プロローグ
薄暗い部屋で、少女が泣いている。
泣くことしか知らないみたいに、ただずっと泣いている。
部屋が明るくなっても、今みたいに薄暗くなっても、そして真っ暗になっても。
同じ部屋で、ずっと。
そんな少女の元に、どこからか不思議な雰囲気を纏った美青年が突如として現れた。
青年は少女をじっと見つめながら
――やっと見つけた。
とでも言いたそうに微笑んだ。
一方少女はというと、急に現れた青年に驚くこともなく、泣き腫らし、泣き疲れた目からまた涙を流しながら青年を見返した。
「貴方のその絶望した瞳から、強い願いを感じてやって来ました」
青年の綺麗で妙に心地よいその声が、今まで少女の泣き声しかしなかった部屋にまるで響くように聞こえる。
「私でよければ、貴方の願いを叶える手助けが出来ると思います」
その言葉を聞いて、虚ろな目で青年の方を見ていただけだった少女の体がピクリと反応する。
「……本当? 何でも、叶えられる?」
やっと開いた少女の口から出たものは、もう何かにすがることしか出来ないあまりにも悲痛な声だった。
「ええ。そもそも私は、強い強い気持ちで願っている人の元へしか現れませんから」
その悲痛な声を優しく包んであげるように、青年は少女へ続けて語りかける。
「私が現れた時点で、貴方は願いを叶える権利を得ているのです」
一体この青年は何者なのか。どこからやって来て、自分の何を知ってこんなことを言っているのか――しかしそんなことは、少女にとってはどうでもいいことでしかないのだ。
だって彼は言っている。願いを叶えてくれるのだと。
それが本当だったら、もう他のことなんてどうでもいい。
「……どうすれば叶うの? 何でもする。何でもするから……っ!」
「何でもなんて――貴方はただ、この砂時計をひっくり返すだけでいいんですよ」
青年はいつからか手に持っていた綺麗な青い砂の砂時計を少女へ差し出した。
「これをひっくり返すだけで、貴方の夢は――願いは叶います」
「…………」
少女は数秒間、受け取った砂時計を見つめると、それ以上青年に何かを聞くこともせずに、何の躊躇もなくそれをひっくり返した。
その迷いのなさに青年は少し驚きながらも、クスリと笑う。
――貴方の願いは叶います。
「……そう、砂が落ちている時間だけは、絶対に……ね」