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「なにかの間違えではありませんか? わたくしは処刑も幽閉もないと言う約束をルーク殿下からいただき、セイズ国に来たのは客としてセイズ王陛下に挨拶をに来ただけです。
だから、このような待遇を受けるのは間違っております」
本当は身分違いで処罰されるのではないかと内心ビクビクしていた。もしそうなるとしても、いまきちんと状況を把握しておかないといけない。
ちょうど今はリンダとリリーがいない。もしセシルが処罰を受けるのなら、二人がいない内に。セシルが処罰を受けている間にディランが二人を逃してくれるかもしれない。
「はっ!! これだから世間知らずで幽閉されて生きてきた無学の女は、まともな会話もできないのよ。
あなたが抵抗しないでラング国を受け渡すためにあえてついた嘘を信じて。でもそれに対してはあなた、感謝すべきよ。田舎国が栄誉あるセイズ王国の一部になれるもの。国民たちはさぞ安堵していることでしょうね。
そんな中、亡き王族がいたらどんな争い事が起きるか。
わかった。あなたは自害するべきだったのよ。普通、亡国の王族としての常識も知らずに、こうしてノコノコと亡命して来て。本当に恥知らずな元王族よね。小国でも仮にも王女と名乗っていたのなら、自害すべきよ。いまからでも遅くないわ、わざわざ陛下の手を患わせることなく自害なさったらいかが?
でも、わたくし、無闇に女性子供の命が散っていくのを見るのは嫌いなの。
だから、もしあなたがここから出て行って二度と王族や貴族たちいの前に顔を出さないと言うのであれば命だけは助けてもいいわ」
ソフィアさまは身分が高く教養のある令嬢なはずなのに、前世セシルをいじめていた女性たちにそっくりだった。
人に死ね、と日常会話のように発言する。前世の幼いセシルに「ブス、死ね」と言った者たちのことを思い出して息が苦しくなる。
眩暈がしそうだったが、王女としてのプライドでソフィアさまに向き合う。
彼女の言い分が正しいと思わないけれど、どの道セシルは城から出て井市で生きていくつもりだった。それが少し早くなるだけ。それにセイズ国王陛下に会って、どんな言いがかりを言われるか分からなかったから、ソフィアさまの言葉に従うことにした。
「セーちゃん」
リリーがソフィアさまの後ろから駆けてくる。
「リリー!! どうしたの?」
「まあ、汚らしいこと」
ソフィアさまの言葉にまわりの取り巻きたちがいっせいに笑い出した。
「水を運ぼうと思って歩いていたら、使用人がぶつかって来て」
「まあ、ラングの田舎者の侍女は水運びもまともにできないのかしら。ほほほほ」
濡れたリリーを早く乾かさないと。いくらセイズ国はラングより暖かいと言っても、この世界は地球のように風邪で命を落とすことだってある。
「分かりました。わたくしたちは、今すぐにここから出て行きます。そしてこの国から離れて二度とこの城には入りません」
「あら、そう。くれぐれも自分の言葉に責任を持ってちょうだいね」
ソフィアさまたちは最後までセシルやリリーを汚い物を見る目で見て去って行った。
リリーの着ていたコートのおかげで中のスカートは濡れていなかった。リリーは廊下でスーツケースを開いてコートの代わりに上着を取り出す。
ディランはソフィアさまの話は全然信用できないから、神殿騎士のノブさんが来るまで待つように言った。ノブさんにセシルさまの待遇について上に連絡をするように頼んだらしい。
いつディランとノブさんはそんな話をしたのか聞いたら、裏門に着いてすぐにだそうだ。
「リンダ?」
リンダが夢遊病のようにフラフラとこっちへ歩いてくる。あまりにも普段のリンダじゃないと遠くから見て分かったから、彼女の元へ駆け寄る。
「ひ、姫さま? あーーーー」
リンダがセシルに抱きついて泣き出す。声を殺して泣いている。セシルにしがみつくリンダは、生きるライフボートにしがみつく者のように必死だった。
セシルは何度もリンダの名前を呼び、大丈夫と背中をさする。そしてときどきどうしたか尋ねた。
リンダが少し落ち着くのに10分は時が過ぎたと思う。
「リンダ、どうしたの?」
「っひっく、いたの。見たの」
リンダは何度もしゃっくりをする。
「食堂へ行って。ひっく。城で働いている人以外にはただ食事出せないって言われて。ひっく。客と言ったのに、城の侍女が付いていない客なんているわけないって言われて。金払えって。お金持っていなかったから。
金払わない乞食か? 泥棒か? って、それとも娼婦か? って、笑われて。
他に侍女たちがいて、私のことを娼婦王女の娼婦侍女って噂していて。まわりの人たちが誰も私のことを聞いてくれなくて。ひっく。姫さま、ごめんなさい。わ、私、ひっく」
かねてのリンダの話方でなく、ここまで取り乱すリンダを見たのはリリーを妊娠した話をした時以来だ。やっとリンダの話の内容を理解して、カーっと頭に血が登る。一緒に話を聞いているディランが今にも剣で人を殺しそうだったが、セシルたちの元を離れることができないからただ剣を握り締めている。剣を握りしめるディランの手が赤く脈が浮いている。
「姫さま。お願いします。ひっく。ここから離れましょう? あ、あの人がいたの。あの人を見たの」
リンダが「あの人」と言う度に体が大きくふるえる。
「ええ、もちろんここから離れましょう。あの人とは誰のことなの?」
「……リリーの本当の父親……」
リンダが小声でつぶやいたけれど、母親を心配して近くに来て話を聞いていたリリーにも聞こえた。でもリリーはしずかに、リンダを心配して立っていた。




