表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/116

98

 ルークに誘われて王族居館にある庭園を散歩をしている。セシルの歩くペースに合わせてエスコートする彼は、やっぱり王子さまだ。庭師に丁寧に整えられた庭園を夕日が茜色に染めて、ルークに触れている腕のぬくもりと共にセシルを温かく包んでくれる。


 しばらく歩いた後、庭園の所々に備えられているベンチに座る。ゆっくりと沈んでいく夕日を眺める。


「この前の舞踏会で、セシル、とても綺麗だった」


 ルークが最初に口を開いた。


「どうして自分はセシルのパートナーではないのかと思い、何度もディランを羨ましく思った……」


「わたくしも、わたくしも、ソフィアさまを羨ましくなりました。そして、ルークとソフィアさまの婚約の話が出た時に」「ソフィアとの婚約話はない! あれは母上が病気で、母上の願望を口走ったことで事実ではない。だから、勘違いしないで欲しい。

 他の誰がなんと言っても、セシルは、セシルだけは俺の言葉を信じて欲しい。

 俺も周りの誰かがなにか言っても、セシルの言う言葉を信じる。


 俺はセシルを愛している。結婚をしてくれ。一生セシルだけを愛しつづけるとここで誓う」


 いつの間にかルークはセシルの前に片膝をついていた。


 胸の鼓動が速くなる。


(私はこの人が好き。愛している)


「ルーク、わたくし、ルークが、ルークを愛しています」


「セシル!」


 体が浮上したと思ったらルークに抱きしめられていた。やっと足に力が入るのを待ち、そっとルークの顔を見上げた。

 彼の顔が近づき、ごくあっさりと唇が触れた。セシルもルークの温もりを離したく、彼の首に腕をまわして、もっと強く応えた。


 その後ルークの優しく激しい甘いキスに翻弄されて、緑の民について彼に話していないことに次の日気づいた。



 


 手の平にある小さい種が可愛い。ううん。この世にあるすべての物が、セシルとルークのことを祝ってくれている気がして、なんとも言えない幸せな気持ちがこみ上げる。


「もうセーちゃん、その締まりのないニヤニヤした顔、どうにかして」


「だって」


「だって、じゃない。周りの人に王女が愚か者と思われたら、陛下に申し訳ないわ」


「ちゃんと仕事しているから、少しくらいダラけてもいいでしょ?」


「セーちゃんは、少しじゃなくて、もう一週間くらいニヤけているでしょ。はい、次はこの種を、お願い」


 リリーには本当の相思相愛の素晴らしさが分からないからしかたないけれど。ルークとキスして一週間経ったのに、彼の唇の温もりが……。


(きゃっ、十八禁にトリップしそう)


 両思いってすごいことだったんだ。いまなら、ちびデブハゲやブサメンが主役のBLカップリングも許せる。ビジュアル系でダメなBLも、愛さえあればなんでも(しょたはダメだけど……)許せられるのだ! と悟った!


「セシルさま? お疲れですか?」


「マイクさま。セーちゃんのことは無視していいですよ」


「ちょっと、リリー。マイクさま、ごめんなさい。ちょっと考え事していました。この種は、毒です」


 リリーがマイクさまに変なことを言う前に現実世界に戻る。


「えっ? こんな小さくて可愛らしい実が毒ですか?」


 今日から薬師学科のマイクさまの手伝いをしている。彼が集めた珍しい種や実、植物の生態について調べている。


 セシルが緑の民とバレないように、リリーが最初に調べる。もしリリーの知っている物は彼女が説明をして、どうしてもこの世で知られていない植物は、セシルは力を使って調べた。


 マイクさまの後ろには、薬師学科の他の研究者や生徒たちもいる。


 みんな純粋に植物に興味があるのか、今度王女になったセシルとリリーを近くで見たいのかわからない。舞踏会の後、セシルたちに面識を持ちたい人たちが毎日のように言い寄ってくる。


 今日もセシルたちがマイクさまの手伝いをすると知った貴族の人たちが学園に来ていた。もちろん護衛とマイクさんのおかげで会わずにすんだ。


「はい。これは人には無害ですが、昆虫や小さい動物、たとえば鼠などにとっては毒です。


 この実を潰して水に混ぜたり、または食べ物に混ぜたりします。害虫がいるところに置いとくといいです。植物の育て方は、栽培の管理の仕方は……土に植えて、日陰で育てます。この実は一週間で育ち実が成りますが、一週間で枯れます。


 栽培期間は雪などの寒い環境でなければいつでも植えられる、比較的な簡単な植物です」


 セシルの言葉をマイクさまの弟子の一人が記録して、他の弟子が実のイラストを描いた。リリーの方も同じように数人の弟子たちが彼女の説明を記録している。


 セシルは力を使っているけれど、リリーはいままでの知識を思い出しながらで大変そうだ。


「リリー姫さま、セシル姫さま、本日は本当にありがとうございました。お二人のおかげで人々の生活がより豊になります」


 マイクさまはいままで知られていない植物図鑑を製作しようとしている。新たに使える薬草は薬師組合にも知らせるらしい。


「いいえ、お手伝いできることがあって、よかったです」


 リリーとセシルは行儀作法の授業や公務以外の空いた時間は、マイクさまの手伝いをする予定だ。こうして植物の世話をするのは楽しい。王族居館の庭は庭師によって手伝うことがないから、こうして土に触れることができて幸せだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ