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「ああ。そうだ。セシル姫は神童と呼ばれて、小さい時からラングの政治に関与して豊にした。手先の器用な孤児たちに教育をし、ラングは宝石の加工で有名になった。セシル姫がセイズ国に来て、宝石技術者が加工する新しい石を探して鉱山めぐりをしているらしい。

 王都にも新しい工房とお店を開く許可が出ている。他には香りのある石鹸や香水などだったか。いろいろ国を発展したのはセシル姫だ。セシル姫、今度詳しくその辺のことを教えてくれ。

 まさかセシル姫は料理の革命までしていたとは……。神童、いや天才だ」


「神童ですか?」「違います」


 ノエール殿下にきちんと訂正する。ちらりとルークを見ると青ざめた顔をしてセシルを見ていた。


「セシル姫さまは神童です。天才なのです。まだ小さいのに、珍しい食材を見つけて新しい料理を次々お作りになられて。セシル姫さまは私の先生です。セシル姫さまは料理人たちから『料理の女神』と呼ばれています。

 私の弟子たちには私の教えを受けるのなら、すべてセシル姫が考えた料理ときちんと教えこめました。


 料理に必要な道具を次々とお作りになられました。セシル姫の商会は農具の他、料理器具、家庭用品など一般庶民のための道具を開発された天才です。


 セシル姫さまのおかげでラングの国民は豊になりました」


「ヤーリ。違います!」


 これ以上ヤーリが話を止めさせる。恥ずかし過ぎる。


「し、失礼しました! セシル姫さまが天才と知られると美貌の他にもセシル姫さまを欲しいと言う人攫いが増えて大変なことになると言うのに! お許しください!」


「ちょ、ちょっと、ヤーリ、ここで跪いて謝罪しないで。それに人攫いなんて大げさですよ。それよりテイーズさまの所へ行ってくださる料理人は誰かいないのですか?」


 ヤーリをはじめみんな過保護すぎる。


「もちろんいます……ですが……」


「ヤーリ、どうしたの?」

 歯切れの悪いヤーリに尋ねた。


「テイーズさまの領地はミチル国に接していて、多くのミチル国民が流れています。そのような所でセシル姫さまが開発された料理を作るなどできません」


「それはどう言う意味なのだ? 私はただピザを食べたいと思っただけなのだが……。確かに我が領土はミチル国から難民が多いが、治安はきちんとしている。決して料理人たちを傷つけないように身の安全の保証をするつもりだ」


 テイーズ辺境伯が言った。


「……それは分かっています。ただテイーズさまの領土で料理を作ると、自然と料理法や似た料理をミチル国に広まってしまいます……。

 我々ラング国民はミチル国民を許せません。ミチルから来た女狐によって、ルネンさまやセシル姫さまは何十年も軟禁状態にあったんですよ。

 あの女狐はミチルから連れて来た間男たちを侍らかして、王宮で好き勝手していました。ラング王が平和を望んでいたのをいい気に。やっとセシル姫さまが成人されて、セシル姫さまが次の女王になると国民は楽しみにしていた時になって、あんなことが起きてしまって無念です。


 もうラング国がなくなり、セシル姫さまがいなくなりました。すべてミチル国が悪いのです。そんな国民たちにおいしい料理を教えたくないのです」


 ヤーリの目に涙が浮かんでいた。いくら国が合併したとしても、ラング国の名前を失った辛さを、今更ながら国民の気持ちを知った。


「ヤーリは、国民は、王太子やアリスさまのことをラングの王族と認めていなかったのですね……」


「……姫さま、すみません。ラング王妃の不義は公然の秘密でした。国民はラング王と王太子やアリス姫さまが血が繋がっていないと知っていました。お二人はラング王の美貌を全然受け継いでいませんでした。いくら同じ目の色をしていても面影は一つも同じ所がないのです。

 国民はラング王を信頼していました。そしてラング王は成人しても王太子の立太子式がされていませんでした。

 国民は王妃の不義を黙認することでルネンさまとセシル姫さまの身の安全を守れると思っていました。そしてラング王はルネンさまのいらっしゃる後宮で過ごすことができました。


 国民は次の王はセシル姫さまと知っていました。ラング国の貴族たちや主な役員たちでそれは決められていたことです。そしてラング王がミチル国に戦争を仕掛けることができるように国民は準備していました。それなのに、王は、陛下は勝手にご自分一人で決着をつけてしまわれました」


 ヤーリの目から涙が流れ落ち、セシルたちに見られないようにエプロンで目元を抑えて下を向いた。セシルはとーさまが自分を女王にすると考えていたかもしれないと知り驚いた。


 セスは薬草の他にも国のあり方について教えてくれた。でも他国についてはほとんど教えていなかったから、本当にセシルを女王にしたかったのかは不明だ。


「ヤーリ。わたくしは女王になるつもりなどありませんでした。とーさまはただラング国民が豊で飢えのない生活を望んでいました。そして戦争のない平和の国を……」


 とーさまと国について話したことがあった。日本について話をしたことがあった。小さな国なのに戦争のない国。あまり前世の記憶で国の仕組みなど専門的な知識がなかったけれど、とーさまは興味深そうに聞いていた。日本のような国を作ろう、とセシルを抱き上げ笑った顔を思い出す。


「わたくしはとーさまが選んだ選択をすべて受け入れます。国民にとって、国の名前がなくなるのは辛いと思いますが、国が滅びようとも人は生きています。ラング国の文化や伝統は消えません。

 ラング国民の伝統を他の人たちに伝えてください。

 その素晴らしさがさらにラング国の叡智を語ることになるでしょう。


 料理は自由に普及することで、さらなる素晴らしい料理ができます。ヤーリ、ラングの料理を一般の普通の家庭で食べられるように広めてください」


 ラングの料理と言ってもイタリアンなんだけれど。まあ異世界だから許してくれるよね?


「姫さま……。す、すみません……。私は料理人として大切なことを忘れていました」


 自分で偉そうなことを言って嫌になる。ヤーリの気持ちも分かるから辛い。落ち込んでいるヤーリを励ますためにセイズの料理の話をした。

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