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春の思い出

一話を読んでくださった方、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら、嬉しいです。

 俺たちが生まれ育った芽生村は、山奥のさらに奥にある、閉鎖的な小さな村だった。人口は、昔から三、四百人といったところだ。この村は四方を森に囲まれており、土壌も超えていて、森からもたくさんの果物や、動物を得ることができた。

 …その結果、この村は外部との関わりを持つ必要もなく、自給自足で生きていく事ができた。今でもそれは変わらず、村の住人はむらのなかでしごとをみつけ(だいたいじぶんのいえを継ぐ。)、村の人間と結婚し、外へは出ずに一生を過ごす。

 子どもたちは、高校までは麓(といっても、まだ山の中だが)の学校に通うが、その後は、村のなかで生きていくことになる。列車はそのための朝夕の日本だけで、外から物が売られてくるのも、月に一、二回といったところだ。

 昔から変わらず、世の中との付き合いが極端に少ない。そんな村で、俺と春乃は数少ない同じ年ごろの子供として昔からずっと一緒にいた。

 小さい頃は人見知りだった俺と、反対に誰にでも人懐っこい彼女。彼女を間に挟む事で、俺は他の人と関わる事を怖がらなくなった。

 小さい頃はそんな関係だったせいか、俺は春乃と結婚すると周りの大人達は期待していたらしい。けれど、年を重なるにつれて、俺も彼女もお互いにべったりという事もなくなり、立ち消えになった。

 そんなこととは関係なく、俺たちは小学校そして中学校と進学した。その間に、春乃の方は分からないが、俺は…彼女を単なる幼馴染ではなく、一人の女性として見るようになっていた。

 しかし、俺達二人の間で目に見えて変わったものは、呼び方が『春ちゃん』から『春乃』に、『奏ちゃん』から『奏』になっただけで、子どもの頃から何も変わらない関係のままだった。

 しかし高二の秋、そんなぬるま湯のような状況は、突然急激に動き始めた。

               *

 その日は、担任の先生との二者面談で、進路を具体的に相談した。もっとも、俺は学校を卒業したら村に戻って父親の手伝いをすることが決まっているので、たいして時間もかからなかった。

 俺の次の面談は春乃だったので、教室で本を読んだりして、彼女を待つことにした。彼女もたいして時間がかからないと思っていたのに、彼女が教室に帰って来たのは、予定時間を少し過ぎた頃だった。

「思ったよりも時間かかったな。…さ、帰ろうぜ。電車ギリギリかも。」

「うん…。」

 春乃は返事をしたものの、どこか元気がないように見えた。歩き出した後も俯いたままで、心配になり顔を覗き込む。

「どうした?何かあったか?」

「ん〜……奏はさ、高校卒業したら、村に戻るんだよね。」

「そりゃそうだろ。うちの村の他の奴らも同じだし。春乃も親父さんの材木屋を継ぐ準備始めるんだよな?」

「……うん、そだね。」

 そう言うとまた口ごもってしまった。益々陰ったように見える顔に不安になる。

「……ま、戻るって表現もおかしい気がするけど、それ以外に言いようがないよな。」

 返事はない。そのまま会話もなく二人で歩く。電車に乗った後も、二人の間の空気は居心地の悪いものだった。

 彼女の家の前に着いた時、一度だけ彼女が顔を上げた。

「あのね、私……!」

「なんだ?」

「う、ううん。なんでもない。奏……ごめんなさい。」

 そう言うと彼女は顔を引き締め、家の中に入って行った。

 その時の俺には、どうして彼女が何を言いかけたのか分からなかった。


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