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「セシル姫。王城で手違いで不愉快な思いをさせてすまなかった。あれは手違いだったんだ。

 故ラング王があなたの父上があなたのことを陛下に託されたのだ。これからは陛下があなたの身元親になる。だからこのままあなたたちをここに置いておくことはできない。

 いますぐに荷物をまとめて、王城へ来てくれ」

 

 久しぶりに堪えた。改めて自分がまだ未成年だと思い知らされる。いや、とーさまはセシルのことを心配してくれていたのだとうれしい気持ちが溢れる反面、なんでセイズ王なんて雲の上のような人に娘を頼むの、と抗議した気持ちだった。


「わ、わたくしは、リンダやリリーやディランがいるから、わざわざ陛下の手を煩わせるわけにはいきません」


「いや、全然兄上、陛下の手を煩わしていない。こんな風にどこにいるか分からない方が困る」


 タイラさまには日本人の遠回しのお断りが効かない……。


「王城には行きません。恐ろしいです……」


 大げさになったけれど、体もふるえてみせる。じゃないとリンダも王城に行くことになるかもしれない。リンダは絶対にセシルの行くところへ付いてくる。


「前回のような不幸な思いをしないように私が常にリンダの、いやセシル姫にいるから安心するといい」


「セシル。俺もできる限り側にいるよ。父上は親友だったラング王の娘に心の底から会いたがっている。

 信じてくれ。絶対にセシルに嫌な思いをさせないと誓う」


 前世一度でも言われてみたかった台詞。プロポーズをされたと勘違いするセルフ。

 机が二人の間を隔てていてよかった。じゃなかったら、小気味よい低い渋い声に無意識で頷いてしまうところだった。


「いいえ。わたくしたちのことはご心配しないでください。こうして庶民として立派に生活しています。どうぞわたくしたちのことは、忘れてください。お願いします」


「なんでこんなに頑固なんだ。仕方ない、これは王命だ。そうだ、これはラング王女として、今後セイズ国貴族として王に謁見する。決まりだ」


 セシルたちはキッとタイラさまを睨む。


「神殿はセシル姫さまだけならお止めできますが、リンダさまとリリーさまへの王命を止めることができません。

 セシル姫さま。ご安心してください。謁見の場には神殿騎士や私も同席します。

 王城では常にディランの他の神殿騎士がセシル姫さまと姫さまの大事なリンダさまとリリーさまをお守りします」


 ノブさまの言う内容を十分理解できなかったけれど、リンダとリリーを神殿騎士たちが護衛してくれると言ってくれた。


「わざわざ神殿騎士が護衛しなくても我々だけでセシル姫たちの護衛は十分だ」


「一ヶ月前は全然十分じゃなかったではありませんか。セシル姫さまの護衛に関しては陛下に許可をいただきました。例え王宮だとしてもセシル姫さの行かれる場所への同行も許可されています」


 セシルたちは置いてけぼりされた気分で状況を理解しようとしていた。


「分かった。では王城へ行こうとしようか」


 タイラさまが一人納得して言った。


「ちょっと待ってください! いまからですか? なんて俺さまなの! 今日は行けません。3日後に行きます!」


「はあ、なんでそこで3日後になるんだ? 俺さま? とはどういう意味だ?」


 ルークが呆れた声を出す。一週間したらセシルたちのことを忘れるかもしれないからだ。


「分かったわ。じゃあ、2日後。荷物をまとめたりしないといけないのよ。俺さまはオレサマなの」


「……ラング国の独特な訛りは難しいな。そ、そうだな。明日だ。叔父上もそれでいいですか?」


「ああ。護衛は私がする。そこの宿主。今夜の一部屋借りる」


 なぜかタイラさまは、宿主と言ってデンディリーさんを見て尋ねた。


「す、すみません! 部屋は満室です! そ、それに王族をお泊めするような部屋はありません!」


 顔を真っ青にしたミリエリーさんが、裏返っている。


「護衛はいりませんわ」


 身分違いのデカい集団と同じ部屋にいて、ミリエリーさんたちが萎縮していて可哀想になった。


 結局、テルさんとミックさんとハルさんが護衛をすることになって、ルークとタイラさまは帰ることになった。一ヶ月ぶりだけれど、テルさんたちと会って懐かしくなった。

 テルさんたちと一緒にレストランを開ける前に食事をした。今度奥さんや子供たちを連れてくる、と言って食事を褒めてくれた。

 テルさんたちに一ヶ月前のことを謝罪されたが、謝られる理由が分からなかった。その他にラング国であげたお土産についてすごくお礼を言われた。


 ハチミツはまだセイズでは高価すぎて値段が高い。

 

 ルークたちが去った後、ミリエリーさんたちが恐縮してセシルたちに接した。とくに「セシル姫さま、いままでの不敬をお許しください」と言われた時には涙が出た。


「セシルおねーちゃん、泣かないで。かあさんたちもセシルおねーちゃんをいじめたらだめだよ」


 とオロオロしてくれたおかげで、ミリエリーさんたちがいままでのように接してくれた。

 やっぱりジョニーは天使だ。

 顔は平凡な方だけれど、ジョニーの無邪気さはヒロイン並だ。ショタには手を出さないから、後十年後立派にジョニーを平凡総受けヒロインキャラカップリングをちゃんと練ってあげる予定。とりあえず、二度と足を踏み入れないと決めた王宮で、ジョニーのカップリング相手にふさわしい男性を観察しよう。そう思ったら少しだけ不安な気持ちが軽くなった。


 次の朝、ルークたちが迎えに来る前にみんなで朝食をとった。アリスイさんに「ごめんなさい」と謝られた。二人で少し会話をした。もちろん他の人の見える場所だったけれど。

 アリスイさんはデンデリーさんに恋をしていて、セシルに嫉妬していたらしい。でもセシルには王子さまがいると分かって、自分の態度を振り返って謝罪した。


 セシルには王子がいる? 顔を真っ赤にしてアリスイさんはデンディリーさんのことを話しながら、セシルにも王子さまと頑張ってね、と言う……が、アリスイさんは勘違いしている。


 セシルは元王女で亡国の王女。庇護してもらう大国の王子と結ばれるなどありえない。なによりセシルは前世で味わった庶民と言う自由のある生活をしたい。


 せっかくアリスイさんが心を開いてくれて、女友達のように恋バナしているのをわざわざそれを潰したくなくてなにも言わなかった。


 ミリエリーさんやジョニーに落ち着いたら連絡をすると約束して別れた。


 本当に場違いな豪華な馬車で迎えが来た。馬車の後ろに暑苦しいイケメンマッチョ集団がデカい馬に乗って列を組んでいる。せめてもの救いでルークやタイラさまがいなかった。執務などで王族は忙しいようだ。陛下も忙しいと思うから、さっさとセシルとの面会を終わらせてくれるだろう、と期待している。

 近所の人たちが何事かと家から出てきて、人垣が瞬く間にできた。

 恥ずかしいので急いで馬車に乗った。

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