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処刑や幽閉をしないと言ったけれど、いつそれがくつがえされるか分からない。同じ王族でも国の大きさが違う。ラングなんてセイズの1州の大きさしかないのだ。
そしてなによりこの世界は結局身分制度があり女性一人の人権なんてない……。
「今後わたくしはどうなるのですか? 戦利として太ってお腹が出てハゲている貴族の愛人に与えられるのですか? それともまさか王様の愛人にされるのですか?」
「ひっ、姫様! ルーク殿下、お願いします! 姫様を助けてください。私が姫様の代わりに太ってお腹が出て油こってり顔でハゲのなぐさめになります」
「い、いいえ、リリーと姫様では若すぎます。どうぞ私がベタベタちびデブハゲの愛人になりますので姫さまにお慈悲をお願いします!!」
リンダとリリーが地面に倒れて土下座した。2人の肩がふるえている。また泣いているようだ。
「あちゃー、セイズ陛下は太って腹が出て、油顔でもないしハゲじゃないよ。ね、ルーク殿下?」
レイが今だにセシルたちをふぬけて見ているルーク王子にひじでつっついた。レイはくっくっと「油こってりちびデブハゲって」笑いを噛み締めている。
「ああ……レイ、笑うな! それにお前たち、いちいち地面につくな……、ほら、立て。まったくどこからセシル姫を誰かに与えるって言うことになるのか?」
ルーク王子は飽きれた顔をしている。
「えっ? ではわたくしは処刑もされずに幽閉もされず、誰の愛人にもならないでいいのですか? もちろん無理やり誰かと結婚されることもありませんよね?」
「結婚は……」
王子の声が揺らいだ。
「わたくしはデブでハゲでベタベタの男に嫁がされるのですか?」
「ひゃはっはっは」
レイがお腹を抑えて爆笑している。
「だからデブでハゲでベタベタの男との結婚はない!」
ルイ王子が叫んだ。
「そうですか……幽閉も愛人も無理な結婚もないのですね。ただラング王様に挨拶に行けばいいと言うことですね……分かりました」
「だから、結婚は……もしかしたら……」
王子が何か言う前にセシルが言った。
「それでは出発まで、城街の宿にいますので。出発はいつですか?」
「はっ?」
王子が呆れた顔をした。レイも笑いが収まったらしく珍獣を見るようにセシルを見ている。
「ここはセイズ帝国の城です。わたしたちが滞在する理由がありません」
(というか、早く外に出たい。もしかしたら、私たちのことを忘れてくれるかも。で、逃げて庶民になって自由に生きたい)
「……ここから出る必要はない。セイズに出発する4日後までここにいればいい……」
一瞬あっけにとられた顔のルーク王子が言った。
「お言葉とお気遣い感謝します。でも本当にわたくしたちは大丈夫なので、ここから出て行きます」
「いや護衛がしやすいようにここにいろ」
「えっ、どうしてわたくしたちに護衛が必要なのですか?」
「……そ、それはつまり王女と結婚をし、この国の王となろうと思う輩がいるかもしれないからだ」
「……アリス姉姫さまにも護衛がつくのですか?」
「……あっ、ああ……」
「もうこうしてルーク殿下やセイズ軍が城を占領しているのに、いまさらわたくしと結婚して、国王になろうとするものなどいないと思いますけれど……」
「……」
「出発までここで、いままでのように生活するように」
「で、でも!?」
「殿下。将軍が貴族会議を始めるからすぐに戻るようにとのことです」
騎士が部屋に入ってルーク王子に言った。
「わかった、すぐに行く。護衛を四人つける。セシル姫、くれぐれもおとなしくここにいてください。それでは失礼。レイ、行くぞ」
ルークが立って部屋から出る時ににやっと笑って言った。