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「ラング国は古い国です。いろいろ秘密があります……。それがどんな物か、セシル姫の今後の扱いによって気づくことでしょう」


「ふむ、わかった。ラング国の切り札を暴くことはしない。セシル姫への将来は安泰だ。タイラ=セイズ、この身をかけてでも誓う」


 叔父上が宰相の前に立ち、腰の剣を引き抜いて宣言した。


「タイラ閣下、ありがとうございます。これまでの非礼をお許しください」


 宰相も立ち上がり、頭を垂れた。いままでの駆け引きはすべてセシルの安全のためだった。それだけ宰相はセシルの安全を案じていたのだ。

 そして、叔父上が自分の名前で騎士の誓いをしたということは、セシルに対して不当に扱う者は叔父上の敵になる。


 セシルはもうルークの守りなど必要ない。叔父上が彼女の後見人になった。いや、ラング王が父王へ文を出して、父王がラング国合併を宣言した時から父王はセシルの後見人だったのだ。

 そしてセシルは、彼女の資産金だけで近国の小国より多い。もしルークがセシルと結婚をすれば、ルークは兄上よりさらに権力を持つということになる。

 もしルークが第2王子ではなくただの騎士だったら、セシルの持参する金など兄上の地位を揺らがすことがない。だがルークは第2王子だ。

 ルークはセシルと結婚できない……。

 息ができないくらいに胸が締め付けられる。目の前が暗くなった。


「して、リンダの話というのはどういう話だ?」


 ルークの絶望に気づくこともなく話はつづけられる。

 叔父上にとってセシルのことも大事だが、リンダの事情の方が何倍も重要事項のようだ。叔父上が人を急かすことはあまりない。だから叔父上が優秀な将軍と呼ばれる理由だったがいまは違った。


「リンダは法律上、私の義理の娘です。私の亡き息子の嫁で、リリーは私の孫になっています。私の息子は長男でしたが生まれつき体が弱く18年前に亡くなりました」


「ちょっと待て! セシル姫によるとリンダは凌辱によってリリーを妊娠したと聞いたぞ。それゆえ、実家の男爵家から勘当されたと」


 叔父上がテーブルの上に両手をドンっと叩いて身を乗り出し、冷めたお茶が机にこぼれた。


「はい。リンダはラング王とミチル王女が婚姻を結んだ時に来ていたミチルの上級貴族に凌辱されました。それはリンダの母親はミチル出身の貴族で、リンダを彼の慰め役にしたのです。リンダの妊娠を知った後、ミチルの貴族がリンダの堕胎を命令しました。

 堕胎行為はアシール教では禁止されています。また堕胎の薬は母体も危うくします。堕胎を拒否したリンダを彼女の両親は勘当して家から身ぐるみ一つで追い出されました」


 真っ赤な顔の叔父上が席を立ち上がり、腰の剣に手を添えた。


「許せん! リンダの両親を成敗する!」


「叔父上、落ちついてください。あまり大声を出すと、側近たちが部屋に入ってきますよ。まだタルード閣下の話は終わっていません。まだタルード卿の、リンダ殿の話が終わっていないようですが、いいのいですか?」


 いままでセシルのことを考えてぼーとしていたが、叔父上が暴走しないかと叔父上と宰相の二人の会話を見守る。いままでただの侍女とリンダを見ていたが、彼女が宰相の娘となると対応の仕方が変わっていく。


「どのような経過でラング王がリンダを保護したかは私は知ることができませんでした。しかしリンダをセシル姫の乳母にするために彼女の身元をしっかりしないといけません。

 そこでラング王の頼みで私の養女にするよう、頼まれました。でもお腹のリリーのことを考えて、息子がリンダと結婚する、といいました。

 少しの間でしたが、リンダは私の屋敷で保護されていました。息子は彼女に恋をしたのです」


 息子の話題が出た時の宰相の顔が一瞬穏やかになった。それに反して叔父上の顔が険しくなる。


「保護した後のリンダは男に対して異常な恐怖をいだいていました。もちろん私に対してもです。寝たきりの息子には、息子が床から出られないからなのか、心を開きました。

 余命が短い息子は自分の最後の時が近いことを感じとっていたようです。生まれてくるリンダの子ともが私生児になることを案じて、彼女と婚姻を結びました。

 息子はリンダがリリーを無事に出産して一ヶ月後に亡くなりました。それと同時にリンダとリリーはルネンさまのいる後宮へ入りました。リリーは私の本当の孫と思っています」


 宰相の目にうっすらと涙があふれていた。


「……そうか……。ならどうして、セシル姫がリンダが凌辱によってリリーを妊娠したと知っておる? 普通だったら、そのようなことを知らせずにおるだろう……」


「セシル姫さまは神童です。幼い時も大人のような子どもでした。リンダの男性嫌いを不思議に思っていたようです。そして、ふとリンダのリリーに接する時に違和感を感じたようです。

 セシル姫さまがリンダに、私の息子を愛していたか、お尋ねになりました。もちろんリンダは息子を家族として愛していると返事をしましたが、セシル姫は納得しませんでした。

 そして、どうしてリンダが時より苦しそうにリリーを見るのかお尋ねになり、愛しい人の子どもを見る顔ではなく、時折憎しみを込めてリリーを見ている、と言われたそうです。


 その後リンダは大泣きをして、ラング王とともに私も後宮へ向いました。私は箱庭には入ることができませんでしたが、小さい窓越でリンダと話をしました。

 ラング王はセシル姫さまにすべてお話をなさいました。

 それから私はラング王の許可をいただいて定期的に後宮へ赴きました。窓越でしたがセシル姫さまとリリーの成長する姿を見守り、リンダの傷が癒えるように彼女の相談役をしました。私はリンダの父親として彼女を娘として愛しています。もちろんリリーもセシル姫さまも私の愛する孫です」


 宰相の話が終わった後、部屋の中は静寂に支配された。叔父上も腕を組んでなにか物思いにふけていた。

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