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王族居館の女官長にセシルの様子を尋ねると、今夜はまだ食堂に顔を出していないらしい。
ルークはセシルと食事を共にしたいと準備を頼んだ。長年王族居館で働いている女官長はパッと明るい笑顔をした後に、悪だくみを考える顔になった。もちろんすぐにいつもの女官長の顔になったが。
ルークは一旦自分の部屋に戻りフォーマルではないがおしゃれな服に着替えた。と言っても従者が選んだ服装だがなかなかいいと思う。
「殿下、頑張ってください!」
と、着替えを終えた後に小ぶりな可愛い花束を渡された。
ルークは女官長にただセシルと夕食を取るとしか言っていない。が、使用人たちがそわそわしている感じがしてならない。
ルークはセシルの部屋へ向かう途中、すれ違う女性の使用人たちは顔を赤くし、男性使用人たちには激励された。
女官長がセシルにルークが食事に誘うことを伝えいてくれたから、セシルは準備をして待っていた。
セシルはモスグリーンの簡素だが質のいいドレスを着ていた。髪には以前ラングでも付けていた髪飾りをしている。
「セシル、綺麗だ」
挨拶をする言葉を忘れて、そんな言葉が出た。
「あっ、ありがとう……。ルークも格好いい」
セシルの真っ白な顔が赤く染まる。セシルに格好いいと言われて、自分の顔が赤くなる。
「!! これ!」
そんな顔を見られたくなくて、手に持っていた花束を渡す。
「ありがとう……」
セシルが花束を見たままうつむいた。
「「……」」
ルークもなんて言えばいいか分からずにセシルの手にある花束を見ていた。
告白をすると決めてから、セシルの顔を見ることができない。
「殿下、セシル姫さま。食事の準備ができました。こちらへどうぞ」
いつの間にか女官長が二人の側にいた。
「あっ、そうだな。セシル、急な誘いを受け入れてくれて、ありがとう」
「い、いえ」
ルークは左腕をセシルに差し出す。セシルは右腕を絡めた。
やはりセシルはルークの隣にいるのが一番だ。ルークはセシルが近くにいて胸がいっぱいになる。セシルから薔薇の匂いがする。
「セイズ国の薬師学科はどうだったか?」
隣にいるセシルを意識しすぎて変なことを考えないように話題をふる。
「とても大きくて珍しい植物があって、楽しかったです」
普通の令嬢たちは薬草など興味がない。
セシルはセス殿の弟子で薬師だ。セシルたちは畑仕事をしたり料理をしたり、普通貴族がしないことをする。本来なら使用人たちがすることを止めさせるべきだが、ルークはセシルと結ばれてもそんなことをさせない。
ルークはセシルが好きなことをしている姿を見るのが好きだ。セシルが箱庭を見せてくれた時に、畑や庭を嬉しそうに説明していた。その顔を見て彼女が愛おしいと言う気持ちが溢れた。
「俺は薬草などについて何も知らないが、セシルが優秀な薬師と教えてもらった。マイクにセシルたちが薬草の知識を教えてくれる予定だと聞いた。その知識でこの国の民を助けてくれることを感謝している」
マイクさえ知らない薬草をセシルとリリーは知っている。マイクによると、この大陸でセス殿が一番の薬師で、その愛弟子の二人の知識は偉大だと言われた。
セシルは神童でラングを豊にした。そして優秀な薬師。騎士科を主席で卒業できないルークと釣り合わない。本来ならこうして彼女に告白するなんて許されないだろう。
でも兄上が自分の背中を押してくれた。ルークは振られたとしても、セシルを愛したと言う気持ちを大切にしようと決めた。結果がどうなろうとも、後で後悔などしたくない。
女官長はルークがセシルに告白をすると知っていたのだろう。案内された中庭には、キャンドルライトで照らされていた。
ポツンと真っ白なテーブルクロスの上に、薔薇の花が飾られていた。
「綺麗。ルーク、どうしたの? 急に食事に誘って……」
景色に見入っていたセシルが思い出したようにルークに尋ねた。
「セシルと二人きりで話したかったんだ」
従妹になった記念だ、とかいろいろな言い理由が頭の中を駆け巡ったが、本当の気持ちを伝えた。
「そ、そうなんだ。わ、私も、ルークと、ふ、二人で話たかった」
セシルが本心を言っていると知っている。セシルもルークと同じで気を許している人たちといる時は一人称が「わたくし」から「私」になる。
これからも少しづつセシルのことを知っていきたい。近くにいたい。




