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第9話 夢:(3/10)

「なるほど、やはりそうか! 君は、水瀬エリのお兄さんなんだな! エリに兄妹が居たなんて初耳だ。ずっと一人っ子だと思っていたぞ!」

「えっと……エリちゃんは、僕のことを話していなかったんですか……」

「うむ、あまり自分のことは話さない寡黙な子だからな。まあ、またそこが可愛い所でもある!」


 草を掻き分けながら歩き進んでいたモエカが、納得したように頷いた。後ろを着いくショウも歩きながらモエカという人物が何となく分かっていく。ついでに清白モエカの年齢は十八歳と、ショウより三つ年上の高校生だそうだ。


「清白さんは、エリちゃんが通ってる剣道道場の先輩なんですね。いつも妹がお世話になっております」

「いやいや、お世話なんてとんでもない! 一人っ子の私にとって、道場内でエリは妹分みたいなものでな。いつも可愛がらせて貰ってる。それにいつもエリには驚かされてばかりだ」

「驚かされている? 何か妹が迷惑でも!?」

「違う違うそうではない! 彼女はとても熱心に練習を取り組んでいる。他の門下生や師範代も一目置く程にな。それに……」


 モエカは、左腕に巻かれた黒い包帯を擦る。


「エリには羨ましいぐらいの才能がある。同年代の子達……いや、中学生達では太刀打ち出来ない程に強い……」

「そ、そんなにですか?」

「ああ、本当だ。私や大人達も油断していたら負けるかもしれないぐらいだ。神童とか武道の神と書いて武神ぶじんのエリなんてアダ名まで付けられているぐらいだ」


 ショウは複雑な表情を浮かべる。

 昔からエリが喧嘩に滅法強いことは知っていた。ショウは昔近くの公園で喧嘩をしたことあるが、真っ向勝負でやられてしまったのだ。原因は忘れてしまったがショウはそのことを少し引きずっている。

 だがモエカの話を聞いて、エリの強さがある種の才能的な物であることを聞き、なるほどと言った妙な納得感を得られた。

 ショウがあまり思い出したくない思い出に浸っていると、モエカは小さな溜め息を漏らし自身の左腕のを見つめる。


「私も早く復帰しなくては、エリに追い抜かされてしまう。この夢の中みたいに直ってくれないものか……」

「……」


 先ほどから左腕の黒い包帯を異様に気にしているモエカに、ショウは違和感を覚える。そして、モエカ自身ここが夢の世界であることに気付いている様子も気になっていた。

 出会ってまだ数分しか経っていない人物に、いろいろ訪ねて良いものなのかと彼は少し躊躇する。しかし、好奇心には勝てなかったショウは、しばらく考えた後にモエカに質問した。


「清白さん」

「ん?」

「清白さんは、ここが夢の中であることが分かるんですか?」


 ショウの質問に、モエカは笑顔を作り頷く。


「ああ、何故かここが夢の中だってことが分かる。理由はよく分からないんだけどな。君も分かるのか?」

「は、はい、僕も理由とかは分からないのですが、ここが夢の世界で変な力が使えるようになっていることが何故か分かるんです」

「変な力?」


 モエカが聞き返すと、今度はショウが頷き黒い包帯の巻かれた右手を見せる。すると、右手がうっすらと光の文字が浮かび[剛腕]と二文字の漢字が浮かび上がる。


「僕の手にこの文字が浮かび上がって以来、とてつもない怪力が出せるようになりました。重さを全く感じないので何でも持ち上げたり、投げ飛ばせるようになりまったんです」

「ほお、それは凄いな! そう言えば、私が君を助けに行く前にも、すでに一匹倒していたな。やるではないか水瀬(あに)!」

(み、水瀬兄か……)


 肩をポンポン叩かれる。どうせ夢の中の出来事なんだよなと思いつつも、女性に誉められて満更でもないショウであった。


「私も君程の凄い物ではないが、変わった力が使えるみたいだぞ」

「え? 清白さんも?」


 彼が聞き返すと、先ほど恐竜達を蹴散らした腰に差してある刀を取り出す。そして、左腕に巻かれた黒い包帯も光を発し、[剣心]という文字が浮かび上がる。まるでショウの右手と同じような力に思えた。


「……剣心けんしん?」

「ああ、剣心けんしんで読み方はあってるみたいだ。まあ、読み方は君が好きに呼んでくれれば良いんだがな」


 すると、モエカは持っていた刀を鞘から抜き取って見せる。


「この字が浮かび上がっていると、凄く体が軽いんだ。この刀も夢の中なのかとても軽く何でも切れるような気がしてくる。道場で教わっていないような剣技まで扱えるようになった。怪我をしていた自分がまるで嘘のようだ」

「怪我?」


 モエカの発言に、ショウは疑問符を投げ込む。そうすると彼女は黒い包帯の巻かれた左腕を前に出す。


「あー、実はな……恥ずかしい話なんだが、現実の私は学校の階段から転げ落ちてしまって骨折しているんだ。丁度この黒い包帯の部分をな」

「えっ……その包帯の所って怪我をしているんですか?」

「そうだ、女友達が階段から落ちそうになったのを助けたと言えば聞こえは良いが、スポーツをしている身分で受け身も取らずにいたのが悪かったんだ。精進が足りなかったということだな! はっはっは……」


 笑っているモエカだが、どことなく悲しそうな表情を見せた。


「あの、その……お大事にして下さい」

「……大丈夫だ。もう退院直後だから安心してくれ、水瀬兄よ。それにこうして夢の中でちゃんと動き回れている。早く体を動かして復帰したいという願望が夢に出ているのかもしれないな!」


 元気良くストレッチするモエカ。

 そして、彼女もショウに訪ねる。


「君のその右手に巻かれた包帯も、怪我をしたのか?」

「こ、これですか?」


 ショウは自分の右手を改めて見てみる。


「いえ……僕の右手は、怪我をしている訳ではありませんよ。現実ではピンピンしています」


 ほほう、とモエカは面白そうなことを聞いたと腕を組む。


「中々興味深い話しになってきたな……この黒い包帯といい、この奇妙な夢といい、とても不思議だ……とても、これが夢だとは思えないな」

「はい、実はそうなんです」


 ショウは探りを入れていたが、モエカの人柄を何となく察し、意を決して彼女に打ち明けた


「清白さん。実は、今みたいな不思議な体験をするのは、僕自身二回目なんです」

「二回目?」

「そうです。こうして夢の中で、他の人と話をすることがです。この前は妹のエリちゃんと同じ夢を見て、今見ている夢の中みたいに会話をして記憶も共有していました。エリちゃんは、うろ覚えだって言っていましたが……」

「ふむ……」


 しばらくお互い沈黙し続けながら歩いていると、モエカの方から口を開いた。


「確かに、おかしな状況だな。私も夢の中でこんなに意識をハッキリ持っていることなんて初めてかもしれない」

「そうですよね! やっぱり、おかしいですよね! こんな状況普通じゃないですよね!」

「ああ、何かちょっと怖くなってきた。面白い状況でもあるが、夢を覚ます方法も早く探さないとな」


 共感してもらえる人物に出会えて、ショウは嬉しくなる。彼はモエカという人物に好感を持ち始めた。そして、ちょっと得意げになったショウは胸を張り、自分の知っている情報を提供しようとする。


「夢から覚める方法なら知ってますよ! それは、どこかにある扉……」

「よし、任せろ!」


 ショウの話を聞かず、唐突に彼の頬を抓り上げるモエカ。


「いててててて!?」


 当然の事ながら、ショウは悲鳴を上げる。しばらく抓り上げた後に手を離すモエカだが、悪気の欠片も感じていない笑顔を彼に向ける。


「どうだ! 目が覚めたか、水瀬兄!」

「いきなり何するんですか!」

「え? いや、こうすれば夢が覚めると思ったんだが……」


「違いますよ! 扉があるんです! 夢から出る為の扉です! 痛い思いをしてもこの夢は覚めたりしないみたいなんですよ!」

「そ、そうだったのか……すまなかった。痛かっただろ?」


 申し訳なさそうに、モエカは彼の頬を優しく撫でる。暖かく柔らかい異性の手に、思わずショウは飛び退いてしまう。


「だ、大丈夫ですから!」

「そ、そうか?」


 彼は赤面を直す為に顔を拭おうとするが、モエカを嫌っていると勘違いされるのではという考えに至る。やり場を無くした頬の熱は彼女からそっぽを向いて隠すことにした。


「と、とにかく! 扉を探して夢から覚める手段を先に手に入れましょう! 僕自身は、もう少しこの夢世界を調べたい気持ちもありますが、まずはそれからです。しばらくは、扉を探すため一緒に行動したいのですが、良いですか清白さん?」

「うむ! 分かった! これからよろしく頼むぞ! 水瀬兄……いや……」


 そっぽを向いていたショウの肩をモエカは掴み、くるりといとも容易く体を反転させ、無理矢理お互いに向かい合う。


「え!? な、なん……」


 不意を突かれたとはいえ、簡単に自分の体を操作され動揺するショウに対しモエカは両手でガシッと彼の両肩を掴む。


「これから私達は背中を預け合うパートナーだ。そこで提案だ。これからはお互い下の名で呼び合おう」

「へ? あ、ああ……僕は全然か待いませんけど」


 すると、モエカはニッと笑う。


「そうか! なら、これからよろしくな、ショウ!」

「は、はい! よろしくお願いします! 清白さん!」

「下の名だと言っただろ!」

「は、はい! え、えーっとモ、モエカ……さん」

「さんは、いらない! 呼び捨てにしろ!」

「い、いや、それはちょっと……僕、年下なんで……」

「そんなもの気にするな! 同じ十代ではないか! 四捨五入してしまえば良いのさ! さあ行こうではないか、我が相棒!」


 モエカにガシッと肩を組まれるショウ。右に左に揺れながら二人は前進していくが、モエカの胸も彼の二の腕に押し当たり、悶々しながら一行は先へ進んでいくのであった。

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