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『コンコン。神殿長が陛下に緊急面会を求めています』


「入れ」


「失礼します」


「えっ? あなたが神殿長?」


 タイラとルークが部屋に入って来た神殿長を見て驚愕する。


「タイラ殿下及びルーク殿下、この度は身分を伏せて同行する形を取りましたことについてはお詫びいたします。

 改めて、私はセイズ国アシール本神殿長のノブ=シトレスです。


 家名は過去に捨て去りましたので、私が公で家名を名乗ることは今後ありません」


 神殿長はシトレス公爵跡継ぎ騒動で唯一関わりを持たなかった者で、公爵家を継ぐ権利がある。しかし彼は庶民の女性と家出同然で結婚したから、いまさら公爵家に興味がないと言った。


「神殿長はタイラが継いだシトレス公爵家の者だ。前シトレス公爵の三男だ」


「そ、そうだったのですか……」

 

 勘当されたシトレス公爵家の三男をほとんどの者たちは忘れている。いや知っていても、十代に家を出て出家した三男など誰も跡取りと認めていない。


「なぜ神殿長自らラングへ行ったのですか? なぜ50人の神殿騎士がセシルの護衛を申し出たのですか?」


 ルークが神殿長に立て続けに問う。

 タイラとルークにはセシル姫が緑の民と言うことを伝えていない。

 

 この部屋でその事実を知っているのは、神殿長とセイズ王だけだ。


「それは大国の合併は神殿においても重要なことです。特にラング国はアシール教にとって重要な地。何百年もの時をラング王族とアシール神殿は友好関係を築いていました。

 ラング王族にはアシール神殿に身を置く者として多大な恩を感じています。

 過去近隣諸国が土地争いをした戦乱時代、ラング国だけはただひたすら元来の領土と国民及び難民を守ってきた国だった。

 アシール教の教えもラング王族が保護してくださったおかげで滅び消えなかった。

 その恩義のある最後のラング王族を守ろうとすることは全アシール教の意志です」


 (それ以外にも緑の民のセシル姫を守るため。)


 ラング王族の恩義以外に神殿の緑の民を守ると言う義務のことは何も触れないで、神殿長は理由を言った。


「それより私は昨日から陛下に面会を申し込んで待たされていたのにお目通りが叶わず、昨日は門限払いをされ今朝一番に陛下との面談を申請したのですが、陛下は私と面談する気がないと言われました。

 緊急だったが、これ以上殿下の怒りがセシル姫に向かないためにも一晩待った。だが、一神殿長としてもう我慢できず、アシール神殿長の権限にて、直接談判でここに来たのです。

 それがどうした……一晩たってもお目通りが叶わなかったのに、ここに来たらすぐにお目通りが叶えられました。これは一体どう言うことですか?」


「なに? 確認してこい」


 神殿長の言葉を聞き、側近にすぐに状況を確認するように目で合図をする。側近の一人が頭を下げて部屋から出て行った。

 神殿長は国王同様重要人物だ。アシール神殿を敵に回すことは国を失うことと等しい。

 神殿長の緊急面会を拒否したり後回しなどあってはならないことだ。

 神殿長の面会について報告などなかった。


「昨日はラング国から遠征帰国で城内が混乱にあり、なにかの手違いがあったのだろう。ところで緊急な話とはなんだ? わしがセシル姫に怒りを抱いていると言ったか? それはどう言う意味だ? なぜわしがセシル姫に対して怒りを抱かなければならない?」


 無表情の神殿長が相当怒気しているのを察した。こちらの手違いについて謝罪をすべきだが、一国の主として状況をすべて確認して謝罪をしなければならない。


「そうですか。陛下はなにも知らないと言うのですか?」


 神官長はセイズ王が直属の部下も管理できないのか? と挑戦的な態度を見せた。それほど目の前の神殿長は憤慨している。顔は無表情だがヒシヒシと彼の怒りが伝わる。

 国の重要人物の緊急面会を勝手に拒否するなどあってはならない。彼の面会要求の連絡さえセイズ王の元に届いていない。

 これは一大事だ。

 セイズ王のまわりにいる者たちも、重大問題に気づき数人の側近たちは部屋を離れた。


「それではセシル姫の護衛をしていた神殿騎士たちの入城禁止をしたり。離れ館、いままで使用されておらずに閉鎖されたと聞いた罪人収容所の一室が、セシル姫さまの客間と言うのも、それも手違いなのですか?」


「「「!!」」」


「いま、なんと言った」


 神殿長の言葉を聞き間違えたと思ったが、席を立ち神殿長に掴みかかろうとしたタイラを見れば、いま聞いた内容が聞き間違えのはずがない。

 タイラの側近が咄嗟に彼を止めた。


「昨日、セシル姫さまとアリス姫さまたちは、表門からの入城を拒否され裏門から入りました。その時にセシル姫さま付きの護衛の神殿騎士たちの入城も拒否されましいた」


「なんだと!? じゃあ、いま誰がリンダたちの護衛をしているのだ?」


 タイラが大声で問いかける。


「ディラン一人です。私は神殿長として一緒に入城しましたが、セシル姫さまにあてられた部屋があまりにもひどく、私はこうして確認に来ました。それが一晩も確認できないままでした。

 私はてっきりセイズ王はラングの王女を保護すると言う大義だったと思っていました。

 それがセシル姫を罪人として裁かれるために騙して国に連れて来られたのですね」


「「「「なにを言う!?」」」


 セイズ王は驚きと憤怒で声をあげる。


「セシル姫さまをはじめラング国出身の者たちは落ち着いた場所でいろいろな手続きをしないといけないと王城の騎士に言われ、正門から他門へ案内されました。

 正門は軍の帰還の歓迎で混雑しており、他の門からの入城を王妃の命と伺い従いました。

 しかし商人する使わない裏門、つまり罪人門での入城とはまさか思いませんでした」


 神殿長は怒りを抑えるように無表情で淡々と話す。


「もちろん入城後、案内された部屋はここ数十年使われていない罪人収容所。まあ定期的に建物が崩れないようにと空気の入れ替えくらいしている建物だけあって、離宮と言えばそのように他国の者たちを騙すことができますが……あまりにもひどい仕打ちと同じセイズ国の者として恥ずかしく納得しきれずにいます」


「罪人収容所!! リンダは昨晩そこに泊まったと言うのか? 兄上はリンダたちを罪人としてこの国に連れて来たのか!!??」


 タイラが神殿長に問い詰めるより、セイズ王へ向けて声をあげた。


「落ち着け、タイラ! さっき話し合ったではないか? 親友ラング王は罪人ではない! セシル姫はワシの娘のように大事にするつもりだ。お前がリンダと結婚してセシル姫を養女にすると考えている。

 確かに王妃が城の管理をしておるが、ここ半年あいつは体調を崩している。

 王妃の側近たちが命令したのか、至急調べさせる。神殿長の面会に関してもだが、この城の管理の見直しが必要だ。

 いまはセシル姫の安全を優先だ。セシル姫たちを王族の住まうい居館へすぐに移動させろ。その際に手違いについて説明をしてくれ。

 タイラ、ルーク二人にその任を任す。

 神殿騎士の入城はいまは受け入れられないが、神殿長はいつでもセシル姫との面会に王族居館の出入りを許可する」


「「御意」」


 ルークとタイラはセイズ王への挨拶もままにならないまま部屋を出て行った。その後を神殿長が追いかける。

 セシル姫たちが謝罪を寛大に許してくれることを願う。


 それにしても城の管理があまりにもひどすぎる。この一ヶ月、ラング国のことで忙殺されており城内のことは疎かになっていた。

 以前は王妃がしっかり管理していたが、最近は体調を崩し政務を休みがちになっている。王妃業はまわりの側近たちが手を貸している。


 王妃は頭をあげるとめまいがし、体がだるくと食欲も偏食になった。数人の貴族たちは王妃のことを怠け者と噂して、セイズ王に新たな側室をすすめる。

 跡取りがすでにいるのに、自分の利益しか考えない輩ばかりだ。


 王宮の医師や薬師たちが王妃の治療にあたっているがいまだに成果がない。


 セシル姫が緑の民と知った時、もしかしたら王妃を直す薬草を創ってくれるかもしれない、と一瞬頭をよぎった。


 ラング王国にはセスと言う優秀な薬師がいる。彼はラング国にいなかったが、セスの弟子のセシル姫とリリー姫も優秀でセイズ国薬師の知らない薬も調合すると聞いている。

 だから今回セシル姫たちが王妃の病気を治してくれるのではと考えていた。


 それが……。


 セイズ王はさっきはなるべく冷静さを保っていたが、いまはセシル姫たちに罪人収容所を進めた人物をどのように罰しようかといまはフツフツと憤慨しながら、今朝提出された書類に目を通した。

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