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 朝食はみんな集まって食べるようになっている。

 朝食はアリスイさんが作る。彼女は父親に似たらしく料理の天才だった。ただ父親の手伝いをしておらずに客に出すような料理を作れなかったから食堂はつづけることができなかった。

 でもいまは料理人になるように練習している。


 セシルたちは数日滞在して出る予定だった。その間に台所などを勝手に使っていいと言われている。


 最初のうちは近所で甘いお菓子を購入したけれど、リリーは飽きた。セシルが作った前世のお菓子に比べて、種類が少ない。リリーとリンダとお菓子を作った。


 もともと砂糖は高級品で少量しか手に入らなかったけれど、小麦粉の値段が高くて驚く。


 ミリエリーさんをはじめ市場の人たちは、小麦粉の値段が上がった、と言う不満を耳にする。

 小麦粉はセイズ国の主食だ。

 セイズ国はラング国などの諸国に小麦粉を輸出している。あまり経済についての知識がないけれど、日本の歴史で習った米一揆などを思いだし心配になった。


 最近セイズ国王都では小麦粉が高くなってパンを買う人が減ったらしい。パン屋が閑古鳥で、近所に漂っていた焼きたてのパンの匂いも日に日にほどんどしなくなった。


 エミエリーさんの宿に宿泊することになった時に「パンはほとんど出せない」と恐縮しながら言われた。幸いにオートミールは普通に手に入ったから、セシルがエミリーさんにオートミールをパンの代わりにするようにすすめた。セイズ国民はオートミールの料理法をあまり知らなかった。

 

 エミエリーさんに料理を教えたけれど、どうしたらこんなすごい料理になるのか分からないくらいの姿形に毎回なってしまった。

 ここまで得体のしれない黒い物体を作るなんて、ある意味天才なのかもしれない。

 呆れ返ってアリスイさんが料理を習うことになった。でもセシルからでなくてリンダから。


 アリスイさんが料理の天才だとすぐに気づいた。


 セイズ国料理も習っていないのに作れるようになった。特にアリスイさんはスパイスを使うのに長けている。セイズ国料理は数個のスパイスを使う。


 メキシコ料理に似ている。


 ここは宿より食堂にした方がいい。


 食堂をつづけた方が収入が安定するのでは!


 せっかく建物はレストランの作りで、料理人もアリスイさんもいる。セシルはミリエリーさんにレストランの話を持ちかけた。

 ミリエリーさんも宿経営ではこのままでは破産すると思っていたらしい。だからダメもとでもう一度レストランを開くこととなった。


 インパクトのあるレストラン。メキシカンレストランを開くことにした。

 運良くセイズ国のバザーにトマトや人参などが売ってあった。まだ需給が高くないけれど、少しづつ一般家庭にも使われている。

 小麦粉は高いけれど、トルティーヤだったら少量の小麦粉でできる。後はトウモロコシがあったら、もっといろいろなメキシコ料理ができたのに。


 料理自体は元来のセイズ国料理をトルティーヤに包んで食するようにした。やっぱり馴染みの料理の方が大衆に受けると思う。

 後はトマトを使ったり、チーズを使用して、この店のオリジナリティーにしてみる。


 レストランの内装も明るい布でテーブルクロスにしたり、室内に観葉植物を置いたりした。


 アリスイさん一人で料理を作るのは大変なので、料理人も一人雇った。ディランはあまり他人に自分たちの居場所を知られたくないと警戒して反対したけれど、セシルたちはいつかは出て行く身だ。だからミリエミリーさんたちには安定した生活をして欲しい。


 セシルたちはどう見ても訳あり集団だ。最初はそんな風に思っていなかったけれど、ラング国民のような北国民族はセイズ国では目立つ。

 なによりリンダやリリー、ディランの美貌は目立ちすぎ!


 ディランもターバンで髪を斯くして顔をなるべく隠している……が、隠しきれないモテモテフェルモンのオーラがある。

 ディランが一人一緒にいるだけで、訳あり集団だ。そんな身元不明の怪しい集団を受け入れてくれたミリエミリーさんには感謝しているから、なにかしてあげたかった。


 雇った料理人はミリエリーさんの夫の知り合いのレストランの料理人の人だ。デンデェリーと言って、アリスイさんとも顔見知りだった。

 近所のお兄ちゃん。

 アリスイさんはデンディリーさんに恋をしている。


「おはようございまーす。今朝の料理も独創的でおいしいですね、さすがセシルちゃんだ」


 近所に住むデンディリーさんは朝一に来て、一緒に食事をする。明るい性格で、最初はセシルたちを見て驚いた顔をしたけれど、その後はアリスイさんのように接してくれる。

 前世のいとこのお兄ちゃんに似ている。

 分け隔てなく女性誰にでも「綺麗だ」「かわいい」「今度デートしよう」と言う、一見チャラ男と思われがちだが、前世のセシルはいとこのお兄ちゃんが大好きだった。

 

 デンディリーはリンダに対しても「リンダちゃん」と呼んで、リリーと笑った。まさかリンダがリリーの母親と思わなかったみたいで、ミリエリーさんたちも目を大きくしてリンダとリリーを何度も比べて見た。その後はリンダさんと呼んでいる。

 彼一人いるだけで、その場所が笑いを生む。


 一応会う人たちみんなに、セシルたちは家族と伝えている。リンダが母親でセシルとディランは、生き別れた夫の連れ子。セシルとディランが兄妹設定は無理っぽいと思ったけれど、それぞれの両親に似たんだと思ってくれているみたい。


 だからリンダもセシルのことを「姫さま」ではなく「セーちゃん」と呼んでいる。たまに「ひめ」と言いそうになるけれど、一ヶ月たって最近は慣れてくれたみたい。セシルもリンダのことは「かーさん」と呼んでいる。

 前世おばさん年齢だったセシルにお母さんと呼んで悪いと言う気持ちもあって複雑だが、リンダがうれしそうなのでかーさんと呼んでいる。


 「かーさま」は死んだ母親だけれど、リンダもずっとセシルの母親だったから「かーさん」だ。リンダは最初は反対したけれど、最後は涙を流しながら「ありがとう、姫さま」と言って受け入れてくれた。


「あの、これはアリスイさんが作ったもので」


「いやー、セシルちゃんやリンダさんやリリーちゃんは美人で料理が上手で、ほんと嫁にしたい」


 と朝からノーテンキなことをデンディリーさんが言っている。彼の気楽な物言いはいつものことでリンダたちもあまり気にしていない。

 デンディリーさんはさすが料理人と言うようにガタイがしっかりしている二枚目だ。もちろん口を開かなければだけれど。

 褐色のマッチョでくまさんのようなタレ目がいい!

 何度デンディリーさんとお客のオヤジたちのカップリングをしたことか。


「いい加減にして! セシルさんたちはいつまでここに居候しているつもりなの! あたしたちは、もう宿屋じゃないの。早くこの家から出て行って! あなたたち、本当は逃げているのでしょ。犯罪者なんでしょ!」


「ちょっと、アリスイ、やめなさい!」


 ミリエリーさんが隣に座っているアリスイさんの腕をつかんだ。


「だって、最近この辺でセシルさんたちのことを聞いている人がいるって近所の人たちが言ってたのよ。そ、それにもう一ヶ月もここにいて自分の家のように居座っているなんて信じられない」


「アリスイ!! セシルさんたちはちゃんと宿泊料金を払っているのよ。無給で家事や店の手伝いをしてくれているし、なにより食堂のことも全部セシルさんたちのおかげで軌道に乗ったの。その恩人たちになんて言うことを言うの!」


「な、なによ。なんでみんなセシルさんたちの味方して、かあさんなんて大嫌い!!」


 アリスイさんが立ち上がった時に、コップが倒れて水がテーブルにこぼれた。リンダが急いで台所へ行って台ふきを持ってきた。


「ミリエリーさん。アリスイさんを責めないでください。すみません。私たち、すぐに出て行きます」


 ミリエリーんがアリスイさんの頬を叩こうとしたのが分かったから急いで言う。


「え、で、でも。いいえ、セシルさんたちがここから出て行く必要はないわ。この子がおかしいの」


「な、なによ! かあさんだけだったら、宿もできないで食堂だってできなかったでしょ!!」


「アリスイ! やめろ」


 デンディリーさんがアリスイさんに向かって低い声でとめる。その時のアリスイさんの顔が傷ついた顔で歪んだ。


「私たち、南に行かないといけなかったんです。ラング国からお金が届くのを待っていて、王都を離れることができずに、こうしてダラダラと滞在していました。

 でも2日前にやっとお金を受けとりましたから、近いうちに出る予定だったのです。

 まだはっきりした予定を立てていなくて、お伝えするのが今になり、すみませんでした。

 いろいろ準備がありますので、後二日滞在させてください」


「セシルさん……」「お姉ちゃんたち、出て行ったら嫌だ。アリスイお姉ちゃん、謝って!」


 ジョニーが泣き出して、アリスイさんがプイッと台所へ行った。

 ミリエリーさんはジョニーを慰めながら、セシルたちにもっと滞在するように懇願した。


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