腐れ縁幼馴染
「あああ! やらかした! あんなに誰よりも先に学園に着いて準備万端だったのにいぃぃ!」
「まぁまぁ……大丈夫だから元気出してよ。ゆずちゃん」
まさかの学園に着いているのにも関わらず学園内で始業式を寝過ごす、なんてマヌケなスタートダッシュを決めてしまった柚香は、先程出逢ったばかりの美少年の創に慰められながら下駄箱へと向かった。
始業式どころかHRも何もかも終わっていた学園は、生徒もほとんど下校しておりすっかり静かになっていた。
新しいクラス表を見て一喜一憂するあのざわざわした感じを味わえず(柚香にしてみれば転入生なのでどのクラスでもいいのだが)、しょぼん、としながら柚香は下駄箱に到着する。
するとそこに見覚えある人物がイラついた様子で立っているのを見つけた。
「あっ……亮太!?」
「! ゆず、お~ま~え~なぁぁぁぁぁ! 初日からサボるなんていつからそんな不良になったんだよこのバカ! 高校デビューか!? するなら一年おせーっつーの!」
「ちょ、ちょっと! いきなり怒鳴りつけないでよ!」
「どこ行ってたんだよ! ったく転入早々無駄な心配させんじゃねーよ!」
「……もしかして心配してずっとここで待ってたの?」
「は、はぁ!? 誰がそんなめんどくさいことお前の為に……勘違いすんなよな! お前と俺の親に言われて仕方なくだよ仕方なく!」
「あーはいはい。本当に心配性なんだもんなぁ。別に私一人でも大丈夫なのに」
「初日からすっぽかす奴のどこが大丈夫なんだよ」
顔を合わせるなり柚香と親しげ(?)に会話する創とは正反対で王子様要素の欠片もないくせに無駄にキューティクルな黒髪で目つきの悪さがトレードマークのこの人物は、柚香の幼馴染の真柴亮太だ。
小さい頃から家族ぐるみで仲が良く、物心ついた時からずっと一緒だった柚香と亮太だが、今回柚香の家族が海外に引っ越すことになり初めて離ればなれになることになる――筈だった。
しかし、それを阻止したのは柚香でも亮太でもなくなんと柚香と亮太の両親だったのだ。
亮太の両親も柚香を自分の娘のように溺愛しており、柚香が全く知らない場所へ一人で行くことを心配しまさかの自分の息子も一緒に転入させるという驚きの行動に出る。
柚香の両親も「亮太くんも一緒なら心配ない!」と大喜びしており、本人の意見など全く聞く気もなく亮太の転入は決定した。
半ば強制だったといえど、結局転入を受け入れている亮太を見ると、何だかんだ亮太自身も柚香を心配しているのだろう。
柚香も柚香で、心配しすぎ、なんて言いながらも実際目の前にずっと昔からの顔見知りの亮太がいることに安心していた。
二人は切っても切れない、腐れ縁の幼馴染なのだ。
「――えーっと、口喧嘩はそこまでにしとかない?」
創が二人の間に割って入ると、二人の視線が創へと向く。
「――誰だお前。いつからそこいたんだよ」
「うーん。最初からいたつもりだったんだけどなぁ」
「あ? 何か嫌味な言い方する奴だな」
「それは亮太でしょ! ごめんね羽鳥くん。亮太ってば目つきだけじゃなくて口も悪いの。でもいい奴だよ!」
「おいゆず、お前何勝手なこと言って――」
「亮太くん、っていうんだ? 僕は羽鳥創。よろしくね」
「亮太、羽鳥くんはさっき爆睡してた私を起こしてくれた救世主なの。ちゃんとお礼言って自己紹介して!」
「は、はぁ? あー……起こしてくれてありがとな……って何で俺がお礼言わなきゃなんねーんだよ!? 全然意味わかんねーし!」
「いいから早く自己紹介っ!」
「ああめんどくせえな! 真柴亮太! 以上!」
どこか可愛げのある亮太を見て、創は思わず笑ってしまう。
「亮太くんは、クラスが同じだったよね。教室で見た時からずっとそわそわしてたからどうしたんだろうと思ったけど……ゆずちゃんを捜してたんだね」
「何だ亮太。やっぱり私がいないとダメなんだから」
「バカか! 初日からいないとそわそわもしたくなんだろ! 同じクラスなのに教室こねーし」
「え、じゃあ私亮太とも創くんとも同じクラスなの!?」
「そうみたいだね。一応そこにクラス表貼ってあるから、後で確認しとくといいよ」
「――お前とも同じクラスだったのは全然覚えてなかったけど、一緒なんだな」
「はは。亮太くんってばツレないなぁ。僕は見ない顔だなーって思ってたから。亮太くんも転入生なんだよね?」
「ああ、こいつに巻き込まれてな」
「何が巻き込まれたよ! 亮太が私と離れたくなかったんでしょ!」
「ちげーよ! 巻き込まれ事故だよ! どんだけ幸せな脳内なんだよお前は!」
放っておくとまたずっと口喧嘩していそうな二人を見て、創が一つ提案をする。
「ねえ、よければ今から二人にこの学園内を案内するよ」
転入生が二人揃っているから案内するのに調度いい、と創は考えたのだ。
「え、いいの!?」
「――別に、そこまでしてもらう筋合いなんて」
「全然いいよ。早く覚えちゃった方がラクだと思うし。そんな時間は取らせないから、亮太くんも是非、ね?」
「願ったり叶ったりだよ! ありがと羽鳥くん! ほら、亮太も行くよ!」
「……ったく、まぁ、よろしく」
柚香にぐいぐいと腕を引っ張られ、亮太もここは素直に創の提案を受けることにした。
「――ねえ、二人って顔見知りみたいだけど、どういう関係なの?」
創の質問に、二人は声を揃えて即答する。
「「ただの腐れ縁」」
「うん。すっごく仲良しコンビってことは分かったよ」
それじゃ行こうか、と創は満足げに笑いながら二人を案内する為先頭を歩き出した。