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 黒色のコートを着て茶色のバケットハットを被る。髪の毛は後ろで無造作に束ねている。コートの下もこげ茶の庶民が着る裾の短いシンプルなドレスにブーツ。リュックサックを背中に背負い、片手にスーツケースを引っ張る。スーツケースにバラの苗の入っている袋を引っ掛けている。

リンダとリリーは寝袋を苗の代わりにスーツケースに結んでいる。

 リンダもリリーも同じ恰好をしている。ディランは神殿騎士の恰好ではなく一般庶民の服装の上に紺色のコートを着ている。もちろんディランにもリュックサックとスーツケースをプレゼントした。ディランはすでに荷物は馬に乗せたらしい。

 タイラさまからアリス姫の話を聞き、今後ディランは神殿騎士の制服を必要な時以外に着ないと決めた。ディランにとってセシルたちの護衛が一番事項で、神殿騎士という花形役職には未練がないみたい。庶民になるセシルたちに合わせて身分を捨ててもいいと言ってくれた。

 神殿騎士は騎士の階級を持っており、国を隔てて大陸で確固な身分だ。


 セシルたちの姿を見たセイズ国騎士たちが、唖然とした顔をした。

 見送りをするために来ていた宰相をはじめ、ラング国の人たちも何か物を言いたそうにセシルたちを見ている。


「セシル姫、リンダ、その恰好は……」


 軍隊の指揮をしていたタイラさまがセシルたちが到着をした途端に尋ねた。ルークは目を大きくしてセシルを見て固まっている。


「旅行の服です。タイラさま、ルークさま、おはようございます。セイズ国までお世話になります」


 一応挨拶は大切なので頭を下げる。セシルの後にリンダとリリーも頭を下げた。もちろん大勢の人たちがいるからルークと馴れ馴れしく呼べない。本当は昨日抱き締められたことを思い出して、どんな態度をとればいいのか迷っていた。


「セシル姫さま! 無闇に頭を下げないでください! ラング国民に我々が殺されます!」


 後ろにいるセイズ国騎士のテルさんが小声で注意した。どうして頭を下げたくらいでテルさんたちが殺されるのか分からず首を傾げてルークに助けを求める。


「せ、セシル。その恰好は一国の姫がする恰好でないと思うのだが……」


 昨晩のルークの様子が変で心配していたけれど、今朝は普通に話しかけてくれてうれしくなる。


「そう、ですか……? でもわたくしは一国の姫ではありませんし、長旅なのでこの恰好の方が楽ですよ」


「セシル姫、その背中に背負っている袋とその引っ張っているカバンと頭にある物はなんだ?」


 この世界の人は布を頭に巻いたりベールで頭を隠すけれど帽子は被らない。だからみんな驚いていたのか、と納得した。


「これはリックサックと言う袋です。そして、これはスーツケースと言ってカバンでこれは帽子と言って日焼け予防です」


「日焼け予防? それらの物もセシル姫が作ったのか?」


 タイラさまはスーツケースのタイヤをジロジロ見ている。


「帽子とリックサックはわたくしが作りましたが、スーツケースは革職人に作ってもらいました。ほらこうして引っ張って楽に物が運べて便利なんです」


「ふむ、そうか……。今度私にも作って欲しい……」


 もちろんタイラさまのお願いは、曖昧な返事をして無視した。他の人に作ってもらうように進言した。美中年は今日もリンダとの将来の交流を築こうといろいろな面から攻撃をしてくる。


「まあ、なんとみすぼらしいのかしら」


 今から夜会に行くのではと言う派手なフリルたっぷりの紫色のドレスを着たアリス姫がセシルたちの会話を邪魔する。ハニーブロンドの髪の毛を、頭の上で盛り上げて結っている。宝石の髪飾りがあちこちに刺さっている。


「……」


 こんな恰好で馬車に一日も揺られて過ごすなんてすごい。春だけれどまだ肌寒いのに、コートを付けていない。


「まあ、罪人の子どもには似合っている恰好ですけれどね。おっほっほっー」


 セシルたちの会話を聞いていた国民たちがザワついた途端に、護衛のミックとルークがセシルの横にぴったりと付いた。リンダの隣にタイラさまが立っていて、ディランはリリーの横にいた。


「!!??」


「それより! なんで神殿騎士があなたに付いているのよ! 本物の王女のわたくしに付くのが筋と言うものでしょう!!」


 ルークがセシルの横に移動したことが気にくわなさそうな顔をしたアリス姫がディランに向かって命令した。


「ディランはわたくしの友人です。たまたま神殿騎士だっただけで、今回はわたくしの友人として付いて来てくださるだけです」


「生意気なのよ! あなた、ご自分の状況をしっかり分かっていないのね! あなたは娼婦の母親と犯罪者の父親の子どもで、今回はセイズ国王へ謝罪に行くのよ!

その後は平民として地べたをはって生きていくのよ。連座されなくて良かったとせいぜい陛下に感謝することね! 

 わたくしは愛する母上と兄上を殺された可愛そうなミチル王族で保護してもらうのよ!」


 アリス姫がとーさまのことを犯罪者と言った時にいままで我慢していた気持ちが切れた。


「姉上さま! あなたもラング王の娘ではないのですか!!」


「だ、だれがあなたの姉よ! わたくしとあなたとでは違うわ! わたくしはミチル国王女です!」


 アリス姫が自分がミチル国王女と言った途端に、見送りに来ていた国民たちから「売女め!」「ミチルの血が入ったお前はラングの王女じゃない」と罵声が起きた。


「アリス姫さま、セシル姫さま。それぞれの馬車に乗ってください」


 テルさんがセシルたちに指示を出した。暴走しそうな国民をラング国騎士たちが抑えている。セシルも急いで護衛のノブに案内された馬車にリンダとリリーと乗る。ディランは自分の馬を引っ張って馬車の外にいる。


 馬車に乗る前に宰相とラング国神殿長に抱きつき別れをした。馬車の窓から料理長のヤーリや女官長やデビー女官を見つけ手をふる。他にも知り合いの名前を呼んで笑顔を見せる。

 アリス姫が馬車に乗った後は国民たちも落ち着いたようだった。

 どうしてアリス姫は自分の父親のとーさまのことを犯罪者で自分はミチル国王女とわざわざ言うのか分からない。


 でもセシルはアリス姫が言った通り、セイズ国王に謝罪をするべきではないかと思った。とーさまが国を混乱にしたのは事実。それでセイズ王に余計な問題を押し付けたことに対して謝罪するべきかもしれない。とーさまの娘としてラング国王女として、それが義務な気がした。

 セシルの持っているとーさまから譲り受けた財産もセイズ王へ渡たした方がいいかもしれない。

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