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 ミチル王からの依頼は「後宮にいるラング王の側室と王女を殺す」だった。ミチル王は何度もルネンさまとセシル姫さまの暗殺を試みた。だがラング王が従える暗殺部隊が優秀だった。


 だから幼い少年にしか見えないディランが今回の任務を受けた。

 ディランの容姿は人を油断させるらしく、彼は他の者たちより長い年月成長を止める薬草を摂取させられていた。

 ラング城に潜入した時もディランの様子に大勢の者たちが騙されて後宮へすんなりと侵入できた。高い壁を登り側室と王女のいる屋敷へ侵入した。茂っている森で息を沈めて数時間屋敷の中を観察する。

 ディランはこの閉ざされた屋敷にラング王の暗殺者が護衛をしていると知っており、下手に息もできなかった。


 数時間息を潜めて潜入してた。静寂した庭に子どもと女たちの笑い声が聞こえた。


(側室と王女だ!)


 遠目だけれど太陽の光でよく見える。

 

(殺せ!)


 いつものように本能が命令する。

 でも段々といままで感じたことのない気持ちがわいてくる。


(これはなんだ?)


 暗殺対象を観察していると段々と胸が熱くなってきた。いままで暗殺対象を見てもなにも感じなかったのに、この女たちに対して不思議な感情がわいてくる。


(人が笑っている。幸せそう……。俺は、俺には……殺せない……。)


 きっとルネンさまたちが緑の民だったからなのかもいしれない。と後でその時、自分が生まれ変わった理由を理解する。


 ディランにルネンさまたちを殺すことはできなかった。ただ無邪気な笑顔の美しい人たちを見ていたかった。

 特にルネンさまに見惚れていた。ひっそりと息を殺して見ていたが、ラング王の暗殺者に見つかり、体が勝手に動く。


(逃げなければ!)


 後宮に無断で侵入した者を排除しているラング王の暗殺者はディランの姿を見て「っ!!」声にならない悲鳴をあげて両目を大きく見開く。


 自分を殺害する手が一瞬止まった。その隙にディランはルネンさまの元に駆け寄る。ルネンさまと反対の方向え逃げるべきだったが、足が勝手に彼女の方へ動いた。ルネンさまを殺すつもりがなかったからナイフは握っていない。


 もうルネンさまを殺害するつもりはなかった。ここから生きて帰っても、ディランは仲間に殺されると知っている。はじめて自分が生きていると感じさせてくれたルネンさまを近くで見てみたかった。ただそれだけだった。


 後少しでルネンさまに触れると思った瞬間、護衛の暗殺人たちに体を地面に取り抑えられた。


「キャーーー。ダメ! 私のお友達を放して!」


 ルネンさんが泣き叫ぶ声を地面の土に触れた耳にもはっきり聞こえた。彼女の姿を少しでも長く見たい。抑える手に反発して顔をあげる。

 護衛たちがディランを担いでルネンさまから離れようとしたが、ルネンさまが護衛の腕を掴み、そしてディランに腕に捕まえた。ルネンさまの触れた手が、温かかった。


「何事だ!」


 騒ぎを聞いたラング王が庭に出て来た。


「わ、悪い人たちがお友達をいじめるの!」


 とルネンさまの温もりが消えた。彼女はラング王の胸に飛び込んだ。泣きじゃくり「お友だちを助けて」と懇願するルネンさまの背中をラング王がやさしい手つきで何度もさする。ラング王は彼女を抱きしめ「大丈夫だ」と柔らかな声を繰り返す。ルネンさまが落ち着いた後に「報告を」と小声で護衛の一人に言った。護衛はラング王の耳に近づいて報告した。


「お友達を連れて行かないで! あの男がお友達にひどいことをするの! お願い。お友達を助けて!」


 後で知ったが、ルネンさまがミチル国の貴族館で監禁されていた場所に綺麗な幼児がいたらしい。ディランをその時の一人と勘違いして混乱していた。

 本当はルネンさまが落ち着いた後に処刑されるはずだったが、ルネンさまが何度もディランに会いたいと言ったらしくすぐには殺されなかった。


 捕まった後にラング王とセスさまと何度も尋問された。二人にディランが持っているミチルの暗殺集団について情報を渡したら命を助けると言われた。

 もちろんディランには、死賊に義理がないから知っている全てを話した。

 そして、死ぬ覚悟ができていた。最後に自分が生きていると感じれたことに幸せを感じる。

 この世に神などいないと思っていたが、最後に神の存在を感じた。それだけでもう十分だった。


 いつでも死ぬ覚悟ができていたのに。

 ディランは殺されなかった。

 ラング王の意図が分からないまま、ディランは何度かルネンさまに顔を見せに箱庭に入った。本当は誰も箱庭に入れないけれど、ディランと緑の民を守る隠密たちは特別だった。

 この隠密たちは『緑闇』だ。


 ルネンさまに会っても会話など何もなかった。ただルネンさまの後ろに付いて庭をまわるだけだった。ディランの後に隠密たちが見張っている。でもディランにはルネンさまを殺害する気はもう全然なかった。


 ルネンさまたちが住む後宮の屋敷は、『箱庭』と呼ばれている。これはセシルさまが名づけた、本当に言い得て妙だ。

 箱庭は広くて不思議な空間だった。

 箱庭にはルネンさまとラング王の娘のセシル姫さまが住んでいる。セシル姫さまの姿を見たのは暗殺の時の一度だけだった。

 ルネンさまとそっくりな小さな子供だった。


 ルネンさまと会う時はセシル姫さまは建物の中にいる。


 ディランはミチル国内にある暗殺集団「死賊」に伝わる「成長を止める薬草」について秘密を話した。ラング王がそれはきっと緑の民が創った物と言った。

 おとぎ話の緑の民。まさかそんな人がこの世にいるなんて。

 そして、なによりルネンさまとセシル姫さまが緑の民だったなんて。

 ディランが神の存在を感じたのは、ルネンさまが緑の民だったからだ。


 もうディランの中にはある決心ができていた。


 秘密をラング王に話した後に「お前はどんな人生を送りたいのか? お前の希望を叶えれることだったら、叶えてやる」と言われた。


 この質問の前に、何度もラング王と話をした。だからラング王はディランが人殺しを何度もして死賊に所属している知っている。成長を止める薬草の副作用で感情のないただの殺人人形と知っているのに、ディランの希望を聞いてきた。

 だからディランが「殺してくれ」と願ったのなら、ラング王は彼を殺害しただろう。でも死賊へ戻りたいと言う願いだけは聞けないと言われた。


 何度もルネンさまに会って気づいたことがあった。ルネンさまといることが生きていることだと。


「ルネンさまの側にいたい」


「そうか。分かった。ルネンの側にいて彼女を守ってくれ」


 ただそれだけの返事をしてラング王はディランの罪を許し、彼をルネンさまの近くにいることを許した。


 ディランがルネンさまに害を加えるのではいかと普通は考えるのではないか。元暗殺者を愛しい者の側に置くなど普通ありえない。


 ディランは死賊に殺害されないように、彼の死を偽装された。病気で死んだ少年の遺体を燃やし共同墓地に埋葬された。

 ラング王は暗殺された者を敵味方関係なく埋葬する。今回はそれでディランの死は死賊に確認された。


 そして、ディランはラング王から新たな名前をもらった。名前は「ディラン」

 この名前以前の名前は、自分の代わりに埋葬した無名の少年とともに埋葬した。


(俺の名前はディラン。俺はルネンさまとセシル姫さまを守る者。二人を守ることが息をすること。)

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