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セシルが王宮にいると言うのに、ルークは彼女の近くにいれなくてイライラしていた。ルークの側にいる側近たちが彼に書類の確認を促す度に、「後で」と返事をして彼らの顔を見ずに窓の外を向いたままため息を繰り返している。幼い時から第二王子の側近になるために仕えているレイ以外の二人の側近たちは困惑な顔でルークの様子を伺っている。なにか聞きたそうにしているが、ルークには答える余裕がなかった。
ただセシルのことが心配だった。父上がセシルに害を与えることはないと分かっているが、今後セシルがどうなるかと考えると仕事が手につかない。
そして父上がセシルの安全と身分確保のために、ルークと結婚を決めてくれないだろうか、と心のどこかで期待していた。そんな状態でますます仕事に身が入らないでいた。
どうしてルークも一緒に会談に参加できなかったのか、とふがいな気持ちでいた。
「殿下は恋のわずらいだから気にしない方がいいよ」
「「っ!!??」」
「殿下が恋!! 一体どこの令嬢ですか?」
レイたち側近が勝手に人の話をしはじめた。ルークは幼い時から彼を支えている側近たちだがセシルへの気持ちを話すつもりなどない。最初にセシルに自分の気持ちを打ち明けたい。人の噂でルークの気持ちをセシルに知られたくなかった。ルークがなにも言わないのをいいことに、彼の片思いをペラペラ話しているレイを睨みつける。
「失礼します。陛下から伝言です」
セシルのことと気づいて、執務室に走って来た文官からすぐに伝言を受け取った。昼食は家族全員、王族居館で取るようにとあった。
「昼食は家族と取る」と側近たちに伝えて、部屋を出た。レイとルーク付きの近衛騎士が付いてきた。ルークもまだ正規の騎士ではないが、自分の身くらい守れるのに、いまだに近衛騎士が付いてくることに不満があった。
正規騎士になった暁に、近衛騎士から自分の騎士を選ばないといけない。ルークは小さい時から王家の仕来りにうんざりしていた。そんな時、セシルに会った。彼女は箱庭と言う狭い世界で生きてきたのに自由だった。
彼女といると自分が王族と言うことを忘れることができた。
これからはずっとセシルが自由に伸び伸び生きられるように守ろうと決心を新たに固めながら、セシルが近くにいる毎日を創想像しながらいたらいつの間にか王族居館に着いていた。
ルークは他の者より先に食堂にダイニングルームに着いた。王族居館は家族以外に立ち入ることがないから、落ちついた簡素な部屋が多い。この食堂も長テーブルが真ん中にあるが、ゴテゴテした豪華な装備がない代わりに、新鮮な花が毎日飾っている。
給仕の者がお茶を出した頃に、母上と兄上が部屋に入って来た。
「まあ。ルーク。ルークが一番先に来ているなんて珍しいわ。それにノエールがこうして王宮にいるなんて、本当に珍しいことだわ」
「母上。ご機嫌いかがですか?」
ルークは席を立ち、母上に近づき頬にキスをする。
「今日は体調も気分もいいわ。それに久しぶりに家族揃って食事できるなんて。あの人も急な伝達で昼食なんて。でもこうして全員王宮にいることが、最近なかったから、急いで集まることにしたのね。
ノエールも最近あっちこっちフラフラしすぎだわ」
「母上、父上が今の内しか自由な時間がないと、父上が健在のうちに国土を見てまわれと言われたのです。
ルーク、久しぶりだな。後少しで卒業式だな。ハメを外すのもいまの内だぞ。卒業したら、さらに仕事が増えるから覚悟しておくように」
兄上がルークの肩を抱きながら言った。兄上は母上に似て柔らかい面影をしている。漆黒の髪の毛で、深い茶色の目だ。背丈はルークの方が少し高い。兄上も小さい時から学んだ帝王学以外に学園で文官科と騎士科を取り主席で卒業している。
同じ王子なのに、ルークは主席で卒業できない。
「失礼します」
王族居館の執事が、ルークの叔父たち(一人は父上の従兄弟でサイール公爵。ほとんど政治に関与せずに薬師長をしている。もう一人は父上の叔母が嫁いだ東の辺境伯で王位継承権はにが息子が持っているがかなり低い)や叔母たちの入室を伝えた。
叔父たちの後ろに再従兄弟(王位継承は彼らの代で終わるが、一応王族に名前を連ねている)たちもいた。いま王宮に滞在している王族が全員食堂に揃った。もちろんソフィアなどの外戚で王族でないからここにいない。
「まあ。陛下は家族会でもお開きになるのでしょうか?」
母上が席から立ち上がり叔父たちに挨拶をした。続いて兄上が挨拶をした後にルークも一人一人最近の近況をお互いに交換しながら談話した。
同じ王族でも彼らは他の館に滞在していて、夜会などの行事以外で全員で会うことはなかなかない。だから父上の急な食事会に混乱しているようだった。
ノエールと同じ年で21才の再従兄弟のマイクは叔父サイール公爵の跡継ぎだが、叔父のように薬草研究に没頭していて政治に関わることを避けている。
父上はマイクがノエールの側近として仕えてもらいたいようだったが、彼は政治に全然興味がない変わり者だった。
だがルークやノエールと違うが、中世的な顔立ちで、物腰の柔らかいマイクは女性に人気がある。それになにより王族だ。
本人は学園にある(とは言っても、王城内の敷地にある)薬師学科研究室にこもっていて、なかなか公の場に出ないから浮いた噂などない。
再従兄弟のステファンはテイーズ辺境伯として国境の領地にいて滅多に王都にいない。国境を守る辺境伯の長男らしく、体ががっちりして凛々しい顔立ちをしている、24才で昨年結婚したにも関わらず彼も女性に人気が高い。ラング国合併とミチル国のことでここ一ヶ月王宮にいる。テイーズ辺境伯がミチル国からの難民を抑えている故、ミチル国の暴政の影響はセイズ国内に出ていない。
辺境伯の次男と三男は領土にいていまここにいない。ステファンたちはルークと兄上と仲がいい。
「ご機嫌いかがですか? 妃殿下? 陛下より大事な話があるから昼食を一緒にと連絡を受けました」
サイール公爵が母上の手にキスを落として挨拶した。




