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「どうして! どうしてわたくしにそんな大事なことを教えてくださらなかったのですか?」
とーさまはセシルの唯一の父親で愛していた。前世の記憶があるが、記憶はセシルが年を取るにつれ曖昧になっていた。だからいまは前世の家族のことはほとんど記憶にない。創造の力を使い記憶が消えたか、元々セシルに記憶がなかったのか分からないが、家族と言うのはこの世界のとーさまとかーさまだけだった。たまに思い出す前世の家族や親戚に対しての愛は頭の中のものだった。
「緑闇の存在は、緑の民を守ることです。もしセシル姫さまがラング王の病のことをお聞きになれば、無理をして薬草をお創りになるからです」
「ちょっと待て。緑の民は薬草を創る力があるのであれば、その力を使うべきではないか? セシル姫には妻の王妃の病を治す薬草を創ってもらいたいと思っておる」
「「「ッ!!!」」」」
一瞬なにが起こったか分からなかった。部屋の隅にいた闇一さん以外の忍びの者たちが剣を重ねて、動きを止めている。相手の一瞬の動きを見逃さないかのように部屋は張り詰めた空気が漂っている。
闇一さんの剣がセイズ王の首筋にあり、闇一さんと似たような恰好の黒ずくめの者がその剣を止めていた。他にもセシルたちを庇うように数人の緑闇がいる。
似たような忍びの者たちなのに、敵味方が本人たちには分かるようだったけれど、セシルには全員同じに見えた。
「緑闇はなぜワシに剣を向ける?」
セイズ王が緑の闇をお茶をすすめるかのように、または刺激しないためなのか穏やかな声を出した。
「陛下が緑の民に薬草を創るように言ったからです」
「それくらいで、大国の王を暗殺しようなどありえぬ! いますぐにその剣を収めよ!」
「タイラ。落ち着け」
「し、しかし……」
タイラさま自身も腰にある剣に手を携えているが、彼の後ろには他の緑闇が剣を指して立っている。
「我々は緑の民を守る者。セシル姫に薬草を創るように命令する者の命を奪う掟を実効するまで」
「やめて! 陛下から離れて!!」
あまりにも現実離れした出来事で全身がふるえている。
「御意」
闇一さんが先程までいた場所に一瞬で移動した。そして部屋にいた他の緑闇が消え忍びの数が半分になった。陛下を守っている護衛たち(多分セイズ国王の隠密たち)が警戒しながらセイズ王とタイラさまの周りにいる。
「ど、ど、どうして?」
どうして薬草を創ることを望む者を殺さないといけないのか? どうしてセイズ王の言葉が命令になるのか? セシルは質問しようとしても、どうして? と言う言葉しかでなかった。それだけ体の震えが邪魔して言葉をつなげることを邪魔をしている。
「緑の民の力は絶対ではないのです。力を使う度になにかを失ってしまいます。ルネンさまの力は歴代でも稀なほどでした。ルネンさまはラング王と出会うまでに六つの薬草を創りました。
そして、ラング王の病気を知ってからは、王を助けようと毎日薬草を創ろうとしました。
ルネンさまは力を使い過ぎて、命を縮めました。ルネンさまが新たに薬草をお創りになられたかは、セスさましか知りません。しかしラング王の病気は完治せずに、ルネンさまが先に亡くなられました。
そして、後はセシルさま自身ご存知のように、死に際、ルネンさまは正気で創造の対価を払ったとおっしゃられました」
「!!」
(かーさま!)
体の震えがさらに激しくなる。それと同時に目元が熱くなる。
「緑の民は力を使う度に対価を払わなければいけません。緑の民の対価は人それぞれですが、ルネンさまの対価は命だったのです」
「かーさまーーー。
どうしてわたくしに教えてくれなかったの!? リンダ! リンダはずっとかーさまといたわよね! じゃあ、リンダはとーさまとかーさまのことを知っていたのではないの!!??」
「姫さま。お許しください。私にはルネンさまを止めることができませんでした。そして陛下から姫さまには自分の病気のことを知って、ルネンさまのように薬草を創るかもしれないから決して姫さまに教えてはいけないと口止めされていたのです。
陛下の病気のこともルネンさまが薬草をお創りになろうとして、体が弱っていることも、セシル姫さまとリリーに秘密にするように言われましいた。
……ごめんなさい。姫さまの対価は体力と言われますが、それ以外に他にもなにか払われているのではと、ラング王や私たちはそう考えていました。
私はずっと姫さまのお側にいましたので、そう思うのです。お願いです。本当のことを教えてください。姫さまもルネンさまのように命の対価を払われているのではないですか?」
リンダがソファーから立ち上がって、床にひざまずいて懇願する。
「セーちゃん。セーちゃんの対価は体力だけって私に言ったよね。だから心配しないでって。セーちゃんは命を削って植物を創っているの?」
リリーがセシルに縋るように尋ねた。
「リンダもリリーも。命の対価じゃないわ」
リンダの問いは的を当てている。セシルの対価は体力と、記憶だ。でも記憶のことは伝えられない。今は前世の記憶の対価だけれど。、今後リンダとリリーと過ごした時の記憶をなくす可能性もあるから、対価が記憶と言えなかった。記憶がなくなり二人と過ごした思い出がなくなるなんて、あんまりにも悲しすぎる。
「ほんと? 本当に体力だけ? 植物の生体を感知する力は対価払わないんだよね? 植物の促進にはほんの少し疲れるだけだよね? 植物を創造する時も二三日寝るだけだよね?」
リリーがセシルのことを確かめるように質問してくる。それに対して一つづつ、「うん」と頷く。そして、最後の質問の返事をした時に、嘘を言って胸が痛かった。
「セシル姫。すまなかった。わしは緑の民が対価を払って植物を創ると知らずに、軽い気持ちで王妃の病を治す薬草を創造して欲しいと頼んだ。いや、軽い気持ちでの頼みの中で、命令していた。この国に保護されているセシル姫がワシの頼みを断れないと知っている上だった故、命令だった」
「いいえ。緑の民が対価を払うなどと一部の神官しか知りません。陛下が王妃の病を気にしてのことですので謝罪しないでください。それに、わたくしは、母と違い薬草を創ることができません。
でも、一薬師として、王妃さまが良くなるようにいろいろ薬草を調べることができます。ラングにしかない薬草 もありますし、緑闇に聞いていろいろな薬草について調べることができます」
セイズ王が驚いた顔でセシルを見ている。リンダにはソファーに座るように伝えた。
「そ、それはありがたい。ぜひ学園の薬師科に研究室で、薬師学長を助けてくれ。薬師楽章はわしの従兄弟だ。また後日紹介しよう」
その後、リンダとタイラさまの婚姻の書類に、ノブさまの元、アシール神の誓いの言葉を述べて書類に書名をした。つづいてセシルとリンダがタイラさまと養子縁組をした。一番驚いたことが、ディランにセイズの騎士の爵位が与えられた。
この後王族と対面してタイラさまの結婚のことやセシルたちのことを話すことになった。




