第1話 夢:(1/4) 夢見る少女の可視スペクトル
暗黒。
少女の目に入ってくる可視光線は、それしか認識していない。
少女の目にグルグルと巻いてある黒い包帯のせいであろうか?
いや、ただ単純に認識しようとしていないのかもしれない。
ここがどこなのか、自分がどこにいるのか、何も見えないでいる。
「……あ」
言葉を発してみると、良く聞く自分の声が耳と臓器と骨を伝い、鼓膜を振動させる。その声は自分の物であることを改めて認識することが出来た。
「……水瀬……エリ」
次は、自分の名を言ってみた。
何もない真っ暗な空間は声を響かすこともさせず、吸い込まれていったように思える。水瀬エリは、徐々に恐怖心が生まれていく。
「ここはどこ? お父さん? お母さん? どこにいるの?」
腰の辺りまで伸ばしたロングツインテールと水色のパーカーを着込んだ年端もいかない小さな身体。彼女は左右に揺らし両親を探す。だが、案の定彼女の両親は見つからない。
「やだ……怖い、怖いよ……お父さん! ……お母さん!!」
少女はその場から動こうとした時だった。彼女の足下からパラパラと丸く小さな緑の粒子が集まっていく。粒子は次第に形成していき、すぐさま雑草に変わる。それだけでは止まらず、地面を伝って増殖し続けた。
雑草だけではない、粒子は茶色や白や多彩な色に変わっていき、土や石、広がって行くに連れて川や木々、遠くの方に山も形成されていく。
「うわっ!?」
エリが驚くのも束の間だった。遠くの方で粒子は青と白が入り交じり、空を形成していった。まるでプラネタリウムの如く、彼女を中心としたドーム状に水色の蓋を閉じていく。
いつの間にか辺りは平原となっており、横から流れる風が若草の香りを運んできた。
「ここは……どこ?」
闇は隠されたが、それでも彼女の孤独感に苛まれた。
彼女は、独りぼっちだった。
「……そうか」
エリは何かに気づいたように呟く。
「ここは……私の世界」
彼女は確信したように自分の手を見つめる。
「なんでも……出来る世界……」
エリはぼんやりしながらも辺りを見回す。
すると、例の粒子達が近くの草原の上で何かを形成していた。
それを見つけたエリは、
「……お兄」
と、一言呟き、粒子の固まりへと近づいて行った。