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3日目の昼食もさっき通った街で買ったパンと果物と燻製のハムを食べた。ちょうど休憩をとった場所にラングの花が咲き始めていた。
リンダもリリーも、そしてセシルもはじめて見る辺り一面咲く水色の春のラングの花に感嘆が漏れる。食事の後にラングの花で花冠を編む。
リンダとリリーは興味深そうにセシルの手元を見ていた。
花冠を編んだ後に頭に載せて「見て、わたくしのティアラ。これを被って舞踏会でダンスを踊るの。ねえ、わたくし、お姫さまみたいでしょう?」とリンダたちに笑いかける。
「セーちゃん、かわいいー。私ももう少しでできるわ」
リリーも花冠を編みながら言った。リリーとリンダも手先が器用だ。
「姫さま。姫さまは姫さまです。い、いつか姫さまはティアラを付けて成人式に出る予定だったのに……ひっくっ、ルネンさまのティアラは……姫さまの物で。ひっく、す、すみません」
リンダがまぶたを抑えて立ち上がり馬車へ走って行った。その後をタイラさまが追いかける。タイラさま付きの側近たちも慌てて二人を追った。
リンダとタイラさまの二人にしていては危ない! と二人を追うことができなかった。追ってリンダを慰める言葉など見つからない。リンダはセシルの成人式をすごく楽しみにしていて、よく成人式でセシルをこの世で一番美しく着飾ると張り切っていた。
ダイヤモンドとアメジストをふんだんに使ったティアラ。セシルの成人式まで安全な場所に保管をしておく、ととーさまが言っていた。もう二度と見ることのないとーさまの贈り物。
とーさまの作ってくれたティアラを、リンダが一番喜んでいたから、もう二度とあのティアラを見ることができなくて寂しいのだろう。
セシルもとーさまの作ってくたティアラを自分の物にしたかったけれど、あれは国宝で箱庭になかった。
セシルの持っている資金では、到底買い取ることができない。
セシルは失ったティアラを思い出すために花冠を作ったのではない。日本でしていたように、ただ花冠を見せたかっただけだった。本物のティアラを付けたいとも、舞踏会へ行きたいとも思っていなかった。
でも周りの人たちにはそんな風に見えたのかもしれない。
「お母さん、どうしたんだろう? 見て、私のティアラ。私もセーちゃんとお揃いで一緒にダンスパーティーに行こうね」
リリーの無邪気な言葉でハッとする。リリーはリンダが泣いている理由を知っているのに何も知らない風にしている。リリーは昔からそんな風にセシルたちのギクシャクな雰囲気を和らげてくれた。
「ええ、きっと街のお祭りで花冠を被った女の子たちがたくさんいるわ。もし花冠がなかったら、わたくしたちで売りましょう」
「うん。さすがセーちゃん。商売上手! これから少しでもお金を稼ぐ方法を見つけないといけないね」
リリーの言葉ですーっと気持ちが楽になった。
「すみません。護衛が主君の会話を聞いて話しかけるのはしてはいけない行為と分かっておりますが、発言をお許しください」
神殿騎士のノブさんが話しかけた。ノブさんはセイズ国の神殿騎士とディランが言っていた。
神殿騎士が他国へ来ることが珍しいと教えてくれた。ノブさんは他の騎士より年配で40歳を越えていて黒髪が所々にグレーヘアーが見え隠れしている。もちろんイケメンシルバーでセシルの萌え萌え要素たっぷりなうえに物静かな人だ。そして身の振る舞いかたが優雅で、セシルたちに接する時自分がお嬢さま扱いされている気分になる。
(そうだ! わかった!)
ノブさんは執事だ! 執事萌をさせてくれる人だ。こうしてセシルに話しかける時も腰が低いのに何か圧倒させる雰囲気がある。
「ええ、ノブさん。わたくしの許可なく、お好きな時に話をしてくれるとわたくしもみんなも嬉しいです」
同じ釜の飯を食べた同士で、セシルの中ではノブさんたちはもう友人だった。
「どうしてセシル姫さまが商売などする必要があるのですか?」
「は、い? それはどういう意味ですか?」
セイズ国の人たちはルークと同じで常識がずれているのだろうか?
「どうしてセシル姫さまが商売などをしないといけないのですか?」
「それは、とーさまの残してくれた金銭では生活できないからですわ」
なんで当たり前のことを聞いてくるのか分からない。
「それは、どういうことですか? ラング王の資産が少ないなどありえない……まさかセイズ国が全部取ったと言うことなのか?」
「すみません。そのような個人的な話はあまりしたくありません」
「あっ、いえ。私は決してセシル姫さまの資産に興味があると言うことではなく。いえ、そうではなく、ラング王の資産は多いはずなのでセシル姫さまが働く必要などあるのかと思っただけで」
「……。わたくしの将来を心配してくださって、ありがとうございます。でもセイズ国到着後のわたくしの心配は皆無です」
と苦笑いをする。とーさまの資産なんて国の物なのに。きっと神殿騎士にはそういう世情に疎いのかもしれない。
(あっ、リンダ!)
リンダをそろそろ野獣から助けないと、と思いなおし馬車の方を見る。馬車の近くにルークがいた。いつもルークの側にぴったりくっついているあの女騎士がいない。
セシルは迷わずにルークのところへ駆け寄った。
「ルーク! 見てみて。わたくしのティアラよ。綺麗でしょう?」
ルークと離れないといけないと頭で分かっているけれど、セシルの友人は少ない。友人としてルークとおしゃべりをしてもいいよね。
「無礼者!」
と、後少しでルークの近くに着くと思った時に剣を顔の前で突きつけられて驚き足を止める。ついバランスを崩して前に倒れそうになった。剣先が目の前で光った。




