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 今夜のガーリックパンと明日持っていくパンの生地を作っている。

 ニンニクに似た植物がある。セシルがそれが食材にもなり健康にもいいとセスに伝えた時は変な顔をされた。ニンニクは匂いがキツくて、どこからどう見てもお腹が膨れる物じゃないから、人々はそこら辺の雑草と思っていた。

 玉ねぎも野に咲く雑草扱いだった。

 ニンニクは香辛料として料理長のヤスに教えて、玉ねぎは野菜として料理法を教えた。ニンニクは肉料理の臭みを消すために、玉ねぎ同様国民の食生活の一部になっている。もちろんニンニクも玉ねぎも雑草で名前がなかったから勝手に日本語でよんでいる。


 ニンニクを潰してバターを塗ったフランスパン、イタリアパンもどきで、国民にはラングパンと呼ばれている長いパンに塗る。ガーリックパンとセシルが呼んでいるパンは手軽においしいパンとして、一般の家庭で作られている。


 オーブン釜に入れる前、生地に霧吹きなんてする技術は、大胆な発想だ! と料理長のヤーリが手放しに褒めた。いまでは外側が固くて中が柔らかい長いパンはラングパンと呼ばれて、外国人を感嘆させている。


「セーちゃん、明日の朝ご飯はレーズンパンにしてね」


「はいはい。リリーも手を休めないでたくさんクッキーを焼いてね」


「うん。こんなにお菓子を作るなんて、年明けと建国記念日とみんなのお誕生日が一度に来たみたいだね」


 リリーはバッタークッキーの生地終えた後にレーズン入りオートミールクッキーの生地を捏ねている。


 リンダは今夜のメインディッシュのチキンパーミジョンの下ごしらえをしている。今朝鶏を一羽殺した。いつものようにリンダとリリーの三人で鶏を捕まえて首を締めて血抜きをしようとしたら、護衛たちがしてくれた。

 きちんとできるかと心配しながら様子を見守った。「我々でもできます。令嬢が……鶏を締めて血抜きなど……」と顔色を悪くしながらブツブツ小声で会話をしていた。


 沸かしたお湯に鶏を入れて羽をブチブチ抜いている時も、「ありえね……毛をむしっている。まさか王族の護衛をしていて、普通の家庭でも見ることのない光景を見るなんて……」と護衛たちが会話しているのを無視した。


 護衛のいう普通の家庭は貴族のことだろう。それとも王都だから庶民は肉屋で購入するのかな。


 どちらにせよセイズ国騎士は所詮お坊っちゃまだ。だから鶏肉は食卓で並んでいる姿しか見たことがないのだろう。リリーにはセイズ国騎士たちは、セシルたちと違って貴族という雲の上の人たちと説明した。


 リンダはセシルをまだ王族だから雲の上の人物よ、といったから「家事をする王女はいないよ」といい返した。


「……そうですね」


 と納得していない返事だったけれど、リリーはセシルの意味を理解してくれた。セシルたちはセイズ国騎士たちより身分が下だから、あまり仲良くしてはいけない、と改めて三人で確認の意志を高める。どんなにタイラさまがリンダを好きとアプローチをしても、身分違いの結婚は不幸にしかならない、と前世の「BL先生と生徒の禁断の愛」小説を参考に二人に教えた。もちろん主人公たちを男女にして話をした。


「姫さまは本当に想像豊かな人ですね」

 

 リンダに複雑な顔で聞いていたけれど、身分差結婚の反対論に関しては褒められた。セシルたちの会話をさりげなく聞いている護衛たちが、「師弟関係の結婚と貴族の身分差結婚は違うのでは……」という台詞が聞こえたけれど、所詮セイズ国騎士は脳筋集団だから恋愛話は理解できないのかも。


 前世のBL恋愛知識はかなり役にたっている。セシルが前世のBL小説を男女の恋愛小説にしてリンダたちに話す度に、リリーは顔を染めてうっとりと話に聞き入っている。

 普段からおとなしいディランは、なにか言いたそうだけれどなにも言わずに複雑な顔をして聞いている。

 ぜひともディランには男女版ではなく、男×男版を話してあげたい。ディランにはがっちりと抱擁力があって年上の顔が渋いインテリ学者に見初められたい。年上インテリダンディー抱擁攻め×美貌な騎士ツンデレ受け。想像するだけで涎がでそう。

 ディランには幸せになって欲しいから彼に合う殿方を探してみようと思う。


(年上女性の抱擁攻めは……う~ん、ディランには似合わない!)


 この世界は同姓愛は倫理に叛く。


 セシルに邪心な想像をされていると知らないディランは、せっせと皿荒いや掃除をしながらモナ=リザがビックリするくらい慈愛な笑顔でセシルたちを見守っている。


 その他、ディランは食品を地下から持ってきたりとセシルたちのアシスタントをしてくれる。セイズの護衛騎士たちも手伝いを申し出たがガタイがでかく料理に慣れていないから邪魔でしかなかった。本人たちもセシルが邪魔に思っているのを察してしずかに部屋の隅で護衛をしている。最初の日は護衛は道端の石と思ってください、といっていたのに。数日で石がセシルたちの仲間になっているのは気のせいだろうか。

 でもその方がセシルたちは嬉しかった。

 

 三人でおしゃべりしながら料理をしていると、以前のようになにもない日常に戻った気がする。平屋にもったいないくらい大きな台所と大きなオーブンがある。煉瓦で作られたオーブン。最初は木炭で火の調整が難しくて何度も料理を失敗したけれど、いまでは毎日欠かせない物。

 

 まだ雪解けの季節だから、キッチンの窓を開ければ室内は暑くならない。夏の料理は大変だけれど、寒い冬は自然とみんな台所に集まって刺繍したり、料理したり本を読んだりした。

 この箱庭で過ごしたほとんどの時間をキッチンで過ごした。だからラングを離れる最後の時も温かい家族の思い出がつまっている台所で、料理をしながら過ごすことがセシルたちには自然なことだった。

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