思いの外恵まれている彼女
彼女は決して、「自分が世界で一番不幸」などと思っているわけではない。
彼女は他人に対して興味がない。他人の幸福も、不幸も。まるで興味がない。彼女は自分自身のことで頭がいっぱいである。他にかまっている暇なんてない。他所様のことなんかどうでもいい。
人のことなんかどうでもいいし、興味もない。どんなことがあろうと完璧無関係他人事である。
人の不幸は彼女からしてみればそんなの不幸のうちに入らない。当たり前の幸せがあるように、当たり前の不幸がある。その程度のことである。幸か不幸か。すべて平等である。
入学式。この高校は私の姉が通っていた有名な女学校。今は共学化されているが女子の比率がとても多い。
この学校に入ってくる男子は全員ハーレム目当てなんじゃないかと思う。別にどうでもいいけど。
はー、くだらないくだらない。どんだけ盛ってんだよ。
「瑠莉ッ!」
背後からやかましい声が聞こえる。
「朝っぱらからでかい声出すなよっ」
「ごめん。ごめん。顔も知り少ないから、お前を見つけて嬉しくなってさ・・・」
キモいこと言うな。
この頭の悪そうな男は勇気。幼馴染の一人。
やたらと私に絡んでくる。鬱陶しくてたまらない。
「なんでいんの?」
「はぁ?なんでって今日からここの学生だよ!同じ高校に通うって言っただろ?」
「ちげーよバカ。なんで私のそばにいんの?って聞いてんの」
「なにツンツンしてんだよ。俺とお前の仲だろ?」
どんな仲だよ。ただの幼馴染だろ。良いからほっとけよ。
「つーか、お前さ・・・」
ウゼェなこの餓鬼・・・。
「その制服何?」
今更気がついたのかよ鈍臭いヤツだ。
「お姉ちゃんの御下り。旧制服。」
私には8つ離れた姉がいる。姉がこの高校に通っていたときの制服だ。共学化されてから制服のデザインは一新された。
「目立ちすぎじゃね?」
「これしかないの。少しでもお金貯めないと」
勇気はそれ以上何も言わなかった。
悪目立ちしているのは分かっている。でも、それは仕方がないこと。
大好きなお姉ちゃんが着ていたこの制服。デザイン的にはかなり気にっている。
古い割には状態がとても良い。サイズがゆるゆるだけど・・・。そのうちぴったりになるだろう。
「なんか制服に着られてるなお前」
ちょ・・・、お前言ってはイケないことをサラッと・・・。
「次言ったら殺すから」
「冗談だよ。ごめんごめん」