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 陛下の言葉を一つでも聞き逃さないように、 舞踏会会場は深く静まり返っている。


「リリーの戸籍上の父親は亡きタルード伯爵家の長子だ。実父は前ミチル王だ。よってミチル国の法律に基づけば、リリーが次期ミチル国王になる。女王だ」


「「「!!!!」」」


 会場は先ほどの静けさと違って、衝撃で静まり返っていた。


「そ、そ、そんな虚言を! せ、セイズ王でもそのような譫言を許す訳にはいきません!」


「そうです。陛下、一歩間違えれば国際問題になり、我が国は他国に批判されます」


 スクイ殿下の後にキルディア侯爵が言った。


「戯言ではない。リンダの祖父はミチル国ルディアシル伯爵だ。そうだな、ルディア卿」


 セイズ王が会場の壁に目を向けると、白髪が目立つが腰もしゃんとした老人がスクイ殿下と反対の位置に移動して陛下に礼をした。


「お初にお目にかかります。陛下。この度は孫のリンダがタイラ殿下に嫁いだこと心からお祝い申し上げます」


「うむ。それでそちの曾孫のリリーの父親は前ミチル王で間違いないか?」


「はい。十八年前に前ミチル王がラング国へ訪問した際に、ラング国の下級貴族に嫁いだ私の娘の家に滞在しました。その時にリンダはリリーを妊娠しました。もちろんリンダはその時まで純潔でした」


 ルディアシル伯爵は壮厳な声で淡々と話した。


「そんな戯言を許さない! 証拠を出せ!」


 スクイ殿下が叫ぶ。


 セシルからリンダの顔色を見れない。リリーもノエル殿下の影にいて見えない。


「証拠は当時前ミチル王と一緒にラング国へ行った従者たち使用人たちの証言があります」


「ああ、わしのところにも故ラング王が集めた資料がある」


 ルディアシル伯爵の言葉にセイズ王が付け加える。


「そ、そんな、証言はいくらでも捏造できます! 我がミチル国はそんな狂言を認めない!」


「セイズ王。わたくしから発言をよろしいですか?」


 壇上の前に立っていた三十代半ばくらいの身なりのよい男性が言葉を発した。


「リテール王。発言を許す」


 隣国リテール王自ら今回の諸国会議に出席していると知った数人の貴族たちがざわめきだした。今回の諸国会議はラング国がセイズ国と合併したことで、歴史的な重要な会議になる。それゆえ多くの王族や国の重臣たちが傘参加している。そしていまなお、歴史において重大な事実が発表された。


 もしリリー姫が本当に前ミチル国王の長子なら彼女が女王になり、彼女はすでにセイズ国王族の一員となった身だ。と言うことは、セイズ国はミチル国までも実質手に入れることになる。ラング国と合併した上にミチル国を手に入れたセイズ国は、いままで大国だったがさらに巨大になる。


 その事実に気づいた他国の者たちは、どうしてもリリー姫が前ミチル国と血縁関係にないと証明しなければならなかった。


 だからミチル国の南に位置し、セイズ国の東に位置するリテール王は、王族の秘薬、かつて緑の民がリテール王族のために作った薬草について暴露した。


「我が王族に伝わる秘薬で、血族関係の証明ができます」


「「「!!!!」」」


「そ、んなことがあるはずがない!」


 周りのざわめきを代表するかのようにスクイ殿下が叫んだ。


「血縁関係など、なにで調べるのだ! 薬など、そんな物などあるはずない!」


 キルデイア侯爵が続いて言った。


「血です!」


 セシルはつい興奮して声を出してしまった。


「ほ、ほう。セシル姫は分かるのか? リテール王、血で調べるのか?」

 

 リテール王が驚嘆な顔でセシルを見ている。


「その通りです。セシル姫、さすがは神童と噂されるだけのお方だ」


「それでなぜ血と思ったのだ? セシル姫」


 セイズ王がニヤニヤした顔でセシルに尋ねた。


(うわー。しまった。どうしよう……。DNAって言ってもみんな分からないよねえ……)


 セシルは自分の軽はずみな口を恨む。


「血縁関係と言われるように血には、親子,兄弟の関係のことをさします。家族は容姿など親から受け継げられます。血は人間にとって命です。その命の血にはよりいっそう親の要素をたくさん含んでいます」


 なるべく深い内容を伝えずに言えたと思う。この世界には遺伝子研究なんてされていない。結局髪の色や目の色が同じだけで、不倫の子どもを騙して実子にする貴族たちもいる世界だ。


「はっはっはっはっ。我が国は賢者を手に入れた。めでたい。

 リテール王、我が国のためにリテール王の秘薬を譲りわけていただきたい。もちろん対価はきちんと用意する」


「対価は我が国リテール王族とセシル姫の婚姻関係をお考えください」


「ダメだ!」


 セイズ王の発言をしようとした時にルークの声がした。セシルは高鳴る心臓を抑えながら彼の方向を見る。でもソフィアがルークの腕を引っ張って、ルークの顔が見れなかった。


(盛り頭、じゃま!!)


 今日ずっとルークのことを意識しないようにしていた。彼の側に他の女性がいるのが辛かった。今夜は義理でソフィアのエスコートをしていると知っているけれど、どうしても胸が騒いだ。


「リテール王。セシル姫やリリー姫、もちろん我が息子たちは、本人たちの望む者と結婚させるつもりだ。リテール王族の秘薬の代わりに我が王族の秘薬を渡そう」


「セイズ王国の秘薬」


 会場がガヤガヤ騒がしくなった。ある者たちははじめて知った王家の秘薬がどんな物か情報を得ようとした。もちろん国内貴族もだが、他国も一体大国セイズ王の秘薬がどんな物なのか警戒した。


「それではリリーのミチル王族との血縁関係を明らかにするためにスクイ殿下、協力をお願いする」


「なっ、なぜ私がそんなことをしないといけないのだ! 私は絶対に協力しない!」


 スクイ殿下は真実が明らかにされるのを防ぐためなのか、血を流すことを恐れたのか……。


「スクイ殿下は協力を拒否すると言うことか?」


「も、もちろんだ? 偽言を言い我が国の正しい次期国王のアマンダを陥れる計画に乗るなどできない」


「アマンダ姫、そちはどうだ? 協力をするか?」


 さきほどから会場内での様子を意味を理解していない子どものように、おろおろとスクイ殿下と周りを見ていたアマンダ王女に、陛下が尋ねた。


「わ、わたくしは」「アマンダ! 血を流すのだぞ。痛いぞ」


「失礼、血液は指に針を刺して一滴流すだけです」


 リテール王が言った。


「それでもダメだ。アマンダ、痛いのは嫌だろ?」


「わ、わたくしは嫌です」


 アマンダ王女の言葉でスクイ殿下が満足した顔をした。


「わたくしが協力します。わたくしはミチル王族の血族です。もしわたくしとリリーさまが同じ血族関係があると分かれば、自然とリリーさまがミチル王族と証明されます」


 アリスお姉さまが言った。


「お前! どこまで私の計画を踏み滲むのか!

 第一、リテール王族の秘薬が本当に血縁関係を示すなどと言う証拠がない!」


「我がリテール王を嘘つき呼ばわりにするのか?」


 リテール王の言葉でスクイ殿下が真っ青な顔になった。


「セイズ王。もしリリー姫とアリスさまの血縁関係がはっきりした暁には、我が国リテールは、リリー姫を次期ミチル女王と認めます」


 リテール国もセイズ国に並んで大国だ。セシル王とリテール王が小国の次期ミチル国王を認めれば自然とそれが事実になる。


「な、なんで、わ、わ、わたくしが、次期、王女よ!」


 アマンダ姫の主張は誰にも気にかけられなかった。いまミチル王代理をしているにもかかわらず、彼女はセイズ王宮にずっと滞在していて国の政に一度も興味を示さなかったことを周りは知っている。これ以上、ミチル国が貧困になれば隣国に流れる難民が増えて少なからず各国の負担になる。


「アマンダ王女、及びスクイ殿下、我が城に長く国賓として滞在していて、ささやかな我が願いを聞き入れないとはなあ。今後、ミチル国宰相やミチル国の重臣たちといろいろ面会があるだろうから、お遊びに我が国に滞在しているお二人には、我が城ではなく、そなたたちの所有している城下の館に移動しておくれ」


 「えっ?」 アマンダ姫は陛下の言葉が理解できない顔をしていた。

 「なっ、なっ、なっ」 スクイ殿下は真っ赤な顔で怒りの言葉を発そうとしたが言葉が見つからないようだ。


「みなの者、騒がしたな。このまま舞踏会を楽しんでくれたまえ。わしたちは別室でリリーの血縁関係を調べて後でまた参加する」


 セイズ王がタイラさまとリンダ、リリーに退室を促した。ノエールさまはリリーをエスコートして一緒に行くようだ。


「待ってください。わたくしからも重大な発表があります」


 王妃が立ち上がって言った。


「我が息子ルークと我が姪のソフィアがこの度婚約しました」

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