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 ひとしきりして、セイズ王と王妃はほどなく部屋に入って来た。セイズ王はノエールさまと同じよう黒を基準とした正装をしている。王妃は顔色が悪かった。ノエールさまが王妃を近くのソファーに案内していた。


「遅れてすまぬ」


 セイズ王も顔色が優れない。


「大丈夫です、父上。まだルークもソフィアも来ていません」


 ノエールさまの言葉でセイズ王の顔が一瞬引き攣った。セイズ国のしきたりは知らないが、集会で王族や家族内でも一番上の者の後に参加することはマナーが悪いと教わった。


「それより母上は今宵も体調が優れないのですか?」


「ああ。少し今夜着るドレスについて口論してしまったんだ」


陛下が小声でノエールさまに言った。


 王妃のドレスは七五三で小さい女の子たちが着るようなショッキングピンクのフリフリのドレスだった。


「これは妹がわたくしに合うと今夜のために贈ってくれたドレスです! 王妃なんてわたくしには無理だったのに、ずっと妹が励ましてくれて手伝ってくれたのよ。

 ここ数年ずっとわたくしの体調が悪いのを気をつかってくれて、わざわざ貴重なお茶をミチル国から取り寄せてくれたのよ。わたくしはお茶にどれだけ救われた知っているでしょ!

 妹だけよ。わたくしのことを思ってくれるのは! 今夜も地味なわたしには明るい色のドレスがいいってこのドレスを贈ってくれたの。

 もうこれ以上妹の悪口なんて聞きたくないわ!」


 王妃の目は空中を彷徨っていた。今夜の王妃は異常だった。



「ミチル国のお茶?」


 ミチル国産のお茶があるなど始めて知った。


「ワシも始めて聞いた。おい、そのお茶の葉をワシにも後で届けよ」


 セイズ王が王女付きの侍女に言ったら、彼女が慌てた。


「このお茶はき、貴重な物で……あまり、数がなくて」


「お茶は妹がわたくしのために取り寄せたお茶なの! 誰にもあげなさいわ」


 セイズ王はその後なにも言わなかった。でもディランによれば陛下が隠密にお茶を調べるように命令したらしい。一体、いつセイズ王がそんな命令をしたんだろう。

 ディランもよくそんなことに気づいたのだろう。


「ごきげんよう。おばさま、そのドレスよく似合っています。さすがお母さまはセンスがいいですわ」


 王族の待合室にソフィアとルークが入って来た。ソフィアは陛下への挨拶なしに王妃の横に座った。


「ソフィア、ありがとう。あなたはいつも綺麗だわ」


 ソフィアのドレスは水色のマーメイドドレスだった。セイズ人の浅黒い肌に薄い水色のドレスは確かに似合っている。ソフィアさまは元々綺麗な顔立なのに、あの盛り頭とケバいメイクで台無しだ。


「父上、母上、皆さま、遅れて申し訳ありませんでした」


 ルークが陛下に近づき頭を下げた。


 ソフィアも慌ててルークの横に立って挨拶をした。


「叔父さま、すみません。つい叔母さまのご容態を案じ挨拶が遅れました」


「いいのよ。家族なんですからそのような気遣いはしなくていいのよ」


 王妃がソフィアに隣に座るように促した。にっこり王妃に微笑んだ後にソフィアは部屋の中にいる他の人たちを見た。


 セシルたちは部屋の奥のソファに座っており、部屋の入り口からは見えにくい場所にいた。


「なっ、なんであの人たちがここにいるのよ! それになんで王族しか付けたらいけないティアラを付けているのよ!」


 ソフィアが怒鳴ってセシルの前に来た。彼女は侯爵令嬢だからティアラをつけていない。盛り頭にたくさんの宝石やリボンですごいことになっているから、ティアラを付けたら大変なことになると思う。


「ソフィア殿。ここは王族の待合室。はじめてなので仕方ないが、マナーを守ってもらいたい。それより頭に小麦粉を使うことを控えるように兄上が言いつけたはずだが?」


 タイラさまがソフィアの横に近づいて言った。


「タイラ閣下、ごきげんよう」


 ソフィアはニコニコ顔で挨拶をした。


「そろそろ時間だ」


 セイズ王が声をかけた。陛下は王妃さまを支えながら立たせた。


 陛下と王妃の後にノエールさまとリリーがつづき、ルークとソフィアの後にタイラさまとリンダ、そしてセシルとディランが続いた。


「なんで亡国の王族がわたくしたちと一緒にいるのよ! どうしてノエールさまとタイラさまのの相手が侍女なのよ! 第一、なんで侍女たちがティアラしてわたくしには付ける許可が降りなかったのよ!」


 と舞踏会会場までの短い距離の間、ソフィアは小さい声でルークに話しかけていたけれどセシルたちにも聞こえていた。

 もちろんセイズ王にも聞こえるようだったけれど、陛下は王妃の様子を気にしていてなにも言わなかった。

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