既知と未知とキムチ
日本人は、外国人と比べバットの平均サイズが小さいとされる。
短小のほうがチン善試合の際に面倒が少ないと言っても、自らの息子が大きいほうがいいと思うことは男の性なのだろう。しかし、その日本人は短小という常識を塗り替えた男がいた。
その名も、豊臣秀吉。
秀吉は民衆から下の刀狩りと称して刀や槍、矢などを回収しイッキを封じるとともに、回収した刀等を素材に大ブツを作りあげたのだ。
小さな物でも積み重なれば一つの武器となる。それを証明したのが秀吉だった。
しかし、その積み重ねた経験が通用しない場合も当然存在する。その時人間はどういった状態になるのか────その答えを、屋旧宇達二人が如実に表しているといえよう。
「こっちは駄目だった。珍々入のほうはどうだった?」
「こっちも駄目ですね。未知の言語で話していて会話になりません」
屋旧宇達は義務教育を受けているため、大抵の国の言葉は話せるし理解できる。なのだが、やっとの思いで見つけた村ではその外国語知識が全く意味を成さなかった。
「建物も見たことがない造りですし、まだ発見されていない秘境かなにかでしょうか」
体子が意見を述べる。しかし、屋旧宇にはこの地が秘境とは思えなかった。
その根拠は、先日撃破した謎の野球戦士、ダブリューにある。
「でも、あのダブリューって野球戦士は日本語を喋ってた。他の人が喋れないのに、あいつだけ会話ができるのはおかしい」
それは当然ともいえる疑問だった。
秘境の人間、それも一人だけが、日本語を喋り野球を行使するということがあるだろうか。いや、ない。
日本語と野球という既知と、知らない言語という未知。この二つが合わさり、屋旧宇の頭はパンク寸前だった。
頭を抱える屋旧宇に、一人の老人が声をかけた。
「もし、そこのお方」
突然日本語で話しかけられ、二人は思わず声の方向に顔を向ける。
「あなた方はもしや、地球人ですかな?」
地球人。
その単語を聞いた屋旧宇は思わず老人に詰め寄った。
「地球人……って、どういうことですか!? それに、ここは一体……」
「まあ、落ち着いてくだされ。焦っていては知識が頭に入りませぬぞ」
老人にそう嗜められ、屋旧宇も深呼吸をし冷静さを取り戻す。
そうして冷えた頭に、老人の声が耳に届く。
「私があなた方と同じ言語を話せる理由は、あなた方と同じ地からきた人間──地球人が、以前にもなんどかこの地に現れたからにございます」
なるほど、と体子は思う。
それならば、ダブリューやこの老人が日本語を話せることも、野球が存在することにも説明がつく。
屋旧宇達は、プロ選手の試合によって空間が歪み外国に跳ばされたのだろうと思っていたのだが、事態は想定より深刻だったようだ。
「しかし、よくないですな」
「よくない、とは?」
体子が聞き返す。
すると老人は緊迫した表情で言う。
「この村は王国における最前線に近しい場所。魔王軍────人類の敵が攻撃を仕掛けてくることも予想されます。すぐにでも村を離れたほうがよろしいかと」
しかし、老人の忠言はあまりにも遅すぎた。
それを、突然村の周囲に出現した濃厚すぎるホモの気配で、いやでも理解させられた。
「この気配は、ホモビ男優……!?」
地球には、ホームインモンスタービッネイという野球の大会が存在する。
その大会の男性部門優秀者を、ホモビ男優と称するのだ。
「あらあら、少しは野球をかじった子がいるみたいねえ」
ホモビ男優と同等の気配を有するその声の主。声がする方向に振り向き、二人はさらに驚愕した。
「あら、キリンが珍しいのかしら?
そんなに見られると恥ずかしいわねん」
その声の主は、キリン。キリンが服を着て立っている。
その表現がこれ以上なくふさわしいほどに、その声の主はキリンだった。
「ッ……珍々入!」
屋旧宇の言葉にハッと正気を取り戻した体子は、キリンに向けて全力の投球。
脅威の身体能力を誇ったダブリューにすら重傷を与えた一球が、キリンに向けて凄まじい速度で飛来する。
だが、その渾身の一球が、キリンに傷を負わせることはなかった。
「ふう。少しだけ驚いたわん」
体子が投げたボールは、キリンに当たる直前にキリンの尻の穴に吸い込まれたのだ。
「それじゃあ、次はこっちの番よ」
驚愕から立ち直れない二人に構わず、そのキリンは大口を開けた。その瞬間──────
白い閃光が迸り、王国最前線の村、ドエムラ村は壊滅した。