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 新たに生まれ変わった後数年薬師のセスさまと旅をした。薬師セスさまはディランのために薬を探していると、旅をしている途中で気づいた。

 ディランは「成長を止める薬」を長く摂取しすぎた。副作用は感情を失う他に、多岐の細胞を殺した。彼はその後成人した大人のように成長できた。

 でも子孫を残す能力は失っていた。セスさまはそんなディランを治そうと薬草を探してくれた。

 

 人殺しをして生きていたディランは、自分の子供を欲しいと思わないのに……。

 もうこうして生きているだけで十分だった。ルネンさま、ラング王、セシル姫さま、リンダさま、リリーさまに神官長。ディランには家族がいる。もうそれだけで十分だ。


 セスさまは緑闇の部落を中心に旅をしていた。そしてディランは緑闇に、「緑の民の護衛になる者」と顔つなぎをした。


 緑闇はルネンさまが創った植物に気づき、その植物を追ってルネンさまが緑の民と確信した。

 ルネンさまが緑の民と確信した後にラング王に接触した。ラング王は、緑闇が緑の民を守る集団と、神殿長から聞いていたからすぐに彼らと手を結んだ。


 セスさまはこの緑闇との連絡係だ。


 いくらラング王が賢王だったが、彼が生き残りルネンさまたちを守ることができたのも緑闇と神殿のおかげだった。でなければ、ラング王はとっくにミチル王族に殺されていた。ミチル王族は今も昔もラング国を手に入れようとしている。


 ここ十年ラング国を豊かにしたのはセシル姫さまのおかげだ。

 ルネンさまが亡くなった後、緑闇はセシル姫さまを守ることに一族全員命をかけている。現にセシル姫さまは歴代の緑の民より優れており、飢餓地域を救った。まだ北地方しか今は救いの手が差し伸べられていないが、今後セシル姫さまが他の植物を創造する可能性が高い。


 なんとしてもセシル姫さまの命を守らなければいけない。


 ディランがそう決意したのは、彼が緑闇でも神殿騎士だからでもない。愛する者を守るために理由などいらない。


 数年セスさまと旅をした後に、神殿長の養子になった。こんな暗殺者が神殿長の息子になるなんてどれほどラング人はマヌケでお人好しなんだ。ディランはそんなマヌケでお人好しな人たちが愛おしい……。神殿長から人としての生き方を教わった。騎士の訓練は難なく終え神童と言われて短期で神殿騎士になれた。まわりはディランの年齢を知らないから、神童と勘違いしても仕方ないことだ。本当の神童とは、セシル姫さまのことを言う。


 ディランは運よく徐々に体が成長していった。体の成長するにつれて、持て余す感情も増えていく。


 ルネンさまの死は、身が裂けるほど悲しく辛かった。あの日ほど泣いたことがない。はじめて人が死ぬと言う本当の意味を知った。もう二度と愛する人の死を見たくない。


 立て続けに襲う不幸……ラング王の死。彼はディランの命の恩人以外に父親だった。ディランの色は緑だと言った日を今でも覚えている。血に染まったこの身を赤ではなく緑と言われた。


 ルネンさまとラング王の残したセシル姫さまを、この命に代えて守る。そう思わないとディランは生きていることができなかった。あんなに人殺しを息を吸うようにしていたが、愛する者を失うことは受け入れられず。二人を恋しがる心の悲鳴が身体に痛みを与えた。セシル姫さまは絶対に誰にも傷つけはさせない。愛する者を失う恐怖か、セシル姫さまへの愛という名の執着心か。もう神殿長にこの不思議な気持ちについて相談できない。


 セシル姫さまがルーク殿下や他の者たちと親しく接するとイライラする。

 だからセシル姫さまがルーク殿下と距離を置くと言った時に喜んだ自分に戸惑う。


(俺は一体どうしちまったんだ……。これが生きると言うことか……。)



「ディラン殿。セシル姫さま及びアリス姫さま、ラングの者たちは裏門から入るように城からの指示が出ています。そして神殿騎士の入場拒否とのことです」


 ノブさまが納得ができずに不服顔だ。もちろんディランもだった。


「裏門からの入城は国民の混乱を避けるためだそうです。これは城の管理人王妃の意向だそうです。そして神殿騎士の入城拒否はおそらくタイラさまだと思います」


 このままセシルたちを連れて王都を離れることも何度か考えたけれど、セイズ王国は広い。なにも落ち度のないセシル姫さまたちに逃亡生活などさせれない。

 そしてセイズ王がセシル姫さまの資産のほとんどを管理している。


 ラング王がセイズ王を信じていたように、ディランたちもセイズ王を信じなければ。


「ノブさまはすぐに王に面会され神殿騎士の護衛の許可を取ってください。私と数人の緑闇が付いていますので安全です」


 ノブさまは渋々頷いて、神殿騎士たちにセイズ国神殿に行くように指示を出した。神殿騎士たちは不満な顔をしたが神殿長の指示に従った。

 裏門で手続きをして入城する。

 てっきりタイラさまをはじめとするセイズ国騎士たちが護衛に付くと思ったが、門の中には誰もいなかった。その代わりに王都に入ってから、国民たちの歓迎の声がここまで響いた。


 タイラさまたちは遠征の主役だから抜けられなかったのだろう。


「ディー。どうしてわたくしたちは裏門から入らないといけないの?」


 セシルさまが今にも泣きそうな顔をしている。


「ご安心ください。ただ混乱を避けるためです」


 決してディランの不満や不安をセシルさまたちに気づかれてはいけない。


「そ、そうなの? どうもわたくし、悪い方向にばかり物事を考えてしまって。ごめんなさい」


 セシルさまが考えた通り、ディランたちも考えている。セシル姫さまを客人として迎え入れるはずが、裏門からの入城なんてありえない。

 アリス姫さまも文句を側近たちに言っている。アリス姫さまはすぐに前ミチル王弟が滞在している部屋へ自分を案内するように命令した。


 アリス姫さまは前ミチル王弟がセイズ王城にいると知っていた。

 セイズ王城に前ミチル王弟と前ミチル王の娘が滞在している。そんな所にセシル姫さまたちが滞在するかと思うとさらに不安が募る。前ミチル王弟がただ今後のアリス姫さまの処遇の話し合いのために滞在しているだけと信じたい。前ミチル王弟が玉座につくためにセイズ王の助言を受けようとしていると聞いた。ミチル国内は内戦が今にも起きそうな状態と聞いた。ミチル国民の王族への不満が前王の死後いっきに爆発した。


だから前ミチル王弟はミチル王女かアリス姫さまをセイズ王子たちに嫁がせ、セイズ国の後ろ盾を得て王になるつもりだと。


 セシルたちを迎え入れたのは数人の使用人たちだけだった。その使用人も身分の下の者で作法がなっていない。決して一国の王女を受け入れる体制ではなかった。


 そして案内されたセシル姫さまの客室は下女の部屋だった。いや下手をすれば牢屋と言われても納得する部屋だった。


 これはなんかの間違えだ。ノブさまの連絡があるまで城から出ることができない。緑闇たちの激怒が屋根裏から伝わってくる。今すぐにセシルさまをこの場から連れ出さないと、彼らがなにをするか分からずに切歯扼腕する。

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