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城からも貴族街からも中央市場からも離れた下手をしたらこんな場所も王都にあったんだ、と忘れられた寂れた住宅街をただならぬ雰囲気の集団が横切った。
その集団は最近人気が出て、人の出入りが激しくなったレストランへ閉店のサインを無視して入って行く。
ルーク付きの騎士がセシルの泊まっている宿のレストランの入り口ドアを開けた。「準備中」と言うサインもチラ見もせずに無視。
裏方から中に入ると言う考えがないのかな? と思いながらセシルたちもドナドナしながら入る。
「キャーー。s攻め鬼畜攻め獣攻め!! レイプ暴行攻め調教攻め! ぜーんぶ許さん!! リンダから離れて!!」
室内に一歩足を踏み入れて目が室内の暗さに慣れた時、最初に目に付いた場面が相変わらず「デカい」の一言しか表現のしようのないタイラさまの後ろ姿だった。
タイラさまが前屈みになっている場所からストロベリーブランドの髪と蒼白な顔が見えた。
(リンダが危ない!!)
体当たりのターゲットをロックイン。
リリーと繋いでいる腕を外してにっくき野獣に突入。
不意を付いたのに……2Mを越えた巨体はビクともしなかった。反対にセシルの体がバランスを崩して後ろに倒れた。
「セシル!! お前は一体なにをしたいんだ!? 危ないだろう?」
さっきから忘れようとしたスパイスの温もりがセシルの身体を包む。カーーと体温がいっきに上がった。ルークの手でセシルはバランスを戻したけれど、その温もりが消えてくれない。
「だって、リンダが襲われているから……それより離して」
ルークの固い胸の筋肉が背中に伝わって顔から汗が出てくる。
「はあ?」
ルークがマヌケな声を発した時にセシルを抱きしめている腕の力がゆるんだ。
ルークから離れて、リンダの方に近寄る。
リンダはテーブルにただ横たわっていただけでホッとする。
「姫さ、セーちゃん? どうしたの?」
リンダが目を開けて、セシルに尋ねた。
「かーさんはどうしたの?」
「かーさん? とは、どう言うことだ?」
リンダの反対にいる不機嫌な声のタイラさまをギョッとして見上げた。
「た、タイラ殿下さま、さま……」
相変わらずデカいけれど筋肉モリモリの中年イケメンオヤジっぷりがこの和やかな庶民街には不自然すぎる。
「これはこれはセシル姫。一ヶ月ぶりの挨拶が体当たりか? それに、S攻め鬼畜攻め獣攻めレイプ攻め暴行攻め調教攻め。とはどう言う意味だ? 所々悪い意味あいとは分かるが、全部の意味が分からない。
リンダは一ヶ月ぶりに私に会えてうれしくて失神したようだ」
(いや!! 違う!! うれしいじゃなくて恐怖)
「ご、ご機嫌よう……。リンダが横になっていたから、ちょっと……動揺してしまい……無礼な行いをお許しください!
もうわたくし処刑の覚悟はできています! ですがリンダとリリーとディランには何も罪はありません! どうぞご慈悲を」
床にひざまずく。もうほとんど投げやり状態。リンダを捕獲するタイラさまを見てたら、絶対逃げることができないことを悟った。じゃあ、ここは元大和男子(男じゃないけれど)根性をふるい立たせて、潔く散ってみせる。儚い桜のように!
「セーちゃん! やっぱり処刑されるの?」
「姫さまの代わりに私を処刑してください!」
リンダがテーブルから降りて、リリーがセシルの横に来て、二人とも土下座をした。
「「「「「……」」」」」
「いやだ! なんでセシルお姉ちゃんたちが処刑されないといけないの!!」
ジョニーが泣き叫ぶ。
「ちょっと待て!! なんででそこで跪くのだ? だから立て。セシル、リンダとリリーも今後そんな風に床に跪くことを拒否する。それよりなんでいきなり処刑になるのだ?
叔父上もしっかりしてください。珍獣を目の当たりにして、どうすればいいのか分からない気持ちも分かるけれど、そろそろ現実に戻ってください」
「あ。ああ……。どんな風に育てたらこんな生き物が育つんだ? そうだな。ここは私たちが平常心でいないとなかなか会話がすすまない。
私たちはリンダやセシル姫たちを処刑することはない。もちろんリリーもそこの神殿騎士もだ」
人が生死の境にいて必死なのに、イケメンたちは珍獣の話をして失礼すぎる。
「セシル姫さま、みんなが不安になりますので、テーブルに座ってお話をしましょう」
懐かしい声だと思って声の方を見たら、セイズ国神殿騎士のノブさんがいた。
「セシル姫さまの身の安全をアシール神殿騎士たちが守ることをここで誓います。たとえセイズ国王族と仲違いをしたとしても。だから安心してください。リンダさまもリリーさまも、顔をあげて椅子に座りましょう」
ノブさんが片膝を付いてやさしい声で話しかける。
ラングにいた時にノブさんはタイラさまの部下でセイズ王族の命令に従っていたと思った。こんな風にどうしてセシルへ言うのか理解できない。
「じーじに頼まれたのですか? わたくしは犯罪者の娘で、国を混乱に貶めた王族の生き残りだから処刑されると……」
ノブさんの目は、ラングで別れた愛おしい人たちと同じ目をしていた。
本当にセシルを心配している目だった。
「セシル姫さまが処刑されることは決してありません。
はい、ラング国アシール神殿長からセシル姫さまやリンダさまとリリーさまのことを頼まれています。決してセシル姫さまが処刑になったり殺されないように、ディランと同じようにお守りします」
「セシル! 処刑とはどういうことだ? 俺はお前たちが処刑になることなどないと誓ったではないか? 忘れたのか?」
ルークが慌しく声を上げた。
「セシルお姉ちゃんは姫さま? 処刑されるってなーに?」
「し!! ジョニー、しずかにしなさい」
室内にはジョニーをはじめミリエリーさん、アリスイさんやデンディリーさんもいた。
「とりあえずみなさま座りませんか?」
レイさんが言った。真面目そうな顔で言っているけれど、いまにも笑いたそうな顔をしてニヤニヤしている。
テーブルにリンダとリリーと座る。ディランはセシルたちの後ろに立って、座るのを断った。セシルたちの反対側にタイラさまとルークが座った。他の騎士たちは少し離れたところにいる。
ノブさまは上座に座った。




