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第8話 夢:(2/10)

「はっ……」


 緊張していた拍子で驚いてしまったショウは、手で後ろの存在を感触で確かめ目視した。そして後悔する。それはただそこに佇んでいた木であったことに……

 彼の一瞬の隙を見逃さなかったラプトルは、一気に間合いを詰め寄り彼の二の腕を小さい前足で掴み取る。


「し、しまっ……」


 ショウは勢い良く押し倒され、思いっきり地面に背中を叩きつけられる。


「うっ!?」


 肺の空気が一気に口から吐き出される。痛みが背中からジーンと広がっていくが、それに構っている暇なんてなかった。

 マウントポジションを取ったラプトルは、勝ち取ったとばかりに一鳴き上げ、彼の瞳を見つめ唾液を垂らしながら大きな口を開く。


「う、うわあああああああ!」


 ショウは何とか足掻こうとするが、前足に生えた爪は彼の腕の肉に食い込み離そうとしない。今度は大口を彼の首元に近づけていく。息の根を止めようとしているのだ。


「クソ! 離せ! 離せ!!」


 死の恐怖に直面したその時だった。

 彼の右腕の包帯が光り輝く。

 そして、右腕に[剛腕]という文字が浮かび上がった。


「これは!」


 彼は思い出す。そう言えば、この前の夢の中でも同じことが起きていたことを


「離せ!」


 右腕に力を入れると、まるで何にも束縛されていないかのように腕が持ち上がる。すぐさま右腕はラプトルの首を掴んだ。


「退けええええええ!」


 掴んだ首を横へと投げ飛ばすと、玩具のようにラプトルは吹き飛ばされる。そのまま近くにあった木に体を叩きつけられゴムのように体をしならせる。断末魔を上げた後に地面へと崩れ落ちたラプトルはピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった。


「ハァ……ハァ……」


 命の危機を脱したショウは、息を整える。襲われた恐怖心と生き物を殺してしまったかもしれないという感覚に、心の整理をつけようと立ち上がる。

 だが、これで終わりではなかった。


「ッ!?」


 茂みがまた大きく揺れる。そしてすぐさま四つの眼孔がんこうが現れる。それは全く形状が同じ恐竜ラプトルが二匹飛び出してきたのだ。


「うわっ!?」


 不意を突かれたショウは、何の体制も取れなかった。


「少年!! 後ろに下がれ!!」


 彼の後ろから、良く通った女性の声が聞こえた。気が動転していたショウもその声が耳に入り、何とか一歩半程後ろに下がれた。

 すると、後ろから人一人分の陰が横切る。

 綺麗な黒髪を後ろ手にまとめ、鞘さやを腰に携え、左腕に黒い包帯を巻いた女の人であった。

 彼女は姿勢を低くし、恐竜達の懐に飛び込んでいく。

 そして、鞘の中に収まった刀を掴み。


「セイヤッ!!」


挿絵(By みてみん)


 肺の中の空気を一気に抜き取るような掛け声と銀色の軌道と共に、刀を横一文字に抜き払う。

 飛びかかった恐竜達は彼女を飛び越え、ショウへと襲いかかろうとするが――


「――ッ!?」


 鳴き声にもならない声を漏らし、二匹とも胴に一線の閃光が走る。恐竜達はスパンという音と同時に、上半身と下半身が綺麗に切断出され、人形が二つに割れてしまったかのようにボトボトとショウの後ろを転がっていった。





 彼女は刀を納め、切り捨てた恐竜を見つめる。辺りには血液などが飛び散っておらず、恐竜からも血が吹き出してはいない。


「……やはり、ここはおかしい。切った手応えは感じるのに、血がまったく付かない……腕もちゃんと動くし、ここは夢なのか?」


 ショウを助けた綺麗な黒髪の女は、刀の刃をじっくり眺めた後、ゆっくりと鞘にしまった。


「あの……」


 切られた恐竜達はあまり見ないようにして、ショウは彼女に話しかける。すると、彼女もショウの掛け声に気付く。


「ああ! すまない、忘れていた! 怪我はないか少年!」


 すぐさま髪と鞘を揺らし、彼に近づいていく。

 その時、ショウはあることに気付いた。

 助けてくれた彼女は夏用のセーラー服を着ており、ショウの物と同じくボロボロになっており穴も開いている。

 泥だらけで所々破れた制服からは、スリムでしなやかな体の割に片手では収まらない程のブラジャーが見え隠れし、スカートもこれまた薄汚れている上に、健康的なふとももがチラチラと見せつけてくる。

 健全な青少年であるショウには、そのチラリズムが少々刺激的に感じてしまい、頬を赤く染めつつ彼女の顔をまじまじと見た。


「さっきは、すまない。恐竜達の鳴き声は聞こえていたんだが、場所がイマイチ分からなくてな。助けに行くのが遅くなってしまったんだ。本当に大丈夫か? 怪我はないか?」

「か、顔が近い!?」


 ズイズイと、彼女もショウの顔を心配そうに見つめるが、あと十センチ程で唇同士が触れ合ってしまうのではと思えるほど顔を覗き込んでくる。綺麗で整った顔立ちをしていることもあり、ショウは恥ずかしさのあまり直視出来ず、目線を下げるしかなかった。

 だが、それも罠であった。

 彼女の方がショウよりも背が少し高く、目線を合わせる為、前かがみになる。その時にポロシャツ襟から、健康的な肌色の谷間がガッチリ見える。


「あ、あの! 怪我はないんで大丈夫です!」


 ショウは己の理性で男の欲求を押さえ、勢い良く彼女から距離を取る。


「お! その機敏な動きなら問題なさそうだな!」


 彼の気持ちも知らず笑顔を浮かべる彼女は、すぐさま背を向ける。


「よし! とにかくここは危ない。もう少し視界を確保しやすい場所へ移動しよう。着いてこい少年!」

「ちょっと待って下さい!」


 無理矢理連れて行こうと手を引く彼女に、ショウは訪ねた。


「アナタの名前は? アナタは何者ですか!」

「ん? 私の名前か?」


 嫌な顔を見せず、寧ろ自信を感じさせる笑みで彼女は答える。


「名乗る程の者ではないが、私の名前は清白すずしろモエカだ。君の名は?」


 今度はモエカが聞き返す。それに対して、彼は一つ頷き……


「水瀬ショウです」


 と、正直に答えた。

 モエカは、ふと目を少しばかり大きく見開く。


「水瀬……どこかで聞き覚えがあるな……」

「え?」


 彼女は考える素振りを見せるが、首を横に振って真っ直ぐショウを見る。


「とにかく、今はここから離れよう。移動しながらでも話そうか」

「は、はい」


 彼等は恐竜達の骸を残し、この場から立ち去った。

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