80
他の者たちと一通りに挨拶を終えた頃父上が部屋に入って来た。一同はテーブルの席を立ち敬礼をした。
父上が「いまは公式の場ではないから、ゆっくりと寛いでくれ」と言った。いつもだったら先ほどのように家族団欒のゆったりとした雰囲気になるはずだが、父上の後にいる客人たちに気づき、部屋は静寂に支配された。
ニヤニヤと締まりのない顔の叔父上がリンダと腕を組んで入室し、続いて真っ青な顔セシルと顔に正気のないリリーが手を繋いでフラフラと入ってきた。その後ろにディランとノブさまがいた。
叔父たちが「!!」言葉にならない声を発した後に、目を見張りながらセシルたちを見入る。兄上も女神を見て魂を奪われた男のようにセシルを凝視していた。
再従兄弟たちも最初は兄上のような顔をした後に、真っ赤に顔色が染まりうっとりと見惚れている。
(そんなに見るな! セシルが減る! 綺麗な女なんて、あっちっこちいるだろう!)
兄たちの態度が気に入らない。ルークだって、セシルたちにはじめて会った時、こんなひどい顔をしなかった。(と思う……)
ルークは妬み心にいっきに支配され、いますぐにセシルを抱きしめて男たちの視界から隠したくなった。
相変わらず喪服のような暗い色のドレスに身を包まれているが、それが返ってセシルの肌を一層白く際立てる。
「しばらく王族とアシール神殿長以外の立ち入り禁止にする。話し合いの後に食事を持ってきてくれ」
と、食堂に入った途端、ドアの脇にいた執事に言った。執事が「かしこまりました」と言って扉を閉じた。王族居館に仕えている使用人たちは厳選された者たちで決して他人に主君たちの話をしない。
父上はまず母上の座っている席の横の上座に座り、母上の頬にキスをして体調を聞いた。
叔父上も父上の斜め前に座り、隣にリンダも腰をかけた。
セシルたちはリンダの横に座った。セシルはノエールの前に座っていて、ルークの斜め前にいる。こうして近くでセシルを見ることができ、彼女の顔色が悪いのがよく分かる。
ルークはセシルが自分の方を見てくれないかと思ったが、顔を下げたままだった。
「みなの者を急に招集してすまない。緊急の大事な発表があったのだ。ここで話すことは一週間他言無言とする」
いまだにセシルが穴があくほど見入っている兄上たちの顔が現実に引き戻されたように真面目な顔になった。だが、目は相変わらずセシルを見ている。
「タイラの横にいるのは、ラング宰相のタルード公爵、今後はセイズ国では伯爵になる。あの名作のワインの産地の領地だ。そのタルード伯爵の娘のリンダ=タルードとリンダの娘のリリー=タルードだ。
そして、ワシの親友のラング王の娘のセシル姫だ。後は彼女たちの護衛のラング国アシール神殿長の息子のディラン=トリュード、神殿騎士だが今回セイズ国騎士を与えることになった。その隣にいる者は皆の知っている神殿長ノブ殿だ」
父上がセシルを紹介する時に、『親友』と強調した。そしてディランが騎士の爵位を受けたことに驚いた。叔父たちはノブさまのことを知っているようだった。
「先のラング遠征のおり、タイラはリンダに一目惚れをして求婚をした」
「まあ」母上をはじめ、叔母たちが生温かい目で叔父上を見る。
「一生独身を貫くと思っていた我が弟が、運命な相手に出会い求婚をした。二人は身分や国などのしがらみを越えて思いを交わした。そんな二人を国王と言う立場より兄として家族として二人の結婚を認めることにした。
本来ならラング国が我が領土になり、さまざまな混乱にあるいま、二人の結婚は時期を待つべきだが、家族として弟に幸せになって欲しい」
父上の話を聞いて母上たち叔母たちは、うっとりと叔父上の恋愛話を聞いている。それに反して、叔父や再従兄弟たちは疑り深い顔をしているが、叔父上の結婚について反対はないようだ。ルークにはロマン的なことを話す父上も気になったが、叔父上に腕をがっちり捕獲されて顔色が悪いリンダの様子が気になった。
リンダやセシルたちの様子を見る限り、叔父上の結婚はリンダは納得していないようだ。
「一ヶ月前に親友のラング王から国を譲与された。ラング王から以前から国の合併を要求されていた。その内容はセシル姫と息子たちのどちらかとの結婚だった」
(セシルと結婚!!)
ルークの胸が高鳴る。
「しかし息子たちにはワシのように本当に愛する人と結ばれて欲しいと考えており、セシル姫との結婚の話は保留にした。近いうちにセシル姫をセイズ国に留学し、二人に合わせようと考えていたが、ラング国王は病で寿命がつきた」
「そ、それは? ラング王が病? ラング王はミチル王とミチル王太子、そしてご自分の妻と息子を殺害したと聞いています」
「そ、そうよ。ソフィアによればラング王は自分の妻と息子を殺害して残酷な犯罪者と聞きましたわ」
サイール公爵の後に母上が困惑顔で言った。母上の台詞を聞いて父上の眉間にシワが寄る。
「ミチル王がセシル姫を自分の側室にと言ってきたのだ。最初は息子の嫁にと言っていたようだが、最後は自分のものにしようとしたらしい」
(ミチル王たちが殺害されて当たり前だ! じゃなかったら自分がする!)
と叫びそうになり、ルークはテーブル下で拳を握る。




