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まずはじめにセシル姫とリリー姫、リンダ嬢の身の安全の確保をしなければならない。
弟タイラと息子のルークに、この重大な任務を任せた故大丈夫だろう。
セシル姫がセイズ国に到着した後、どのように彼女たちを保護しようかいくつか思案するが、なかなかいい案が浮かばなかった。
新たに知ったミチル国とラング国の情報を元に、今後の動きを考えて整理をした。
セイズ国のミチル国境にはミチル国民の難民が以前も多かったが、故ミチル王の死後、数倍に増えた。いままでミチル国難民はラング国へ移民していた。ラング王はすべての難民を手厚く受け入れて仕事を与え、自活できるまで衣食住をただで提供した。大国セイズでも決してできないことを、親友ラング王は意図も簡単にしてきた。
(おしい人物を亡くした……。)
と、また彼の死を悔やむ。
ラング国に国民を移民させないよう、ミチル国軍がラング国境に待機し自国民を虐待している。ミチル国とラング国境は地獄絵だと旅商人から噂を聞いた。死んでも家族が人間らしく生きられるようにと、ミチル国民はラング国へ入国を試みることをやめない。
故ミチル王の死後。ミチル国中央が混乱して国境にいた軍がいなくなったのを期に、ミチル国民がいっきにラング国へ流れている。
今回セイズ王が軍をラング国へ遠征した理由の一つは、ラング国の援軍。流れて来るミチル難民者たちの統轄を手伝うためだった。だがラング王の亡き後も、ラング国はセイズ軍の助けなどいらずに難民の対処をしていた。
大勢の食事をはじめ、ラング国はセイズ国の助けなど必要なかった。ラング国の受け入れるミチル国難民はセイズ国へ流れて来る難民よりはるかに多いと言うのに、一人一人手厚く受け入れている。
ラング国の国力のすごさを再度目の当たりにした。今後も人口の増えたラング国がさらに強国になるのは目に見えて分かる。
その強国が我が領土になった。
例え領土が小さいといえ、ラング国はアシール神のメッカ。湧水のように潤いが乾くことのない経済大国。それを自分に譲り渡した親友。
経済大国だからミチル国など侵略すればよかったのだ……ふと、そんな思いが頭にかすめる。だがラング国は争いを好まない国民性で軍事に力を注いでいなかった。
もしかしたら平和主義の国だからアシール神の庇護を受けて、弱い軍事力にも関わらず国が存続し続けたのかもしれない。
きっと親友は国民を守るために、戦争で死者を出さないように、自分の死を選んだのだろう。親友は国を豊にしたが賢王だったが、やさしすぎた。
王など綺麗事ばかりで勤まらない。
(金を使い軍力を高めて、ミチル国を乗っ取ればよかったんだよ。)
一国の王として決して言ってはいけない本音。それだけ親友ラングの死は残念すぎた。
(どうして、あいつの願を聞き入れなかったのか……。)
幾度とした後悔をする。
「タイラ殿下およびルーク殿下が参りました」
側近の一人が声をかけた。
昨日ラング国から帰国した二人が今朝一番に詳しく報告に来た。昨日は遠征をした軍人たちのささやかな宴会をして忙しく、ゆっくり報告を受けることができなかった。
セイズ王の執務室へ入って来た二人は、なぜか憔悴していた。セイズ王はソファーに移り座り、側近の一人がお茶をつぐのを待ちながら弟と息子の様子を観察した。
「どうした二人とも、帰国して任務をまっとうした喜ぶ者の顔ではないぞ?」
セイズ王は弟と息子をからかう。
「リンダの顔を3日も見ていない! 今日こそは誰がなんと言ってもリンダに会いに行く! 兄上の報告などルーク一人ですればいいではないか?」
家族内では砕けた話し方をする弟だが、仕事を一番に考えている男が大事な報告をルークに任せると言って驚く。ルークはなにも言わずに、なにかを我慢するように拳を握り締めて下を向いたままだ。
「リンダと言うのは、セシル姫の侍女で確かラング宰相の娘公爵令嬢のことか?」
「ああ。やはり兄上はセシル姫の侍女たちが宰相の娘たちと知っていて、二人を手厚く保護するように命令したのか?」
「そうだ。セシル姫の侍女たちの身分は極秘だから、出発前に情報を開示しなかった」
それにこうしていまだに、二人が公爵令嬢以上とは言えない。
「兄上。私とリンダの結婚をお許しください!」
セイズ王は座っているソファーから滑り落ちるところだった。
「そ、それは、一体どう言うことか?」
滅多なことでは動揺しないと思っていたが、いまは王としての顔も崩れているだろう。
「そのままです。私はやっと愛する者に出会えました。だからいますぐにでも結婚するつもりです」
いままで恋愛の「れ」の字とも無縁に生きてきた堅物軍人として有名な弟が恋をした。もう天地異変はすぐそこまで来ているのだろう。
「も、もちろん……。」
「お許しをいただけたのですね! それではすぐに結婚式の準備をしないといけないので失礼します!」
動揺しすぎて、言葉がでなかった。でもいきなり結婚式の話をしている弟にはっと王としての自分の立場を思い出す。




