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(刺される!!)


 死ぬと思った。剣が顔を刺すと咄嗟に目を閉じることしかできなかった。刺される痛みを待っていた。数秒だったのに数分の時がスローモーションで過ぎた。

 セシルの体を包む温もり。恐る恐る目を開ける。ディランに体を支えられていた。


『カッキーン』

 

 目の前の剣がもう一つの剣によって跳ね除けられた。ディランの剣がもう一つの剣を跳ね除ける。


「ディー?」


 ドクドクと心臓が激しく騒ぐ。収まらない心臓に両手を添える。やっと出た言葉もふるえた。

 ディランはセシルを庇うように立ち直した。彼の顔は見えないけれど、彼の背中から殺気がヒシヒシと伝わる。


「マリアンナ! 剣を下げよ! 彼女はセシル王女だ!」


 ルークがマリアンナと言う名前の女騎士を諫める声をあげた。


「ルークさま! 彼女はもう王女ではありません! 国を失った王族。ルークさまによからぬ気持ちを持って接していることは誰の目に見ても明らかなことです」


「それは一体どう言う意味だ? そんなことはどうでもいい!! 武器を持っていないか弱い者に剣を向けるなどあってはならない行為だ!!」


「はっ!! か弱い者!! この女のどこがか弱いのか? 怪しい術で男を虜にすると聞きました! この女は身分を失ったから身分の高い男たちに媚を売って、身分を得ようとしているのです。そんな女がいきなりルークさまに駆け寄ったから排除したまでです!」


 マリアンナと呼ばれる女騎士の低い声が周りに響く。近くにいる騎士たちもルークの声に驚き近づいてきた。そしてセシルとディランの周りには何人かの神殿騎士たちがいた。


「マリアンナ、言葉を慎め!」


「ルークさま! この文無しの犯罪者は、ルークさまをはじめセイズの騎士たちに媚を売っています。怪しい食べ物を配って、周りの男を魅了しています。国を失った王女が男たちを虜にしてなにをするか分かりません! 妻や息子を殺害した狂った父親のようにこの女も狂ってとんでもないことをするかもしれません」


「はんざいしゃ?」


 セシルは自分が犯罪者といままで考えたことがなかった。でもこの世界は身分制度があり、先ほどのように剣で人が殺されるような世界。

 そしてセイズはラングと違う国。ラングでは身分制度があったけれどみんな身分に関係なく仲良く接してくれた。

 でもセイズ国では身分制度は、セシルが想像できないくらい徹底的で絶対で恐ろしいのかもしれない。

 もしかしたらルークたちはラング国にいたからセシルに合わせてくれたけれど、これからはセイズ国内に入る。ルークたちの接し方を改めないと殺される。

 セイズはラングと違う。

 頭では分かっていたけれど、現実には分かっていなかった。日本のように天皇がいても人は平等と言う考えがあって、人の命は尊いもの思っていた。

 でもここは違う世界。そしてセシルはもう王族ではない。平民がルークに王子に気安く話しかけるのは犯罪なのかもしれない。


「周りの者たちが言っていました。この女はルークさまを手駒に取っていると。この女の侍女はタイラ閣下に媚を売っている売女です。私はそんな女を排しているだけです!」


「マリアンナ! 黙れ! レイ、マリアンナを俺の前から排せ!」


「リンダは売女じゃないわ!」


 くやしくて目から涙が出る。


「娼婦の娘は所詮娼婦!」


 レイがマリアンナを抑えて引きずろうとしている。


「セシル! お前たち、邪魔だ!」


「我々は神殿騎士! ルーク殿下の命令に従えません!」


 ルークがセシルの近くに寄ろうとした時、ディランと他の神殿騎士たちが立ちふさがった。

 セシルにはルークともう会話をすることはない。自分の命が大切だ。そしてなによりもうルークの顔を見るのがつらくなった。

 

(雲の上の人だったんだ。)


 前世でも男に嫌われていたのに、この世界でかっこいい王子と仲良くなって知らないうちにいい気になっていたのかもしれない。罰が当たったんだ。

 モテない女が男友達ができたといい気になっていたんだ。

 中身お一人さまの残念女が恋したのがいけなかったんだ。前世何度も失恋して思い知らされたのに、もしかしたら生まれ変わったから誰かいい人と恋をしたいと、リリーじゃないけれどそう思っていた。でも高望みしすぎた。

 もう二度とルークと話さない、ううん、会うこともない。

 自分の馬車へ走りながら心に誓った。ルークがセシルの名前を呼ぶ声が切なくて苦しい。


 涙顔のセシルを見て馬車の外で休んでいたリンダたちが、心配してセシルに話しかける。セシルはタイラさまの声も顔も見たくなくて、急いで馬車に入ってドアを閉めた。


「姫さま! 姫さま! リンダです。どうかここを開けてください」


 リンダとリリーの声がする。タイラさまがディランに状況報告を命令したけれど、ディランはなにも言わなかった。タイラさまが「なんでセシル姫の護衛に神殿騎士になるのだ!?」と言う声が聞こえた。


「リンダ、リリー」


 やっと涙が収まり二人に馬車に乗ってもらう。ディランは誰かが馬車に侵入しないように入り口に立っている。


「ディー。わたくし、犯罪者になりたくないの」


「ええ、セーちゃんのことは私が守りますので安心してください」


 ディランが微笑んでくれて気持ちが落ち着いた。もうここはラング国ではない。そしてセシルも王女じゃない。セシルが知っている世界じゃない。いままでのように行動していたら、些細なことで命を落とすかもしれない。


「姫さま、なにがあったのですか?」


 リンダとリリーに今殺されかけたことを話した。そしてセシルは身分制度に反して王子に慣れなれしく話しかけて犯罪者になるところだったと教えた。

 地球でもインドなどの地域ではカースト制度の一番下の人は家畜より価値がないことを思い出す。イスラム教のように女性の身分が低く厳しい社会もあると知っていたのに。世間と距離をおいて生きてきたツケが出た。


 二人にセイズ国の騎士たちは身分の上の者たちばかりだから、声をかけたらいけないことだと教える。

 そしてセイズ国では男に話しかけることは、娼婦と同じで媚を売る行為と言うことも教えた。


 この場に他の者たちがいたらセシルの極端な思い違いを注意をしただろうけれど、セシルたちは箱庭で育ち世間に疎かった上、セイズ国についてなにも知らなかった。とくにセシルは前世の下手な知識があり、斜め上の結論にいたった。

 

 この時までセシルたちは箱庭にいる時のように、他愛ない会話をしたりする景色に飽きたらハープを弾いたり歌を歌ったりしてした。

 周りにいた騎士たちは、そんな無垢で無邪気な三人を微笑ましく見守っていた。なによりセシルの美貌はこの世の者でない。一生見てても飽きることがない。絶世の美女なのにセシルはそれを鼻にかけることなく、騎士や兵士などいっかいの者たちにも気軽に話しかける。どの騎士たちもセシルの近くで護衛を望み、希望者の競争率が高かった。

 


  残りの道のりセシルたちは馬車の窓に布をかけてひっそりとした。食事の時も馬車の中で食べた。

 何度かルークやタイラさまから面会希望があったけれど、ディランが断ってくれた。


 ディランは神殿騎士だから不敬にならないから心配しないでと言われた。ディランにセイズ国王以外と会話したくないことを伝えた。そしてできるならセイズ王とも会いたくないと伝えた。

 セイズ王と面会しないでいいような方法を考えると言ってくれたけれど、それが難しいことは分かっている。

 どうしてセイズ王はセシルたちに会いたいのか分からない。

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