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「お、お、お名前を、お、お、お、お聞きしてもいいですか!?」
タイラさまが「『お』の連発」とボソッと呟いたが無視して、いまだに窓辺の部屋の隅にいる全身黒ずくめで片膝を床についている忍者に声をかけた。
「すみません。主君。セシル姫さま。緑の民の掟でわたくしめの名前を教えことはできません。ですがわたくしはラング国内にある緑の民の里の長です。ラング緑の民いち、とお呼びください。セシル姫さま及びリンダさま、リリーさまの周りにはそれぞれ村の優秀な者たちをそれぞれ付けています。
今後はセイズ国内の緑闇の里たちと交換でセシル姫さまにお仕えします。なんなりと指示を出してください。そして我々のことは『闇』と呼んでくだされば、いつでも御前に姿を現します」
「「「……」」」
どこからツッコミを、いやどこからこの内容を消化したらいいのだろう。隣にいるリンダもリリーもあっけない顔で緑闇その一さんを見ている。後ろにいるディランは全然驚いた顔をしていない。
タイラさま以外、緑の民について知っているようだ。
「おい。ま、まさか!! お前たちは、ずっとリンダのことを見ていたのか!!」
タイラさまが腰にある剣に手をかけ緑闇その一さんを睨んだ。
「はい。我々の任務は緑の民とその愛する人たちを守ることです。だから、ルネンさまが緑の民と知った時からずっとセシル姫さまたちをお守りしております。
まさかセシル姫さままで緑の民だったと知った時の同僚の者たちの喜びは計りしれないものでした。
ルネンさまの死後、いまはこの世にいる緑の民はセシル姫さまのみです。ここ百年以上緑の民はいませんでした。命に変えてでもセシル姫さまをお守りします」
と、緑闇その一さんが頭を下げた。さっきから下を向いたままだから、その姿はさらに縮んだような気がするが、その一さんの存在は薄くて意識しないと見失う。
「ゆ、許さん! 私はリンダのことをまだ一ヶ月しか知らないのに、お前のような者がリンダのことを何十年見ていたなんて。忍びなんぞ、あんなことやこんなことを勝手に覗き見していたなど許せん! 私にその役を譲って欲しい……(ボソッ)」
(うわーーー)
後ろにソファーの背もたれがあって下がれないと知っているけれど。この目の前にいる危険物と距離を置きたい。危ない。危険すぎる。この人が父親になるなんて。ここは緑闇さんを使って、リンダたちを他国へ非難させた方がいいのでは? と一瞬思うくらい、中年の恋まっしぐら(又の名を、ストーカー)は恐ろしいものがある……。
(あんなことやこんなことって、なに!?)
こんな真剣な会談の中で、ついついあんなことやこんなこと(忍び対王家のカップリングイチャイチャ)を妄想してしまいそうだ。
緑闇はずっとセシルたちを見守っていた。と言うことは……。 まさかセシルが一人でウフフとカップリング妄想しているところなんかも見られたのだろうか……。カップリングマル秘ノートを日本語で書いていてよかった。今ほど転生万歳と改めて感謝した瞬間はない。
他のプライバシーの侵害など乙女(外見だけ)としてはいろいろ抗議したいところだけれど。これ以上闇のあり方について議論すればとんでもない方向へいきそうなのでシレッとスルーしよう。
「す、すみません。あの、緑の闇一さん」
「闇と呼び捨てください」
この得体のしれない集団を呼び捨てにして指示を出すなど、中身平凡腐女子には困難過ぎる。
「ええ。闇はずっとかーさまたちを見守っていたのですね」
ハイと闇が答える。
「それでは、とーさまがどうしてミチル王族を暗殺して、すべてのことをセイズ王へ丸投げする形を取られたのか、理由を教えてください。とーさまは、とーさまらしくありません。ラング王らしくありません。ラング国にはまだまだ戦争するほどの兵力はありませんでしたが、国の財力はミチル国よりあったはずです。その力を使ってミチル国の侵略を止めることは可能だったはずです」
とーさまが自殺して、国の問題を丸投げしないいけない理由があるはずだとずっと考えていた。
「セシル姫さま。我々はラング王から黙秘を命令されています。しかし、緑の民のセシル姫さまの方の命令は、ラング王の命令を優先されます。そのことも踏まえた上で、理由をお聞きしたいのでしたら、我々に命令をしてください」
いままでは緑の民の保護者ラング王の命令が一番だった。だが、これからは緑闇は緑の民のセシル姫の命令に従うと暗に言われ、セシルの決心を聞かれている。
「闇。ラング王の意図を話してください」
前に座っているセイズ王もタイラさまもノブさまもセシルの変化を逃さないように見据えている。セシルは緑の民として、緑闇と言う集団を引き受けた。
「御意。五年ほど前から、ラング王は病の犯されていました」
「えっ!! そ、それはどんな病気ですか!!?」
「……女性の前では言い難い内容ですが。最初は腹痛で下痢や便秘でした。それが段々と食欲がなくなり、便の方にも血が含まれるようになりました。ここ一年は貧血もひどくなり床から起きられない日がありましたが、ラング王は周りに気づかれないように普通に執務をしていました」
「うそ……」
信じられなかった。セシルの前でとーさまはいつも気丈にふるまっていた。
セイズ王の顔が苦痛で歪んでいる。セイズ王以外にもとーさまを愛した者たちにとっては辛い内容だった。
「薬は? 薬では完治しなかったのか?」
「ルネンさまのお創りになられた薬草は一時の症状を抑えることが出来ましたが、病気は悪化していました。我々緑闇もセスさまの指示の元、多くの薬草を調べて調合したけれどどれもダメでした」
セイズ王の質問に闇が返答する。




