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 ここ数日、いや一ヶ月ルークは胸が炙られる焦燥感を抱いていた。セシルが見つかるまでこの心をかきむしられる焦燥はつづくだろう。


 セシルたちへの不当で残酷な持て成しを聞いてから一ヶ月たった。タイラ叔父上が動かせる騎士や兵を駆り出しセシルたちを探したが見つかっていない。

 セシルたちの失踪を知られないようにおおっぴらに捜索ができない状態だ。それでも失踪当初はすぐに見つかると思っていた。

 世間知らずの令嬢三人と美形な護衛だ。セシルのように人目を引く四人を見つけられないなどありえない。

 だが……一ヶ月がたったのに、王都から離れた地域も探しているが見つかっていない。

 


 神殿長のノブさまはセシルたちの居場所を知っているようだが、彼女たちの居場所を教える義理はない、と父上のセイズ王の懇願も体よく断った。ノブさまによると「セシル姫さまたちはセイズ国が歓迎した客間より快適な場所にいますので安心してください」と遠回しに毒を含みながら返答するのみ。父王をはじめ叔父上にも神殿に対して強く出れないのに、どうしてルークがセシルの居場所を聞けると言うのか。


 叔父上もノブさまの面会が許される度に、何度も同じ質問をして懇願するが、ノブさまも何度も同じ返事をするだけだ。

 ルークはその度にタイラ叔父上がノブさまに掴みかかろうとするのをとめる。ノブさまは一ヶ月がたった今でもセイズ国がセシルたちにした仕打ちに対してまだ立腹しているのがヒシヒシ伝わってくる。


 父上も叔父上もルークをはじめとしたセシルを知っている者たち全員が同じように行き場のない憤慨さを感じているようだ。


 セシルと距離を取ると決めたあの日よりも、マリアンナがセシルを傷つけようとした時よりも、セシルに無視されつづけた日々よりも、彼女の居場所を確認できないことが一番、心苦しい。


(無事でいてくれ……)


 楽園のような小さな箱庭で、繭に包まれて育った無垢な美しい女性を、ルークをはじめとするセイズ国が無残に汚してしまった。


 はじめて罪人収容所の館に足を踏み入れた、セシルがいなくなった日のことを日に何度も思い出す。

 こんな場所が王城にあったと知らなかった。叔父上もはじめて知ったようで驚愕な顔をした後に、セシルたちがこんな場所にいたとあらためて思い直し憤慨した。


 セシルたちをこのような場所へ入れようとした人物はすぐに見つかった。


 母親の妹の娘。ルークのいとこのソフィア。王家ではない外戚のいとこで、キルディア侯爵令嬢だった。ルークと同じ年で、兄上と結婚するつもりでいる。いまだに婚約者もいないまま年中城に滞在している。

 体調を崩している母、王妃の代わりに、率先して母上の手伝いをしていたらしい。


 ソフィアはルーク同様、セイズ国学園で子女教育科に席を置いている。学園は必要な科目を習得した後、試験を受けて卒業免許を貰う仕組みだ。来年ルークが卒業する時に、ソフィアも卒業すると言っていた。

 学園の子女教育、または令嬢学科は十代の貴族や裕福な商人や平民の女子が結婚相手を見つけるために、上流階級と知り合いになるために所属している。


 学園は王城の一角にあり将来国の中央で活躍する若者のが多く集う。王都学園は人気が高く、20歳で成人するまで滞在する者が多い。ほとんどの王都学園卒業者はそのまま王城で仕事に着く。子女教育を受けた女性たちも結婚しない者は女官として働く。

 行儀見習いで侍女として奉公に上がるより、学園を卒業して女官になった方が身分が上になる。


 隣国では成人する年齢も、国の制度や学業が違うと頭では分かっていたが、ラングへ行くまできちんと意味を分かっていなかった。

 

 そんな異国で生活をしているセシルのことを思うと胸が痛くなり、はやく自分のこの手で守ってあげないと焦りがでる。

 いくらセシルが成人していると言っているが、セイズ国では彼女は未成年だ。

 セシルのいたラング国の成人が17歳と聞いた。

 成人の年齢が違うから、ソフィアよりセシルの方が大人に感じるのだろうか……。


(いや、セシルはまだ子どもだ。守ってあげないと弱い女子だ……)


 自分で作った花冠を、本物の宝石でできたティアラをつけて王室の夜会に出席した少女のように、目がうれしそうにキラキラ輝いていた。

 

(愛おしい)


 ルークに自分の花冠を見せるセシルに駆け寄って抱きしめたかった。

 人を愛すると言うことは何度も何度もその者に、恋に落ちること、と知った。


 セシルとダンスを踊った日、自分の態度が最悪だった、と後になって冷静に思考がまわれるようになり反省した。その晩は彼女に完全に嫌われたと落ち込んで眠れなかった。しかし出発の次の朝セシルは普通になにもないようにルークに接してくれた。

 一国の王女らしくない出で立ちに驚いたが、華美より合理的な服装を選ぶところがセシルらしく、さらに愛おしい気持ちが溢れた。

 人目を気にせずにセシルを抱きしめたかった。


 ルーク自身もセシルと距離を置かなければいけないと決めたが、どうしてもセシルの姿を旅路追っていた。セシルが身分の隔てなくまわりに接する姿に誇らしく思う反面、それ以上男どもと仲良くするな、セシルを誰の目にも届かない場所に閉じ込めたくなる。

 何度も、前ラング王はそう言う気持ちで側室を隠していたのだろうか、と考えが浮かぶ。

 

 


 セシルと距離を置く努力をしたが、マリアンナがセシルに剣を向けた時に自分の気持ちが抑えられる物ではないと気づいた。


 恐怖な顔をしてルークたちを見るセシルの顔。拒絶。


 はじめて愛する者に拒絶される意味を知った。それを知った後はもうすでに遅かったが……。セシルと話をしてマリアンナの発言を謝罪し訂正をしたかったが、神殿騎士たちが許してくれない。


 タイラ叔父上がマリアンナを叱り、先に帰国するように命令した。

 父上の報告をする者と共にマリアンナが出発した後も、叔父上の憤怒は収まらず、残りの旅はセイズ軍は敗北軍のようだった。


 ルークは王城が近づくにつれ臣籍降下をすることを決心を固めた。ただいままで王族として教育を受け、父上を裏切ると思うと顔を合わせ辛かった。


 できれば王族としてセシルと結ばれる未来があればいい、と言う思いがまだあった。しかしセシルの遺産が多い。もし第二王子としてセシルと結婚すれば兄上の立場を危うくする可能性が大だ。


 王城に到着した日は、父上ともゆっくり会話ができなかった。兄上とも母上とも少ししか面会できなかった。

 だから自分の気持ちを父上に伝えるよい機会だった。


 運よく父上からセシルのことを聞かれ、恥ずかしかったが父上の聡明な案により、王族の籍を失うことなく彼女に求婚できる未来を見つけられた。


 その時すぐにセシルに求婚をしたかった。隣にいる叔父上も、父上からリンダとの結婚を認められ、ルークのようにこの場をすぐにでも離れたがっていた。


 セシルを傷つけた分、それ以上に彼女に求愛しないといけない。ルークの気持ちは舞い上がっていた。どんなに時間がかかっても、セシルと結ばれる未来があることに心が高鳴る。


 だからその後、神殿長に聞かされた内容に言いようのない憤懣と増悪が胸の中を渦巻いた。隣にいるタイラ叔父上も、目の前にいる父上もルークと同じようだ。


 セシルたちに部屋を案内した者たちをルークとタイラ叔父上自ら尋問した。

 

 父上の方も母上と共に城内の管理調査をした。 ノブさまの面会拒絶については、自前に面会約束がない者だったから受付人が拒否した、と。内務部が一点張りで受付人の一人の責任にしている。内務部を担当しているソフィアの父親、一応叔父に当たるキルディア侯爵家が最近きな臭いと父上が言った。

「セイズ国も大きくなりすぎた。ここで一度大掃除をしないとならないな」と父がボソッと誰に言うわけでもなく呟いた。


 ソフィアは母上が病気で細かいことに気を配れないことをいいことに、王妃代理と言う肩書きで城の管理をしていた。


 セシルの居場所の報告は全然無かった。だがソフィアのしてきた王宮での態度の報告は次々と報告されてくる。

 いくつかの報告の中に権力を傘にしたいじめもあった。数人の侍女たちや女官たちが王宮を辞めされている。本来ならソフィアのしたことは罰せられるが、母上が自分の監督不行届きと訴え責任は自分が被ると言った。

 父上もいまソフィアや母上の状態を公にしたくないらしく、身内で処理をしたようだ。

 母上の体調を考慮し、今回はソフィアも母にもなにもお咎めがなかった。ただソフィアに関しては今後王妃の業務の手伝いをしないこととなった。

 いままで自由に王族が住む居館の立ち入りはできなくなった。

 いくら公にならなかったと言っても普通の貴族は自主するのだが、ソフィアはいままでのように王城に滞在している。

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