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 舞踏会会場から聞こえた騒ぎは、セシルたち王族の入場が知らされた途端静かになった。セイズ王の入場の後に次々王族とそのパートナーの名前が呼ばれた。



 でもタイラさまのとノエールさまの入場で、会場が再び騒がしくなった。


 ノエールさまの後から入ったルークのパートナーを告げられた途端、驚きの声があちらこちらでした。ルークたちの後ろに続いたセシルはラング王女と紹介されディランは神殿騎士と告げられた。


 会場の喧嘩はセシルの入場とともに静まり、代わりにため息があちこちでした。


 セシルは会場にいる人たちは王族たちを見ていると思い、自分は空気、と念じることで頭いっぱいで、会場の人たちが自分を見ていると気づいていない。


 会場にはラング国の至宝、傾国の美女ルネン妃の愛娘、ラング王が生まれてからずっと後宮で隠した姫をはじめて目にする者たちばかりだ。


 セシル姫の噂は周辺諸国ではおとぎ話のように伝わっていた。

 人によっては傾国の美貌など作り話で、ラング国民が大げさに語っているだけだ、と言う者たちも多くいた。


 ラング国の滅亡とともにセシル姫がセイズ国に保護された知らせは周辺諸国を驚かせ混乱させた。今回の諸国会議は今後のパワーバランスに大きな波紋となる大事な会議だ。だからいつもより参加する使者の数が多かった。


 その渦中にいるラング王族のセシル姫がセイズ王族の一員と会場に入場した。一体どうしたのだ、といろいろな憶測をはじめる。もう一人のラング国王女、アリス姫はミチル王族たちとすでに会場にいる。


 会場にいる者たちは、はじめて見るタイラ閣下とノエール王子のパートナーが誰かと情報収集しようと騒ぎ立てたが、セシルの登場で言葉を失った。


 セシルとディランが壇上に用意された椅子の前に付いたのを見届けた司会者が諸国会議前夜を祝う舞踏会の開催を述べた。続いてセイズ王の挨拶があった。


 普通はセイズ王の開催の言葉の後にダンスがされるが、今夜は重大な発表があると述べられた。


 陛下は王妃の体調を気にかけて、王族たちに座れるように言った。


「この度、弟のタイラが結婚することになった。相手は亡ラング国タルード公爵、現セイズ国タルード伯爵令嬢リンダ=タルード令嬢だ。それに伴い、長年リンダが乳母として我が子のように育てたセシル姫を養女にすることになった。


 よって、リンダの娘リリー=タルードとセシル=ラングを我が弟の養女にし、二人をセイズ王族に迎え入れる」


 陛下の発表が終わる前に会場が騒がしくなった。


「横暴です。こんな身勝手なことを他国のみなさまは認められません!」


 ミチル国のスクイ殿下が真っ赤な顔でセイズ王の前まで出てきた。


「横暴とはどう言うことだ?」


 セイズ王が低い声で問う。


「国土及びラング王族の宝石などの財産を勝手に手に入れたこと。ましてはセシル姫は我がミチル国に渡すべき相手なのに勝手にセイズ王が手に入れたことです!」


「ラング国をセイズ国と合併することは、故ラング王の意志だ。各国にもその意志を示した故ラング王の書類を渡したではないか」


「そ、それは、そうですが、我が国はラング王によってミチル王とミチル王太子及び、ラング国へ嫁いだミチル王女とその息子が殺害されたのです。

 ラング国は正当なアリス王女に王位に付くべきです。そして、セシル姫は我がミチル国へ平和の証として和解のために私の元へ嫁ぐべきです」


「「……」」


(……えっと……)


 自分について会話されているんだけれど、どうしてもミチル前国王弟スクイ殿下の言葉が理解できない。


「はて、そなたは以前犯罪者の娘だからセシル姫をミチル国へ渡せと言われた。今回はセシル姫を和解のために嫁にと言う。その前にスクイ殿下には既に何人かの妃がいるではないか? それにセシル姫は犯罪者の娘と言うならアリス姫のことはどうなる?

 そちの言うことは矛盾している。


 それに人のことを泥棒扱いしおって、ラング国宝は確かにセイズ国が保管しているが、すべてセシル姫の物で彼女もそのことを知っておる。


 アリス姫の受け取る財産はすべて渡している」


「姪のアリスは年金以外なにも受け取っていません!」


 スクイ殿下の横にアリスお姉さまがいた。以前会った時は赤い派手なドレスを着ていていたのに、今夜は黒い地味なドレスを着ている。化粧も髪型も以前のスタイルと全く違った。一瞬いま目の前にいるアリスお姉さまがはじめて会った時の彼女と同一人物なのかと疑ってしまう。


 いまの彼女の方が何十倍もいい。顔の造形は普通だけれど、好感を感じる。セシルとはじめて会った彼女といまスクイ殿下とアマンダ王女の隣にいるアリスお姉さまは、一体どちらが本当の彼女なんだろう。


 アマンダ王女はソフィアと同様に盛り頭で王妃さまが着ているドレスに似たピンクのドレスを着ている。セシルも余裕がでて会場内を見渡した。


 盛り頭スタイルをしている女性は少なかった。ソフィアと同年代の女性ばかりで、きっと彼女の取り巻きなのだろうと簡単に予想できる。さすがにソフィア以外に小麦粉を頭につけている人はいなかった。こうして周りを見ると盛り頭スタイルは悪目立ちしている。


「スクイ殿下、いまここでそんな細かいことを話す場所ではない」


 陛下はあからさまにうっとうしげに言った。


「いまこの場でセイズ国がいかに横暴に姪の遺産をかすめ取り、我がミチル国の損害賠償、及びセシル姫の身柄の引き渡しをうやむやにして勝手にセシル姫をセイズ王族に迎え入れることに対しての意義を、大勢の人たちに訴えているのです!」


 スクイ殿下は怒りで顔を赤くして、シャンデリアの明かり元、汗ではげた頭も丸い顔もテカテカ光っている。


「陛下、失言をお許しください」


 セイズが大きくため息を吐いて何か言おうとした時に、スラリとした年配の男性が声をかけた。この男性はスクイ殿下と体系は正反対だけれど、なぜか雰囲気が似ている。


「キルディア侯爵、発言を許す」


「はっ、」


 キルデイア侯爵、ソフィアの父親が礼をした。


「今回の発表は我ら重臣にも知らされていません。いささか勝手過ぎるかと思われます。タイラ閣下の婚約は国に取って重大なこと、ましては元ラング国のタルード公爵令嬢となっておりますが、リンダさまは嫁です。実子ではありません。そして亡ラング王の側室だったとも聞いています。そのような方を我が由緒ある王族に他国のお古、いえ失礼、我が王族の花嫁とふさわしくありません。


 そして、リリーさまはタルード家となにも血のつながりのない方です。リンダさまが生んだ庶子の子どもです。そのような父親が分からない者を我が国の王族に迎えることは反対です。


 なによりセシル姫をミチル国へ渡すことで、ミチル国民の遺恨を抑えることができます。なによりこうしてスクイ殿下は自分の妃として迎えると寛大な申し出をしておるのです。ここはセシル姫をスクイ殿下の妃にすることが、周辺諸国との平和を守るのに一番いいと思います」


 キルデイア侯爵の言葉を発する度に、心臓の鼓動が速くなる。


 どうしてリリーの出生について知っているの! なんでセシル本人を抜きに勝手に人の人生を決めているの!


「黙れ! リンダは私の花嫁だ! リンダの出生などどうでもいい! リンダは私の唯一の花嫁! これ以上私の花嫁を侮辱する者は私が成敗する! 決闘だ! キルデイア侯爵などに私の結婚について兎や角言われる筋合いなどない!」


 タイラさまはいまにもキルデイア侯爵を殺す勢いで殴ろうとしている。タイラさまの隣にいるリリーが彼の手を握ったことで少し落ち着いた。

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