く話せていなかった気がずるのも事実だった。

 創は、どこか不思議な雰囲気を持っている。更に完璧すぎて、逆に近寄りがたいイメージがあるのかもしれない。


「だから今は、二人が仲良くしてくれて嬉しいし、すごく楽しいんだ。ありがとね」


 少し眉毛を下げ、照れくさそうにしながら創は二人にお礼を言った。

 そんな創に向かって

「それはこっちのセリフだよ!」

 と慌てる柚香だったが、亮太は相変わらず

「別に仲良くしてるつもりはねーけど……」

 と憎まれ口を叩く――が、お礼を言われたことは素直に嬉しいのか、亮太も少し照れくさそうにしていた。


「……つーか、そろそろ寮戻るぞ。一旦荷物置きてーし」

「え、せっかく何かすごいいいムードなんだからさ、もうちょっと三人で楽しい放課後タイム過ごそうよ!」

「別にそれは後からでもいいだろ。それにお前そんな余裕あんのか? 明日の数学当たるってさっき嘆いてたろ」

「う……そ、それは……で、でも後ちょっとだけいいじゃん! ね? 創くんも時間まだ全然大丈夫だよね? ねっ?」


 急に何となく様子がおかしくなった柚香を見て、創は一つ思ったことがありそれをそのまま柚香に聞いてみることにした。


「ゆずちゃん、もしかして――寮に戻るの嫌なの?」


 実はこれは創がこの数日の間で感じていたことでもあったのだ。

 今日のように何度か三人で放課後談笑したりすることがあり、その度柚香はやたらと学園内にギリギリまで残りたがっていた。

 最初は、転入したてということもあり、学園に慣れたい気持ちもあるのかと考えたが、もうすっかり慣れているし……


 そして思い当たったのが、先程言った“寮に戻るのが嫌”ということだった。


「――い、いやぁ、そんなことあるわけ……えへへ?」


 柚香の反応からして……どうやら創の考えていたことは、図星だったらしい。


「どうして? 何かあったの?」

「は!? お前マジで寮に戻んのが嫌って理由で毎日毎日こんなダラダラしてたのか!?」

「だってぇ! 仕方ないじゃんかぁ! 同室の子に――めちゃくちゃ嫌われてるんだもん!」

「「――え?」」


 創と亮太が綺麗にハモる。


「だーかーらー! 同室の子とうまくいってなくて……」

「ああ、ゆずは相部屋なのか。俺は一人部屋だからそういうめんどくせーことないからいいけど」

「僕もずっと一人部屋なんだよね。うまくいってないって、喧嘩でもしたの?」

「喧嘩っていうか、そもそもあんまり目も合わせてくれないっていうか……」


 柚香は寮で初めて顔合わせした時のことを思い出しながら、二人にぽつりぽつりと今までの悩みを打ち明け初めていった。




****


「失礼しまーす……っ!」


 転入初日、同室の子がいることを知っていた柚香は少しだけ緊張していた。

 荷物は前日までに全部届けていたが、思いの外急な引っ越しと転入にバタバタして、実際部屋に入るのは地味に初めてだった。

 なのでもちろん、同室の子がどんな人物なのかも知らなかったのである。女の子、という情報以外何もない柚香は仲良くなれるか不安ながらも、初めての寮生活、相部屋を楽しみにしている気持ちもあった。


 今日から自分の部屋になるその扉を開けると、そこには自分よりもかなり小柄で、ショートカットの似合う可愛らしい女の子が机に向かってペンを走らせている最中だった。

 柚香が入って来たことに気付くと、その少女――望月蓮華もちづきれんげは顔を上げ扉の方を見る。


――か、可愛い~っ! こんな子と同室だなんて!


 可愛らしいその目とばっちり目が合って、柚香は少し興奮気味になりながらも満面の笑みで元気よく自己紹介をした。


「初めまして! 今日からこの部屋でお世話になります。神崎柚香です。二年A組です。よろしくお願いしますっ!」

「……望月蓮華。二年B組です」

「わ、同い年! しかも隣のクラスだ~! 私今日転入したばっかりで、わからないことだらけで迷惑かけるかもしれないけど、よかったら仲良くしてね、望月さんっ!」

「…………」

「…………望月さん?」

「……あ、えっと、よろしく」

「……う、うん。よろしくね?」


――も、もしかして最初からテンション高すぎて引かれちゃったかな?


 蓮華の反応が思っていた反応とは違い、柚香は少し戸惑う。

 蓮華はというと、用はもう終わったと言わんばかりにまた机に向かい、ペンを走らせる作業を再開していた。

 まるでもう、柚香には興味ないと言った感じだ。いや、感じというか実際そうなのだろう。


 その後もお近づきのしるしで用意したお菓子を渡したり、片付けしながら学園の話を聞いたり、二段ベッドのどちらがいいかを聞いてみたり、他愛のない会話から生活する上での必要事項まであらゆる話題を振ったが蓮華の顔が柚香に向くことはなく――


――明日頑張ろう! うん!


 と、次の日も次の日もそう思い話しかけるが、その度に撃沈させられる柚香。

 会話もなく、蓮華がペンを走らせる音だけが響く部屋。

 自分は邪魔者なんじゃないか、と柚香は段々と思ってしまい、部屋に帰りずらくなってしまったのだった。


****


「とまぁ、こういう現状でして――」


 一通り話し終えると、柚香は机に突っ伏した。


「てか、とりあえずお前なんかに話しかけられてもそいつは迷惑なんだろ。そっとしといてやれ」


 柚香の話を聞いて思ったことをそのまま口に出す亮太だったが、それを聞いて柚香は大きな声を上げて言う。


「そうかもしれないけど嫌なの! 私は望月さんと仲良くなりたいの! 仲良くなりたいんだってばあああああ!」


 子供のようにわがままなことを言いながら荒れる柚香を見て亮太は「うるせー」と耳を塞いだ。


「ゆずちゃんは、望月さんと本当に仲良くなりたい?」


 創が優しく話しかけると、柚香は暴れるのをやめ、「……なりたい」と小さな声で呟いた。


「……だって、すっごくタイプなんだもん望月さん。それにね、笑ったらきっともっと可愛いと思うんだ」


 理由はともあれ、柚香が蓮華と仲良くなりたいという気持ちに嘘はなさそうだった。


「それじゃ、こうやって逃げてちゃだめだよ。諦めなければ絶対仲良くなれる。僕はそう思うよ」

「創くん……」


 創の言うとおりだ。今の状態では自分が蓮華から逃げているだけで、仲が発展する筈もない。


「さっき言ったでしょ? ゆずちゃんには“誰とでも仲良くなれて人から愛される才能がある”って」


 創の言葉を聞いて、柚香は机から顔を上げて創を見た。


「僕が保証する。だから、頑張ろう? ね?」

「………………よしっ!」

「おわっ!? いきなり立ち上がんなバカ!」


 創の激励が響いたのか、柚香は勢いよく立ち上がった。


「頑張って望月さんと仲良くなって、マブダチになってやる! 見てなさいよ亮太! そしてありがと創くん!」

「どういたしまして。やっぱりゆずちゃんはそうでなくっちゃ」

「お、俺だって別に応援してやらねーわけじゃねーよ!」


 やる気に漲った柚香は、ここから蓮華に猛アタックする日々を送ることとなる――


 

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