第5話 現実:(1/2) 現実世界のサーガ
「……ッ!」
水瀬ショウが勢い良く起き上がると、彼はベッドの上に居た。
目の前には勉強机と家族の写真。親に買って貰ったタブレットや通学用の鞄、しばらく着ていない学生服がある。
彼は、ここがよく見慣れた自分の部屋であることを認識する。
部屋は蒸し暑く、窓の外から強い日差しとセミの鳴き声がうるさいぐらいに夏であることを伝える。
ショウは、ふと自分の右腕を見てみると、いつも通り普通の腕であった。
「……やっぱり、夢か」
汗ばんだ寝間着を摘まみ、皮膚から剥がすように空気を入れ込む。何となく彼は、壁に吊る下がったカレンダーに目を向ける。
「そうだ……今は夏休みだ」
ショウは、ここが現実だと認識したのだ。
水瀬ショウの自宅は一軒家の二階建てとなっており、一階はリビングや台所や洗面所、さらに両親の寝室がある。二階が自室とエリの寝室、さらに物置部屋があった。
ショウが自室から出て、一階のリビングへと降りていくと食器が重なり合う音と、聞き覚えのある電子音がそれぞれ聞こえてくる。
リビングの戸を開けると、エアコンで丁度良い涼しさになった空気が漏れだし、いつも見ている台所に向かう母親の後ろ姿と居間の所でテレビを独占しテレビゲームにいそしんでいるエリの後ろ姿があった。
「……」
エリはゲームに集中し、ショウの視線に気づかない。彼女の目に黒い包帯が巻かれている様子も無く、長いツインテールを垂らしたいつも通りのエリの姿があった。
その姿にショウは、安堵の溜め息を漏らす。
「……良かったぁ」
「何が良かったの?」
後ろから母親に声をかけられる。振り向くと母親がエプロンで手を拭きながら食器をしまっていた。
「おはよう、お母さん」
「おはようじゃないでしょ。もう十二時よ」
時間を確認してみると確かに十二時を少し過ぎていた。
「夏休みだからって寝過ぎよ。夜更かししてるんじゃないでしょうね?」
「してないよ」
「本当に? それとちゃんと勉強やってるの?」
「や、やってるよ」
「あまり遊んでばっかりいると、後で自分の首を絞めることになるんだからちゃんとしなさいよ。分かった?」
「……はい」
うるさいなと思いつつ、食卓の自席に座る。目の前には朝から用意して貰っていたであろう目玉焼きやトーストが並んでおり、これがショウの昼食になる。
「お母さん、これから出かけてくるから洗い物やっておいてね」
「分かった。やっとくよ」
エプロンを脱ぎつつ自室に戻ろうとする母。母が部屋から出ようとした所で、ゲームに没頭していたエリに目を向けた。
「エリも、ちゃんと勉強しなさいよ」
「んー」
やる気の欠片も感じさせない返事を聞き、納得したのか母親は部屋から出ていった。