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「ちょっと待って。まだ話が終わってないわ……」
「姫さま……」
「リンダ、リリー、いまの見た!? にやって笑ったよね!? な、なにが『おとなしく』ここにいてくださいよ!! ここから出たことないのに! な、なんであんな俺さまなのよ!!」
(くっ、私はおてんば娘じゃないって!! なんであいつに上目線されないといけないの! 何さまなの! もう絶対、調教系M王子総受けにするからね!)
「俺さまとはどういう意味だ?」
王子が出て行った入り口を睨みつけて悪態をついてたら、笑い声をかみ殺しながら、ルーク王子が顔を出した。
「ちょっと、なに盗み聞きしているの! なんで戻ってくるのよ!?」
「はっはっっは。お前、何枚猫をかぶっているんだ?」
むかっ!!
「殿下ほどではありません!!」
「ルークでいい」
「はっ?」
なにをいきなり言うんだろう。
「だから俺の名前は、ルークでいい。俺もお前のことをセシルと呼ぶ」
「ちょ、ちょっとかってに呼び捨てしないでよ! はっきり言って、わたくし、今後あなたと交流する予定ありませんから。すぐに市井で生活する予定だから、王子のことを呼び捨てなんてできません!」
「……はあ? 巷で生活する?」
ルークが飽きれた顔をしている。出会ってからずっとそんな顔されているのは気のせいだろうか……。
「殿下。急いでください。セシル姫さまのことは陛下が決めます」
「ああ、そうだな。レイ。セシル。明日の昼すぎに神殿で、ラング王の告別式を行うから準備をしておくように」
「!!? と、とーさまの葬式をしてくださるの?」
てっきり犯罪者だから葬式をすることができないと思っていた。
「ああ、国をあげてはできないが、身内でする……。ラング王の遺体はすでに火葬したが、神殿できちんと死者の魂の告別式を行う」
目頭が熱くなる。今日は泣いてばかりだ。ふと頬に固い手のぬくもりがあった。
「セシルは泣き虫だ。顔が酷いことになっているぞ」
「っ!! 泣いてなんていないわ!! 勝手にわたくしに触れないでください! 早く仕事に戻ったら!?」
「はっはっはっは。ああ、そうだな。また来るよ」
「もう来なくていいから!」
あたたかい温もりが消えてさびしくなった。
「もう、あれ、絶対、王子じゃない! 品がないし、俺さまだし!」
「セーちゃん、護衛の人たちが監視しているから……地で本音話すと王様に打ち首にされるよ……」
リリーが小さく言った。
「あっ、ご、ごめん……ど、どうしよう……で、でも殿下が悪いの。そ、そうよ、きっと周りの人たちもみんなそう思っているわ……」
護衛の存在を忘れていた。さっきから王女モードじゃなく地でしゃべっているし……。セシルはあせって護衛騎士たちを見た。
部屋には四人の騎士がいた。紺色の軍服を着た中年イケメン以外は、黒の軍服を着ていて、三人とも30才くらいだ。もちろん全員マッチョで背が高い。セシルたちを気遣って距離を置いた所にいるが、それでも首を上に傾けないと顔が見れない。
「あっ、あの……わたくしはセシルと申します。それでリンダとリリーです。護衛なんていらないけれど、よろしくお願いします」
とりあえず日本人専用愛想笑い。
リンダとリリーもセシルに真似てお辞儀をした。
「はっはっは……失礼。丁寧な挨拶感謝します。わたしはセイズ第一騎士軍テルで、こっちらがハル、ミック。そした一人制服が違うのが、セイズ神殿騎士のノブだ。 俺たち、いやわたしたちのことは空気と思い生活してください」
四人の騎士たちはニコニコしながらセシルたちを見ていた。
「あっ、はっ、はい……」
中年イケメン軍隊と見つめあって会話するスキルなんてない!
リンダとリリーに助けを求めても、2人も困った顔をしている。リリーにおいては、まだ男の存在に怖がっている。
「夕飯、多めにつくろう……。保存している缶詰のトマトのピューレで、スープ作る? どうせここにいる日も少ないから保存食使おう?」
「ええ、そうですね」
「わーい。もうせっかくだから思いっきり贅沢しよう。じゃあ、果物の缶詰やハチミツでお菓子もたくさん作ろうよ」
「もうリリーったら」
リンダが笑った。今後セシルはどうなるか分からず不安だけれど、リンダとリリーが一緒にいれば大丈夫だと思った。