第7話 夢:(1/10) 託されしソードハート
「んん……」
ショウは、いつの間にか身体が横になっていたことに気づく。ゆっくりと身体を起き上がらせ、地面に手をついた。手で触った地面の感触はひんやりとして少し湿っており、握りしめるとまるで土のように握った分だけその湿った土と草のように絡んでくる何かを持つことが出来る。
空気も、やたら絡みつくような蒸し暑さを顔から感じ始める。
「……ん?」
ショウは寝ぼけ眼でぼんやりと自分の何かを見てみる。すると手の平の上に泥に近い程柔らかい焦げ茶色の土、緑の葉っぱに黄色い根を剥き出しにした雑草、ついでに何かの幼虫であろう小さな芋虫がウネウネと動いていた。
「うわっ!?」
とっさに持っていた土を捨て、手に付いた土も払いのける。ついでに服や頭などにこびり付いた土を払い落とそうとした時、自分の服装に気づいた。いつもの部屋着として着ているTシャツが所々解れていたり、破けていたり、染みが出来ていたりと、着古したと言うレベルではない程ボロボロになっていた。
ついでに、相も変わらず右手には黒い包帯が巻かれている。
「これは……また夢を見ているのか?」
またしても彼は、自分が夢の中に居るという自覚を持った。
恐る恐る立ち上がり辺りを伺うと、草木が多い茂ったツタが至る所に垂れているのが目に入る。大きく色艶やかな花が羽虫達をはべらせてもいた。
遠くの方からは、草木が擦れる音や猿のような生物の威嚇をしているような鳴き声が木霊してくる。
一言で表すなら、ここは密林だ。
「いったい今度は何の夢なんだよ……というか、いつの間に僕は寝ていたんだ?」
ズボンに付いた土を払い終わり、グッと背筋を伸ばす。
「それにしても、また僕は夢を見ていると自覚している……これは、本格的に何か不思議なことが起きているんじゃないか?」
ショウは顎に手を当てながら悩んではいるが、内心ワクワクしていた。日々学校や勉強に勤しんでいた詰まらない日常を送っていた自分が、今現在不思議な現象に対面しているのだと自覚を持っているからだ。マンガやゲームの中で展開されるファンタジーな世界や頂上現象がまさか自分の目の前に起こり得るとは彼自身思っていなかったからだ。
例え、これが夢の中だとしても、夢の中に居ると認識出来ていることを彼は喜びに感じていた。
口元を緩めてしまう夢見る少年は、ふと気付く。
「あれ? そう言えばエリちゃんは?」
この前のパターンなら、近くに妹のエリも居たのだが、今回は彼女が見当たらない。少し辺りの草をかき分けて見るも、彼女のトレードマークのロングツインテールらしき陰すら見当たらなかった。
そうなると、少年はまた改めて考え始める。
「うーん……この夢の事象……シンクロニティとは関係なかったのか?」
意味のある偶然の一致。
彼は自分が夢である自覚を持ったことと、妹と同じ夢を見た上にお互いが記憶を共有しコミュニケーションを取っていたという偶然……奇跡と言っても過言ではない事象を探求しようとしていた。
だがその最中、肝心の妹がいないことに彼は少し困ってしまう。
「と言うことは……この前の夢は、たまたま同じ夢を見たってことなのか? いや、それにしても話の内容が噛み合い過ぎていたし、今こうして僕は、自分自身が夢を見ている自覚がある……」
頭の中で、いろいろな可能性を浮かび上がらせては消去法で潰していく。その中で、ショウは最も可能性の高い事実が考えついた。
「とりあえず、ここは僕が見ている夢の中であるということにしよう。だとしたらこの前の現象は、僕の夢の中にエリちゃんを招き入れたということなのか?」
彼の考えがドンドン膨らんでいく。
「でも、何でだ? どうやって招き入れたんだ……まさか!?」
考察はやがて妄想へ変わる。
「まさか、僕にそういう特殊な力が宿ったみたいな!? 夢を操る力みたいな!? これは、新たな人類における大発見!? いや、もしかしたらもしかして、ここから能力者バトルみたいな展開になったりするのか!? どうしようワクワクしてきた! とりあえず、自分がどういう能力を持っているのか確かめ……」
一人密林の中で興奮するショウだが、突然近くの茂みが大きく揺れる。
風の揺れではなく、明らかに自身の存在を主張するように揺れた。
「だ、誰かいるのか!?」
妄想にフケりかけていた少年は、夢の中だが現実に戻される。気を抜いていた分、一気に緊張感が高まった。
やがて、茂みの中からそれが姿を表す。背が彼よりも頭一つ分高く、茶色く艶やかにテカる肌に二足歩行でしっかり歩き、小さい前足と瞳に比べて大きな口、口にはサメのように何本もの鋭い牙を生やした生物が、息をゆっくり漏らしながら現れた。
その姿を見たショウは、非常に見覚えのある存在であることに気付く。
「きょ、恐竜!?」
彼は後ずさりしてしまう。
それは、図鑑などで出てくる恐竜の姿だった。そして、その目の前にいる恐竜の種類を彼は知っていた。
ラプトルという小型の肉食恐竜だ。
「これは、確かヴェロキラプトル……い、いやでも、実際はもっと背が低いはずだ……しかも、今は恐竜に体毛が生えているっていうのが主流になって……」
なんてことを言っていると、ラプトルは大きな口を開き、ゆっくりとショウの元へと近づいていく。明らかに襲いかかろうとしていることが見て取れる。
ショウも話す余裕がなくなり、ゆっくりと後ずさりするが……
ドン
と、彼の背後に何かがぶつかった。