2話 1日目の終わりを告げる夜
「おい、こいつ俺らに倒せる相手じゃないだろ!逃げるぞ。
コロナは俺の援護に回れ!一回相手の目をつぶした後は逃げていい!ドルズはキマリを守りつつ待機し、その後おれと何回か殴って逃げる。キマリは回復魔法のレンジぎりぎりまで下がれ!みんなが逃げるまでダメージを受けたやつを回復し、そのあとは走れ!」 (茶髪少年)
「りょーかいだ!」 (コロナ)
「わかりました。」 (キマリ)
「さすがだな、ダイス。いい判断じゃねーか。」 (ドルズ)
「来るぞ。…コ ロ ナ!」 (ダイス)
グリズリーは目の前にいたダイスくんを標的にしたようだ。よつあしで突進していく。対してダイスくんは全く恐れていない。それほどまでに信頼しているのだろうか、仲間を。
赤い髪のコロナと呼ばれた少女は両手を重ねてグリズリー向けて突き出し、カメラのフラッシュのような光を放った。
「フラッシュ!!」
まんまだな。そしてまったくなんの用意もしてなかった俺。
世界が色を失う。影がなくなったからだと思う、俺は気づいたら、数メートル離れた木の幹の後ろに下がっていた。
ほかのみんなは目をつぶっていたのだろう。そこにはのたうち回るグリズリーと、剣を持ち突っ込んでいくドルズくんとダイスくんが色を取り戻し始めた世界にうつる。
そして何回か切りつけた後、4人はものすごい速さで逃げていく。グリズリーはまだのたうち回っている。まぁ、あんな至近距離だったらそうなるわな。
少し心配していたが、あいつらは見事にやってのけた。いいチームじゃないか。
逃げていく四人の後ろをまだ、ちかちかする視界の中、幽霊のようにつける。
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「はぁ、はぁ、はぁ…こほごほっ…はぁ、はぁ…。」
あれから20分。
ひたすら走り続けた彼らはついに、村についた。そこは、キマリとかいう子がつけてたような光がそこらじゅうにあり、まるで電灯のようなっている。かなり大きい村のようで、石や土の壁で作られた、民家のようなものがずらりと並んでいた。道にも石が敷き詰められている。目の前には、魔法で動かしてる噴水まである。 そこまで貧しい生活をしているわけではないようだ。薄い赤から、真っ赤になった夕日そしてすっかり昇った月がこんな村の景色とあいまって、やっぱりファンタジーの世界なんだな、と思わずにはいられなかった。
そんなことを考えてる間に、彼らの息も整ったようだ。
「…とりあえず、ギルドに行こう。依頼のものとどけて、それから凶暴化の話もしないと…」 (ドルズ)
「だな。ギルドには俺らで行ってくっから、キマリとコロナは宿に帰ってろ。」 (ダイス)
「そうさせてもらうわ。」 (コロナ)
「ごめんね、二人とも。お願いします。」 (キマリ)
ここは彼らの地元ってわけではないようだな。旅でもしているのだろうか?
しかし、なかなか気が利くんだね、あの少年たちは。ドルズくんとダイスは、任せとけみたいなことを言って、噴水広場のさらに奥の大通りのようなところに入っていった。
もちろん、俺も後を追う。ギルドには情報がわんさかありそうだしな。
前を歩く二人の足取りはおそい。やはり疲れているのだろう。
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冒険者ギルドにつくまで、いろんな店があった。武器を売っている店、鎧を売っている店、回復アイテムを売っている店、モンスターからとれる素材を売っている店、鍛冶屋、屋台のようなものまで。多分あの大通りは、商店街みたいな、この村でも特に活気のある所なのだろう。もう夜だというのにたくさんの人がいた。
冒険者ギルドはそれらの店の密生地帯をぬけるか、ぬけないかのところにあった。やはり、道具などをそろえられる場所が近いほうが便利なのだろう。
中に入ると、依頼をこなした帰りという感じの冒険者が十数人いた。屈強で日焼けした戦士や、相棒なのか、白い毛並みが美しい、体長1メートルの狼のような魔物を引き連れてる人もいた。みんな怖がらないところから、やはり飼いならしているのだろう。狼の表情も柔らかく見えた。
そんな中、彼ら二人はなれたことのように受付カウンターに歩みを進める。カウンターには長い茶色の髪で眼鏡をかけたなかなかきれいなお姉さんが素材などを置いてく冒険者たちに忙しそうに対応していた。
そして彼らの順番が回ってくる。俺はいま、彼らの服の隙間の影にいる。どんな影にでもひそめることを知った俺は、こんな風に応用をきかせている。その気になればドアの隙間の影に移動して、ドアをすりぬけることもできるだろう。この能力は割と使えるかもしれない。
「これ依頼書と、依頼のゴブリン4体分、解体して手に入れた素材です。」 (ドズル)
カウンターの上に手をかざすドズルくん。何をやってるんだと思ったら、彼の手から光が漏れ、カウンターの上には、ゴブリンの角らしきものや、鎧の素材にでもするのか、皮のようなものが出てきた。ごつごつしていて、にぶい薄緑だ。あまり見ていたいと思うものではないな。
それより今のが、さっき話していたアイテムストレージとかいうものか?便利だな。思うがままにしまったり引き出したりできるんだもんな。あれもできそうな気がするし、あとで試してみるか。
「お疲れさまでした。これが報酬の1200シャルです。ご確認ください。」
さすがに、ギルドのお金を自分のアイテムストレージに入れるわけにはいかないのだろう。カウンターの下にある引き出しを開け、銀貨を1枚銅貨2枚を出した。
銀貨1枚で1000シャル。銅貨1枚で100シャルぐらいか。ゴブリン一体当たり400シャルね。なにができるのやら。それで魔物の素材の価値がわかるな。なかなかお金の価値というのも大事な情報だ
「あと、ギルドマスターに報告したいことがある。会わせてもらっていいかですか?」 (ダイス)
「わかりました。あちらの所長室に行ってください。」
凶暴化の報告だろう。ギルドマスターはいい情報もってそうだな。
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所長室はソファの材質や、飾り物から、少し高級な感じが見て取れた。
ギルドマスターは、なんと女だった。またまたきれいな方で、アジア系の美しさを黒髪、顔だちから感じさせる。身長も170はあるだろう。服装は、肌の露出が少ない、薄い青のひらひらした服だ。露出が少ない分、首元の鎖骨が色気を出している。胸もその存在を主張し、まさにザ・美人だ。
この世界って美女しかいないな。さすがファンタジー。最高だ!
「凶暴化したグリズリー?凶暴化のうわさは聞いてましたが、まさかこんな西のほうにも出たと言う
のですか!?」
「はい、あれはまちがいなく普通のグリズリーとは違いました。あんなオーラを出す魔物なんて見たことがない。」 (ダイス)
「あなたたちが無事に帰ってこれて本当によかった。貴重な情報ありがとうございます。私が責任をもって維持連盟の使者の方に連絡を入れておきます。
そんなことがあったのならいつも以上に疲れたでしょう。今日は早く帰って休んでください。
明日には、冒険者の皆さんに連絡がいくと思いますが、くれぐれも気を付けて行動するようにお願いしますね。」
「了解です。では本日はこれで。」 (ダイス)
また、維持連盟か…使者ってことはこの村だけのことではなさそうだな。そしてここは世界か、国の、西のほうらしいな。だいぶわかってきたぞ。
二人はもう所長室を出てしまったので、慌てて追おうとして扉をくぐり抜けた時に、後ろから声が聞こえた。一緒にいた運営の職員(こんどはかわいらしい人)と話しているようだ。
俺は進むのをやめ、扉の影に入って、聞きやすい位置に移動する。
「…使者の方が来るのが近くてよかったですね。三日後なんて、運がいいですよ。」 (職員の方)
「ええ、あの子たちに感謝しましょう。」 (ギルドマスター)
維持連盟の方は三日後にこの村を訪れるらしい。いいタイミングで維持連盟のことを知ることができ
そうだ。あいつらには俺も感謝しないとな。そんなことを考えながら俺は、去った二人を追うために、ギルドを後にした。