表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/116

41

「タルード卿はリンダとリリーがセイズへ向うのを止めないのか?」


「はい。私にとってセシル姫さまもリリーと同じに大切な孫なのです。そしてリンダにとってもセシル姫さまは自分の娘で、セシル姫さまにとってリンダはルネンさま同様に母親です。

 あの狭い箱庭で過ごされたからなのかもしれませんが、三人には血の結びつきを越えたものがあります」


 ルークも三人の関係がただの使用人と主人ではないと気づいていた。神殿騎士のディランにもそれを感じていた。

 部屋に入ってきた時に出された冷めきったお茶を宰相が勢いよく飲んだ。緊張で喉が乾いていたルークもお茶を飲む。セシルが贅沢品といっていた紅茶だ。冷めていたがかすかによい香りが残っている。叔父上の側近はさすが王族に使えているだけおいしくお茶を入れる。

 

「長男は家督を受け継ぐ前になくなりましたが、リンダとリリーはタルード公爵家令嬢としてラング国貴族譜に登録されています。セイズ国と合併によって私は伯爵家になります。リンダとリリーはセイズ国の伯爵令嬢ということをお忘れにならないでください」


 リンダがセイズ国の伯爵家令嬢と知った途端に、叔父上の顔が紅潮した。王族に嫁ぐには十分な身分だ。これで頭の固い貴族たちを黙らすことができる。いまだに叔父上に娘たちを紹介する貴族たちから、もしリンダとの結婚を発表すると身分違いを理由に側室または愛妾に、とうるさくなるのを知っていた。

 王族と縁続きになりたい輩は、どんな手を使ってでも自分の娘を叔父上やルークに押し付けてくる。


「タルード卿。私とリンダの婚姻をお許しください」


 叔父上が立ち上がり、宰相が座っている場所に移動して膝をついた。


「タイラ閣下がリンダを気に入ったことは知っています。しかし、私にはリンダにタイラ閣下との結婚をすすめることができます、強制することはできますが、私はそのようなことはしません。

 リンダは立派な大人です。彼女自身が自分の幸せを見つけるべきです。それだけリンダには幸せに生きて欲しいのです。

 リンダとリリーは、我がタルード伯爵令嬢として恥ずかしくない私財を渡します。それにラング王から長い間ルネン妃さまとセシル姫さまのお世話をした褒美もあります。リンダとリリーの私財は、セイズ国の上級貴族令嬢が結婚するさいに持参する持参金の何倍もあります」


「はあ~?」


 またまた宰相の落とした爆弾発言に頭が痛くなった。


「ラング王がお与えになった褒美の中にいくつかの国宝があります。これはリンダとリリーの譲与された国宝です。もちろんこれもセシル姫さまの国宝と共にセイズ王に管理してもらう予定です。

 ラング国の特産物のワインやリンゴ酒をご存知ですね。セシル姫さまがぶどうやリンゴから果実酒を作ればおいしいという話を聞いてすぐに、ラング王の許可の元、我が領で生産しました。試行錯誤でしたが、元来、我が領では酒類製造場がいくつか持っていました。大麦とオーツ麦を混ぜてエールを、少数ですが生産していました。

 その他、他の穀物を使用して酒の生産をしようと職人たちが試行錯誤する毎日です。


 だからまさかワインという酒がこれほど高価な値段で市場で取引をされると思いませんでした。

 セシル姫さまによるとワインは寝かせれば寝かせるほどおいしくなり高価になるそうです。まだ二年しか寝せていませんがすでに我が領が作ったワインは他国でも有名です。セシル姫さまが話したブランド化という現象です」


「ああ、兄上もタルード産のワインを今回の遠征で持ち帰るようにいっていた。寝かせるとはどういう意味だ? そしてブランド化とはなんだ?」


 その後、セシルが宰相に教えたという商品の流通法などの話題をルークはおとなしく聞きていた。

 宰相が話す内容に叔父上は驚いた顔を何度もして聞いていた。叔父上とルークには産業のことはあまり知らないが、セシルが提案した内容がどれだけ素晴らしく歪かわかる。


 宰相の話が終わった後に、叔父上は頭を抱えていた。どのようにセシルのことを父上に報告するか、と悩んでいた。そしてセシルが他にどんな歪な発想をして、今後セイズにどんな影響を与えるか考えるだけで頭が痛くなるといった。


 その前にただの下級出身の女官と思っていたリンダとリリーが裕福な領地の令嬢。父上はそのことを知っていたから、セシル付きの侍女たちの身の安全を命令したのだ。


 宰相に、リンダとリリーの身分のことは必要になる時まで口外しないように頼まれた。高貴の身分は場合によっては危険にさらされると。二人の身分について取扱い方は父上に委ねると返事をする。



「セシル姫たちと対談する許可をください」


「ああ。もちろん。これからセシル姫に会うといい。後宮へ入る許可を出そう。出発までセシル姫たちはあそこにいることが一番安全のようだからな」


 宰相との会合が終わった後、叔父上ともう一度軍の配置について話し合った。でもルークは叔父上や側近たちが会話している内容はどれも耳に入らなかった。ただセシルと自分が結ばれる未来がないと知って、目の前が暗かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ