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枯れない薔薇



 丁寧に学園内を案内してくれる創に見とれながら柚香は思った。


――ああ、やっぱり何度見ても王子様みたい!


 丁寧に学園内を案内してくれる創、そしてそんな創に見とれている柚香を見て亮太は思った。


――こいつ、何かうさんくさいんだよな……そんでもってゆずうぜぇ! 何早速こんなうさんくさい奴に引っかかってんだよ! やっぱ一緒にここ来て正解だったな……


 そして学園内を案内しながら二人の様子を見て創は思った。


――二人とも、全然僕の案内が頭の中に入ってなさそうだなぁ。


 果たして意味があったのかなかったのかわからないが、一通り学園内の案内を終えた三人は、自分達がこれから過ごすことになる二年A組の教室へと戻り、自販機で買ったジュースを飲みながら一息つく。


「羽鳥くん、ありがとう! すっごく助かった! ほら、亮太もお礼!」

「うるせーな言われなくてもするっつーの。ありがとな」

「どういたしまして。二人も転入初日からお疲れ様」


 にこやかに笑いながら創はミルクティーを一口飲んだ。


――何だろう、ただの缶ミルクティーなのにまるでティーカップで飲んでいるかのような優雅さを感じる……


 柚香は相変わらずそんなことを考えながら創のことを見ていたが、亮太は全く別のことを考えながら眉間に皺を寄せ、元々悪い目つきを更に悪くさせながらじーっと創のことを見つめ、そして口を開いた。


「お前さ、初対面の人間によくこんな親切にできんな? ――何か裏があんじゃねーの?」

「はっ!? よくしてもらっといて何失礼なこと言ってんのよ亮太!」

「だってそうだろ。俺らに優しくするメリットなんてないだろうし?」


 どうなんだ? という様子で自分を見る亮太に、創は困ったように眉毛を下げる。


「メリットも何も、僕は生徒会長として当然のことをしたまでの話だよ」


 創のその発言を聞いて、柚香も亮太も驚きの表情を浮かべた。


「えっ!? 羽鳥くんって生徒会長なの!?」

「ちょっと待て、お前そんな綺麗な顔して生徒会長ってどんだけステータス欲張ってんだよ!? あれか、チートキャラか!?」

「え、えっと……チート?」


 二人の勢いに創は少々たじろぐ。亮太に至ってはけなしているようで褒め言葉だし、創にとってはよくわからない単語も出てきて何て言葉を返せばいいかわからなかった。


「ってことは、羽鳥くんは二年生なのに生徒会長ってこと?」

「確かにな。お前もしかして三年生脅して生徒会長の座奪ったんじゃ……! 実はめちゃくちゃ強かったりすんのか?」

「亮太くんの膨らむ期待を裏切るようで悪いけど、好きでやってるわけじゃないんだよ。誰もやらないしやれないから、仕方なくやってるだけ」

「んだよ。面倒役押し付けられてるだけか」

「残念ながらそういうこと」

「でもすごいよ! そういうの引き受けられるって、簡単じゃないと思う! 私は羽鳥くんが生徒会長のこの学園に来てよかったって今思ったよ」

「――そんな風に言ってもらえるのは嬉しいな。ありがとね。ゆずちゃん」

「そっ、そんな! お礼を言うのは私の方だよ。今日は羽鳥くんに助けられてばっかりだし……」


 創に微笑みかけられて照れている柚香を見て、亮太は少し面白くないようだった。


「てかさ、ゆずはどこでこいつに会ったんだよ?」

「あ、それはね、この学園にすっごく綺麗な薔薇庭があって、恥ずかしながらそこで寝ちゃってたところを羽鳥くんが見つけてくれて……」

「そういえばさっき起こしてくれた救世主とか言ってたな……てかお前ほんとにどこでも寝るんだな! 中学の時もグラウンドで寝っころがってるだけと思ってたら爆睡してたもんな! やべ、思い出したら笑えてきた……」

「うるさいバカ亮太! 変なこと言わないでよ!」

「僕は薔薇庭の管理も任されてるから……まぁほとんど何もやることないんだけどね。でも僕もあの場所が好きでよく行ってるんんだ。そしたら今日は可愛い眠り姫を見つけちゃったみたいでラッキーだったよ」

「ねねね、眠り姫!? 私が!?」

「――おい、お前よく普通の顔でそんな砂糖吐きそうなこと言えんな」


 顔を赤くしながら両手で頬っぺたを押さえる柚香と、さっきまで笑っていたのに真顔になる亮太。

 創はそんな状況でもやはり、涼しい顔をして笑っていた。


「でもほんっとに綺麗だったの! 夢の世界みたいに! 今日の終わりにもう一回見たいなぁ」

「お前昔から花畑とかそーいう乙女チックなもん好きだったもんな」

「うん! でももうレベルが違うっていうか」

「はは。そんなに気に入ったなら、今日の終わりに最後にもう一度薔薇庭に行ってみる?」

「えっ! 行きたい!」

「今度は寝ないようにしろよ眠り姫っていうか三年寝太郎」


 亮太のからかいの言葉に柚香は思い切り亮太の頭をゴンッ! とド突き、亮太はあまりの痛さにその場に頭を抱えて座り込んだ。



****


 三人はその後教室を後にし、薔薇庭へと足を運んだ。

 何回見てもその綺麗さに圧倒され、柚香の目はまたもや自然と輝きを増していく。


「……うーわ。すっげ……これは、想像以上」


 最初はめんどくさそうにしていた亮太も、実際薔薇庭を目の前にすると想像以上の綺麗さに辺り一面をきょろきょろと見回す。


「この薔薇庭は、夢園の象徴でもあるからね」

「うん……これから好きな時にこんな素敵な場所に来れると思うと幸せすぎるよ!」

「にしてもすっげー数の薔薇だな。お前管理してるって言ってたけど、大変なんじゃねぇか?」

「それが、そんなことないんだよ。ここに咲いている薔薇は“特別”だから」

「特別?」


 柚香は首を傾げながら創を見上げる。


「この薔薇庭に咲いている薔薇は、学園極秘の薔薇でね――“枯れない薔薇”なんだ」

「枯れない薔薇? え、ここにあるの全部!?」

「学園極秘って――どうやったらこんな数のそんな薔薇が作れんだよ」

「それは僕も知らないんだけど、学園が出来てからずっとあるこの薔薇庭は、設立当時からずっとこの景色を保ってるみたいなんだ」

「――すごい! すっごくロマンチックな話!」

「まさに“夢の園”でしょ?」


 創はそう言うとふふっと微笑む。

 幼い頃から男の亮太と仲良くしていたからか、お花畑は好きだったものの、おとぎ話とか、少女漫画を読むよりも、亮太と戦隊ヒーローを見ている方が楽しかった柚香。

 でもやっぱり柚香は女の子で、この薔薇庭の話、目の前にいる王子様のような男の子――女の子なら誰もが一度憧れたシチュエーションに、ときめかないわけがなかったのだ。


「あ、じゃあ、学園の中にもちらほらあるあの薔薇も、ここと同じで“枯れない薔薇”なのか?」


 亮太は始業式の時に体育館に飾られていた薔薇のことと、さっき創に学園を案内されたときに所々で飾られていた薔薇のことを思い出した。


「ああ、あれは本物の薔薇じゃないんだよ。“枯れない薔薇”はこの薔薇庭に咲いている薔薇だけだよ」

「えっ? 本物じゃないってどういうこと?」

「――そうだね、“枯れない薔薇”の話のついでに、この夢園学園の伝統話もしちゃおうか」

「おいおいまだ何かあんのかよこの学園には」


 他にどんなロマンチックな話があるのか期待する柚香とは裏腹に、もうお腹いっぱいですと言いたげな亮太。

 

「ここ以外にある学園内の薔薇は、全部“造花”なんだよ」

「“造花”って……紙とか布とかで作るやつだよね?」

「そう。造花だからある意味“枯れない薔薇”でもあるんだけどね。ここにある薔薇と決定的に違うのは“本物”か“偽物”かってこと」


 創が言うに、薔薇庭にある薔薇は学園が生み出した特殊な本物の薔薇で、その他の場所にある薔薇は本物に似せて人工的につくられた偽物の薔薇。


「そして伝統っていうのは、この学園では好きな人に告白する時に相手のことを想って、男子が造花薔薇を創って女子に渡す、っていうのがあるんだ」


 それこそ少女漫画や乙女ゲームでありそうな設定のその伝統に、柚香は創から薔薇を渡される場面を妄想し一人でニヤニヤとしてしまう。


「――いい。すっごくいい」


 妄想が終わったのか、満足そうに柚香はそう呟いた。


「はぁ? めんどくせー伝統だな……いちいちちまちまと薔薇作らされる男子の身にもなれってんだよ。どう考えても女子の方がこういうの作んのうまいだろ」

「確かに、不器用な人にとっては辛いよね。でも強制なわけじゃないんだよ。ただ、そうやって告白すると想いが通じやすいって言われてるんだよ」

「元から通じ合ってたらそんなことしなくたっていいだろ」

「も~! 亮太は夢がないなぁ! 女子だったら男子に一生懸命作った薔薇もらえたらとりあえず嬉しいに決まってるでしょ! それも好きな人からもらえたら……きゃーっ!」

「うるせーな! ――ゆずも欲しいって思うのかよ?」

「欲しいに決まってるよ! せっかくこんな素敵な伝統があるなら乗らない手はないでしょ!」

「……あっそ」

「亮太くん、造花薔薇の作り方と必要な材料は美術室の棚の中にあるからね」

「は、そんな情報誰がくれって頼んだんだよ! バーカ! 誰がそんなめんどくせーこと! 俺はもう帰るからな!」

「え、ちょ、ちょっと亮太! 待ってよ! 羽鳥くん、今日はほんっっっとーにありがとね!」


 急に帰ろうと薔薇庭から出て行く亮太を追いかける柚香は、まだ帰らないのかその場にいる創に振り返って改めてお礼を言う。


「全然気にしないで。――これからよろしくね。ゆずちゃん」

「うん! こちらこそよろしく! 羽鳥くん」

「あ、それなんだけど、ゆずちゃんさえよかったら、“創”って呼んでよ」

「えっ……じゃ、じゃあ、創、くん」


 戸惑いながら、照れくさそうに柚香は創の名前を呼んだ。


「うん。満足。また明日ね、ゆずちゃん」

「……また明日! 創くん」


 お互い手を振り合い、柚香はズカズカと先を歩く亮太の背中を追いかけ、そんな柚香の背中を、創は見えなくなるまで見つめていた。




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