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プロローグ 旅立ち……?



 “剣術”

 有名な剣士に教わった剣術であれば、その事実だけでもてはやされ、完全に習得しきればドラゴンさえ倒せると言われていた。

 我流であろうと、剣さえ持っていればそれだけで舐められることはそうそう無い。


 “魔法”

 それは空気中に漂う魔素を利用して人為的に起こす自然現象。

 誰もが魔法の習得に憧れ、そしてその大半が習得出来ずに挫折する、高度な技術。


 どちらもこの世界では特に重要視され、剣術の腕や使用魔法の種類によって優劣すらつくことがあるである。


 強力な剣術を習得している者は単純に強く、一対一の戦闘ならば魔法使いにも勝る。

 強さだけを追い求める者は山籠りをしたり、どこかにあるとされる剣の聖地を探して旅に出たりする。


 強力な魔法を扱う者は国のお抱え魔法師になったり、またはギルドに加盟し依頼を受けて名を売る者もいる。

 強力な魔法を扱う者はただ強いだけでなく、万能であり、何でも出来るという事実からギルドには非常に重宝される存在だった。


 しかしもう一つ、不人気ながらも確実に受け継がれてきた能力があった。


 “具術”

 武器、防具などの作成から使用までを含めた、基本万能な能力であり、しかし剣術や魔法と比べれば圧倒的に人気が無く使用者も極端に少ない。


 そしてこの世界に生きる者であれば誰もが一度は聞かされ、目指す場所があった。


 ーーーそれは夢の塔、『ダンジョン』と呼ばれる天空に向かってそびえ立つ二つの塔だった。



 ・・・・・・・・・



 都市アルカス。

 気温、湿度、立地。どれを取っても非常に住みやすいことで有名な世界でも有数の大都市だ。

 だからこそ落ち着いて日々を過ごすことを目的とする人々が多く、ギルドはあっても冒険者が少ない所だった。

 他の都市に比べれば老人が多く、子供も多かった。


 しかしアルカスの住民の中でもたった二人、名の知れた冒険者がいた。


 一人目はルードス・ガラン。

 冒険者にとって必須な武器を作る鍛治師、その中でも勇者の聖剣を鍛えたとされる世界一の鍛治師と呼ばれる男である。

 更に体も鍛え上げ、名の知れた格闘家でもあった。


 二人目はメリア・ガラン。

 元々は魔法の才能溢れる女性だったが、ルードスと出会い、ルードスの作る針や短剣で戦う具術使いとして名を轟かせた才媛。

 魔法使いとしても広く名が知れた冒険者である。


 二人は夫婦であり、息子が一人いた。

 彼の名前はユウ・ガラン。

 二人とは違い格闘家としての才能も無く魔法の才能も無いが、とても聡明で優しい少年だった。

 そんな少年でも、誰もが目指すように“ダンジョン”を夢見て、両親から強くなるための教育を受けていく。



 そして今日、彼は十五歳になり、ついに両親のいる実家から出ることになった。


「それじゃ、行ってきます」

「おう、行って来い!俺たちの息子なんだからビクビクしてんじゃねぇぞ!」

「俺だって親父にいつもボロボロになるまで鍛えられたんだし、今更ビクつかないよ」

「ガハハハ!そりゃそうだな!俺と比べりゃ、ギルドの連中なんて雑魚だもんな!」

「こら、あなた!そんなこと言わないの!……まあ、確かに私の夫が世界で一番なのは事実だけど……」

「いや、お前だって世界一の女だろ?」

「あなた……」

「メリア……」

「い、行ってきます」


 結婚してからもう二十年は経っているというのに今でも熱々な二人は、大人となったユウにとって見ていられるものじゃなかった。

 早々に目を逸らして家から出て行く。


「ーーーはぁ、気持ちいいな……」


 空気をいっぱいに吸って前を見据える。

 周囲は畑が広がり、道の向こうには商店街が見える。

 天気は晴天、雲ひとつなかった。神がユウの門出を祝っているかのように思えた。


 これからユウは一人で暮らして行く。

 ギルドに加入して金を稼ぎ、アルカスを出て目指すはダンジョン。

 とにかくこれからは一人で生きていくことになる。


「えっと、まずはギルドに入る。そんでもって依頼を受けて、ダンジョンがどこにあるのか聞いて……そういえば俺って親父と母さん以外と話すのっていつぶり……?」


 自分がコミュ障である可能性に気付いたユウの心は不安で溢れてくる。

 そう、ユウが両親以外と会話をするのは実に二年ぶり。最後の会話は、家に立ち寄った冒険者との別れ際の「さようなら」だった。

 ユウはそれを思い出すと頭を抱えたくなった。


「それって最早会話じゃなくないか?会話ってたった一秒で済むもの?だとしたら俺は今まで大量に会話をしてきた。コミュ障なはずはないな、よっしゃ。……ってそんなわけあるか!」

「家の前でいつまでそうしてんだ。決意持って出てったんじゃねぇんか!」

「親父と母さんのせいで決意を持つ余裕なんてなかったよ!」

「おうおう、親のせいにするったぁ、鍛え方が足んなかったな!構えろやぁ!」

「あぁ!分かったよ!もう行くよ!」

「おう!たまには帰って来いよ!」

「分かってるよ!」


 ルードスはユウの背中を強く押す。

 そこには父親が息子を見送る時の、何か特別なものが含まれているように感じた。

 メリアが家の扉から出てきて大きく手を振る。


「あと九ヶ月くらいでユウもお兄ちゃんね。気をつけて行ってらっしゃい」

「うん、行ってきま……す?」


 ユウは立ち止まり、今聞いた事を思い出す。何かおかしな事を聞いたような気がしていた。


「俺がお兄ちゃん……?あと九ヶ月(・・・)で……?」


 ギギギ、と首を両親の方に向ける。その目はただただ驚きに満ちていた。

 口を半開きにしている息子を見て大笑いしているルードスの腕はメリアの肩に乗っていて、メリアは顔を赤くして年甲斐もなく頰を手を当て、くねくねしていた。


「私、妊娠したの」

「もちろん俺の子だ!」

「へぇー………えぇぇぇぇぇぇ!?」


 ユウの旅立ちはとにかく驚きでいっぱいの旅立ちだった。



 ・・・・・・・・・



「まったく、あんな大事なことを家を出る日まで黙ってるなんてうちの親は……。妊娠期間って大体十ヶ月くらいだよな?じゃあもう一ヶ月経ってるのか。いつの間に作って……いや、考えないようにしよう」


 両親の子作りの場を思い浮かべてしまいそうになったユウは、なんとも言えない嫌な気持ちになりながら思考を停止させた。


「しかし俺がお兄ちゃんかぁ……」


(弟だろうか、妹だろうか。弟もいいけどやっぱ妹の方がいいよな。めちゃくちゃ可愛いんだろうなぁ、早くその日になんないかなぁ。絶対に産まれるまでには帰ろう。そうしよう)


 既にギルドがある商店街に入ってユウだが、普段あまり見ない景色よりも妹(もしくは弟)のことで頭がいっぱいだった。

 自分がシスコン(もしくはブラコン)になることを予期するユウの表情はニヤけて、通行人には不気味がられていた。


 周囲を見ずともユウの足は自動でギルドへ向かって歩いていく。

 しかし残念なことに自動なのはギルドに向かって歩くことだけであって、人通りの多い道でぶつかるのを避けることはできなかった。


「痛ぇな!んだこのクソガキ!」

「えっ?」

「『えっ?』じゃねぇよ!テメェが今この俺様にぶつかりやがったんだよ!許せねぇ!」


 ようやく状況を理解するユウ。

 つまり、ガラの悪い冒険者に絡まれたという状況を理解した。

 しかしユウは自分が注意していなかったことも悪いと分かっている。

 「どんな人に対してもちゃんと対応を」がメリアから教わった教訓の一つだった。


「すみません、ぼうっとしてました。何か壊れたりは……」

「あぁ、壊れたよ!」

「えっ……。本当にすみませーーー」

「この俺様の左腕がなぁ!」

「……なるほど」


 瞬時に理解。

 どう見ても打撲すらしているようには見えない男の腕と、表情を見てため息をつく。

 家を出るにあたって、両親からよく聞かされていた気を付けるべき事の一つが、早くも起きたのである。


「……かつあげ?」

「へっへ、よく分かってんじゃねぇか。怪我したかなかったら金渡せや」

「いや、最後まで慰謝料を要求しろよ!わざわざかつあげって認めるもの!?」

「良い突っ込みじゃねぇか。突っ込ませてやったんだから金払え!」

「何言ってんの!?」

「払わねぇなら力づくだ!」

「えぇ!?」


 拳を振り上げる男は、一応冒険者らしい筋肉を持っていた。

 まるで筋肉を着ているような男の一撃は、確かに一般人が食らったらただじゃ済まないかもしれない。

 しかしユウには自信があった。格闘家である父の教えを受けた自分なら、大丈夫だと。


「ふっ!」

「なっ、この野郎!」


 確実にその拳を目で捉え、そのまま背負い投げの形に持っていく。

 そこまでの動きは流石と言えるもので、ユウが瀕死状態まで殴られると思っていた傍観者達も、驚きで目を見開いていた。


 が、しかしーーー


「うぐっ……」

「チッ、驚かせやがってクソガキがぁ!死ねやぁ!」

「まっ、ストッーーーぐへぁっ!」


 あまりにも力が無さすぎて投げきれなかったのである。

 ただ密着するに止まった状態で男が何もしないはずはなく、掴まれている方とは別の拳でユウを殴る。

 もろに食らった自信過剰だった青年は、転がりながら逃げようとするが男に捕まり、右に、左にと今度は両拳で殴られ続ける。

 さっきまでと変わらず通行人は見て見ぬ振りをし、ユウは男が満足するまで殴られ続け、最終的に財布も盗られてしまった。


「………………虚しい」


 仰向けに倒れていても誰一人として介抱してくれない事と、無一文になった現状に、ただただ虚しさを感じるユウだった。


「はぁ、やっぱ俺には親父みたいに戦うのは無理なのかな、ダメージを流すことしか出来ない。……ったく、無一文になっちゃったじゃんか……なーんてね」


 ユウは、最初から最後まで見ていた傍観者達が目を見張るほど元気よく立ち上がる。

 彼らは全員、ユウが病院送りになることを予想し、それだけのダメージを受けたと思っていた。

 しかし実際はすぐにギルドへ向かう程元気だった。


「実はちゃんと少しは隠してましたー」


 カードの裏ポケットから千アース出す。

 ちなみにアースとはこの世界の金銭の単位であり、一円は一アースとなる。


「これだけあればギルドに加盟くらいできるかな。加盟にお金がかかるのかは知らないけど」

「やっぱまだ残してたのかよ。それも俺に寄越せや!」

「あっ、さっきのかつあげ」

「俺を騙そうとするなんざ百年早ぇぇ!慰謝料払えや雑魚ガキィ!」

「慰謝料やらのこと今の今まで忘れてたし、むしろ今度は俺が慰謝料を要求したいんだけど!?」

「なげぇ!」


 男はさっきと同じように、拳を振り上げて殴りかかってくるが、ユウはさっきとは違った。

 今度はさっきのような自信など見せずに、次に起こることが分かりきっている、当然であるような様子でポケットから一般の針を取り出す。

 そして正確に男の拳に投擲する。


「いってぇ!」

「毒が塗ってあるから、今すぐ医者にでも見てもらったほうがいいよ」

「なっ……!クソこの野郎!覚えてやがれ!」

「小物感ハンパないな!?……まあ、毒ってのは嘘だけど」


 ユウが投げたのは長さはそこそこあっても、太さはない。よほど上手く狙わない限り、男が叫ぶほどの痛みはないはずなのだ。

 男の性格から、そう言っておけば逃げ出すだろうと予想していたのだ。


「よしっ!これで最後のお金も防衛完了!それじゃあ満を辞してギルドに行きますか!」


 誰に向かってでもなくそう言って歩き出す。

 傍観者達からはユウのことを力の底が知れない実力者と噂され、通りすがりの冒険者達からは“具術使い”と言われて馬鹿にされていた。


 どちらにせよ、ユウを弱者と馬鹿にするものはいなかった。



 ユウ&ユキの二作品目!

 きっと面白くします!是非ご覧ください。

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