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 セイズ王城内はラングのように植物が少ないけれど、ラングと違う優美があった。リリーと腕を組んで歩いていると、よくリリーが立ち止まって引き戻される。


「大きいね。人がたくさんいるね」


 セイズの街で建物や人に慣れたと思っていたけれど、リリーは不安そうに辺りを見渡している。

 


「うん。みんな、忙しそうだね」


 城内にはいろんな人たちが生活していて、一つの街のようだ。学園と王宮の間の辺りは活気に溢れていた。リリーも不安もあるが興味深そうにキョロキョロしている。


 中門からは騒がしい雰囲気から厳粛な雰囲気になった。


「失礼。そちらの方々はどなたですか? セイズ王国の近衛兵たちを連れておられるようで、失礼ながら身分を教えていただけませんか?


 わたくしはセイズ王の姪で、キルディア侯爵家の長女ソフィア=キルディアでございます。


 そして隣にいるのは、ミチル国次期国王のアマンダ殿下と、先ミチル王の弟のスクイ殿下です」


 リリーの体がピクンと揺れた。


「ソフィアさま。この方々は陛下の大切な客人にて、こうして我々は護衛をしています。無駄に素性を表せませんので、それでは失礼します」


「無礼者! わたくしは王の姪で、こちらは他国の王族。いくら王の客人としても、我々のような尊き者たちより身分の上の者などいない!


 わたくしたちが下手に出たと言うのに、名を名乗らないなど失礼ではありませんか!」


 ミックさんの言葉にソフィアさまが声を荒立てた。


「セシル姫だな」


 ミチル前国王弟のスクイ殿下がニヤニヤした顔でセシルの体を舐め回すように見る。


「「えっ!!」」


 スクイ殿下の言葉に周りにいる者たちは狐に抓まれたような顔をした。もちろんセシルもスクイ殿下が、どうしてサリーを被って顔が見えない自分に気づいたのか不思議でなかった。


「犯罪者!! あなたのせいで叔父様に勘違いされて、王族居館に出入りできなくなったのよ! なにより体の弱い叔母上のお手伝いをしてあげられなくなってしまったのよ。可愛そうな叔母様!


 ところでなんでこんな罪人がここにいるのよ! 近衛兵たちがこの人に付いているのよ!

 大体もう二度と王宮に出入りしないって約束したじゃない! なんでここにいるのよ!」


 ソフィアがセシルのサリーを引ったくった。セシルとリリー、背丈でセシルが分かったみたいだった。

 ソフィアの行動が急だったから、近衛兵たちは止めることができなかった。いまでセシルたちの後ろにいた近衛兵の二人がセシルとリリーの横に立っている。


 ソフィアは憤慨していて段々声が大きくなっている。周りに行き来している人たちも足を止めてセシルたちを見ている。


「ソフィアさま。セシル姫は私めの可愛い愛妾ですので犯罪者などとは呼ばないでくださいませ。


 ところでセシル姫。いままでどこに隠れていたのだ?」


 スクイ殿下がセシルの手を掴もうとした時にミックさんの後ろに引っ張られた。

「無礼者! セシル姫は私の者だ! ルネンも私が最初に見つけたのに、兄上やラングに奪われたのだ!」


「スクイ殿下。セシル姫さまはセイズ国王陛下の庇護下にいます」


 ミックさんの声が怖い。


「はっ! セイズ王も勝手にラングを自分の物にし金品宝石全部略奪った。本来なら被害者のミチル国に賠償金を払うべきなだ。セイズ王が略奪した財産をすべて返還するように協議している。それと共に犯罪者の娘のセシル姫の身柄の受け渡しを伝えている。本来なら我が国で処刑されるが、私が保護しよう」


「アリス王女とセシル姫さまは姉妹です。アリス王女のことも犯罪者と言っているのですか?」


「はっ? 確かにアリス姫はラングの王女だが、ミチル国王族の血も入っている。母親と兄を失ったのだ。アリス王女は私がきちんと保護する。セシル姫も私が保護する。ラング国の財産も私がきちんと保護する。それが筋だ。

 まったくセイズ国はいくら大国だからと言って常識がない」


 スクイ殿下はなにを言っているのだろう。筋の通っていない水掛け論ばかりだ。政治など難しい話が分からないセシルでも、彼が自分を愛妾にして財産を奪おうとしていることだけははっきりと分かった。


「セシル姫さま。ここでこのような者たちの言いがかりを聞いている必要はありません。行きましょう」


 ミックさんがスクイ殿下たちを無視するようにセシルたちを促した。


「ちょっと! あなたたち、勝手に立ち去る許可を出していないわ!」


 真っ赤な顔をしたソフィアさまがセシルの腕を掴もうとした。


「ソフィア。なにをしている! セシル姫、大丈夫ですか?」


 ノエールさまとステファンさまがセシルたちの方へ歩いて来た。


「ノエール殿下」


「お兄さま。ただ会話をしていただけですわ。でもどうしてラングの元王女に近衛兵が付いているのですか?」


 ソフィアさまがノエールさまに尋ねた。


「父上がセシル姫の護衛のために付けた」


「叔父様はラング王がミチル王族を殺害したことに対してどうするつもりなんですか? こうしてセシル姫がセイズ王宮を歩いているだけで、どれだけ被害者たちの家族が心を痛めるか分かっていないのですか?」


「ソフィア。いま、そんなことをここで議論する気も説明をする気もない。ただセシル姫は王の大事な客だ。陛下の庇護下にいる。それを忘れずに。

 セシル姫。部屋まで送ります」


 ノエールさまが腕を差し出した。


「ちょっと、その女たちはどこに滞在しているのですか!?」


「客人の、ましては女性の部屋を教えることはできませんよ」


 ノエール殿下がスクイ殿下に言った。リリーはステファンさまにエスコートされながら、セシルとノエールさまの後ろに続いた。


 ソフィアさまの顔をちらっと見たら、恐ろしげな顔をしていた。


 ノエールさまに王族居館の部屋まで送ってもらった。ノエールさまは建物の説明など、たくさんの話をしてくれた。ノエールさまとステファンさまはセシルたちを楽しませようと楽しい話をするけれど、セシルとリリーは相打ちをするだけで精一杯だった。


 セイズ王によって身分の保証がされた。セシルたちの身の安全は保証されている。一々、スクイ殿下やソフィアさまの言葉に怯える必要はない、と分かっている。でも、スクイ殿下はセシルに対して得体のしれない執着心を感じた。あの時は混乱と恐怖で気に留めなかったが、かーさまのことを話していた。

 

 ソフィアさまについても、親戚同士と言うことでこれから顔を合わせる機会が多くなる。あのプライドの高いソフィアさまが、セシルたちが王族の一員になったと知った時にどう思うか考えただけで不安になる。


 最後まで心配そうな顔をしていたノエールさまとステファンさまと部屋の前で別れた。

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