3話 最果ての龍
冒険者ギルドを出た二人は、そのあと、大通りの道具屋で薬草などを購入した後、宿に帰った。
宿は、噴水広場の三つに分かれる道を左に行ったところにあるらしく、大通りの途中でその道に合流すべく細い小道に入っていった。
宿は安そうではあるものの、ボロボロなわけでもなく、中はきれいにしてあった。
二人は、二階に上がった後、(一階には三つ、二階には四つの部屋があった)階段から一番離れた部屋の一つ手前の部屋に入り、荷物を置くと、キマリちゃんとコロナちゃんのいる一番奥の部屋に入っていった。
「ただいま~」 (ダイス)
「おかえりなさい」 (キマリ)
「おかえりー。今日の昼に作って余った焼いたガーガーと、買い置きしといたパン。」 (コロナ)
「ありがとう。ダイス明日はどうすんだ?」 (ドズル)
ガーガー?見たところ鶏肉っぽいが…野生なのかな。パンが主食か…コメがないのは厳しい。なんか黒っぽくておいしくなさそうだ。
「そうなんだよなぁ。危険なのはわかってるけどさ、収入なくなったらそっちのほうが危険なんだよ。」 (ダイス)
「確かにそれは一理あるわね」 (コロナ)
「まぁ、ギルド行って依頼見て、それから決めよう。」 (ダイス)
パンとガーガーをもしゃもしゃ食いながら話すダイスくん。当の俺は、まったく食べたいと思わない。まずそうとかおいしそうとはなるんだが、おなかがすいてない感じだ。これがいいのか悪いのかは状況によることになりそうだ。
ダイスくんとドズルくんは、食事を終えるとさっさと自分の部屋に戻り、寝てしまった。冒険者というのはなかなかハードな職業なんだろう。
夜。異世界生活の一日目が終わろうとしている。よく見かける表現だが(?)、この言葉はある前提のもとに成り立っている。それは…ここで眠りについた場合です。
俺は、影。そのせいか、まったく眠くならない。
そう。ここからは俺一人の時間だ。冒険者のあとをつけて色々見るのも楽しかった。が、いろいろ試したいこともあるしな。外へ行くぜー!
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村の外れに来た。俺が村に入った時にあった噴水広場の大通りをずーっと行くと、村を抜けることができる、見事な草原。ここなら周りの目を気にしなくていい。
まずは、魔法だな。この世界のシステムがわからないので、とりあえず、キマリちゃんがやったともし火をイメージしてみる。
火だ。暖かくて優しくて、みんなの笑顔をてらす明るい存在…
ぼわ…
体(存在しないけど)が暖かくなる感じがし、まばゆい光があたりを照らす。
おお!できた!俺にも使えたぜ、魔法が!こんな簡単でいいのか?ま、まぁ感動するな…
しかし…明るすぎやしないか?これじゃあ、ともし火というより太陽なんだが…
まて、このままじゃ村の人が気づいちまう!
想像しろォ…もっとほのかな光だ。抑えるんだ…!
日の出かってほど明るかった光は徐々に、暗くなっていき、ついにともし火程度の明るさになった
ふぅ…なんか才能あんのかな?魔法使うの危ない気がしてきた。まぁいいや!どんどんいこう!
魔法ってのはよするに想像力だろ?考えろぉ…なんか使えるはずだ。魔法の才能あるっぽいし、たいていのことならできるはずだ。知恵を授けよ!!この世界の知恵をぉおおおおおお!
やっぱ無理だな。抽象的過ぎた。と思ったそのとき、俺の体が消えた。
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気づいたら、洞窟のようなところだった。すごい幻想的だ。発色する水色のつららがたくさん垂れ下がっており、天井まで数メートルはある。つららからは、水のようなものが一滴。また一滴と落ちている。
ここは悠久の時を感じさせた。
なんで知識がここにつながるのだろう?そう思った時だった。
『何をしに来た。影なるものよ。』
誰だよ??この人が知恵を授けてくれるっていうのか?
この頭に直接入ってくる感じ…念話みたいだ。心の中で叫ぶ感じで俺は口を開いた。
「誰です、か??」
空気が動く気配がした。そしてただならぬオーラだ。一体どこに来たというのだろう?そしてなぜ俺が見えるんだ。恐怖しかなかった。
『われの名は、グラネトリウム・スカラー』
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地ができ、海ができ、そして世界の端ができたとき、神は東西南北の洞窟に竜を住まわせた。
極の象徴。絶対なる覇者、抗うことのできないものとして。≪創世記 第一章 「創世」より一部抜粋≫
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うお!ドラゴンが出てきた…グラネトリウム・スカラー?聞いたこともない(当たり前だが)
幻想的だった洞窟にはずっとこのドラゴンがいたのだ。俺が来た時から。みごとに同化していたのだろう。全く気付かなかった。
あらためてみると胴体はそんなに長くない。十メートルぐらいあり、尻尾は振り回されると余裕でビルが壊せそうな硬質化したするどいこぶのようなものができている。
圧巻なのはその翼だろう。みごとな翡翠色だ。発色も美しく、優雅そのものである。
角は前に突き出しており、攻撃的なフォルムを作り出している。
全体的にがっしりしており、胸板(?)も厚い。
そして、吸い込まれるような瞳。蒼だ。目つきは明らかに獲物をしとめる爬虫類のような眼をしている。
なんでドラゴン?と思ったが、それは長く生きているからだろう。会えたからにはとりあえずなんか聞かないと。
「あの、この世界のことを教えてもらいたく、ここに来ました。」
『そなたの事は知っておるよ。最近何かと騒がしいと思ってはいたが。まさかまだくるとはな。』
俺のことを前から知っていた?なんで?そして…
「まだ??なんのことですか?」
『言えぬ。我は変えることはできぬのよ』
変える?何の話だ?
まぁ、いいや。とにかくこの姿のことを聞こう
「この姿を変える方法はないのですか?」
『時。みな生きるものは流れに乗る時という名の波に乗る。振り落とされたものはそこでおしまいなのよ。波に乗ったものが新しい時代を作る。』
「意味が分かりません。」
何を言ってるんだ?全く意味が分からない。時を待てばいいのか?
『今日はもう帰りなされ』
「え?でもまだ全然…」
『帰りなされ』
有無を言わせぬ言い方だった。しょうがなく俺は、来た時と同じように、頭の中であの草原をイメージする。
俺の体は消えた。
…
『まさか、もう来るとは。だがまだなのだよ』
竜はまた眠りについた。
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結局、大した情報は得られなかった。
まずなぜ知識を求めたら、ドラゴンのところに飛ばされたのかもわからない。
使者を待つしかないのか。
まだ夜明けまでの時間もあったので、そのあとも草原で、ステータスオープン!とかいろいろやってみたが何も起こらず、成功したのは魔法だけになった。
彼らの宿に戻る。頭をよぎるのは、やはりあの竜のことだ。あいつはなんなんだろう。いくら考えても答えは出なかった。
彼らが起きたのは、日の出と同時だった。宿泊料金には入っていない別料金の朝食を、お金を払って食べ、すぐに身支度をすると、ギルドへ向かった。
日が昇ってから、小一時間しかたっていないのに、相変わらず大通りはにぎやかで、人々は活発に動き回っていた。
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「今日の依頼は…
!
凶暴化グリズリー討伐がギルドマスターからの依頼で出てる!」 (ダイス)
今日の冒険者ギルドはそんな依頼があったため、昨日より騒がしかった。
「ま、そんなの私たちには無理だから…
ここら辺はどう?」 (コロナ)
「なになに?オークの肉二体分とアスモ草10本の採集か。いいんじゃないか?」 (ドズル)
「うし、それでいくかぁ!」 (ダイス)
受付に依頼書を提示し、ギルドを後にしようとしたその時、歓声が後ろで聞こえた。
「おれらが、討伐してやんよ!凶暴化グリズリーなんてよぉ!」
どうやら、凶暴化グリズリーの討伐依頼を受けたものが出たらしい。ギルドにはいろんな強さの人が来るのだろう。便利なものを考えたなと思う。
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「さて、出発するよ。忘れ物ないよな?」 (ダイス)
噴水広場で最後の確認をしている。今日もいい天気だ。
少しづつこの世界のことと、自分のことを知っていけばいい。彼らの顔を見てそう思った。こいつらを見てるだけで充分楽しいからな。そのうちわかるだろう。使者の人も二日後に来るし。ドラゴンのことは忘れよう。
おれはまた、彼らの後をついていく。
特に何もない朝。しかし、変化はいつも突然やってくるものである