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「水蒸気蒸留法をはじめとし、農作器具、料理器具、家庭器具などです。それ以外に、ラング国内の宝石職人や飾り職人の所属する技術職人たちのギルドへ払われる加入税や収入税の一部はルネンさまの資産でした。それはそのままセシル姫さまのものになります」
「なぜラング国の工場の収入の一部がセシル姫に渡されるのか!? 普通は産業物の発案者に資金を払われるのはわかるが、王女へ支払われるなどありえぬ。ま、まさか!! ラング国のここ最近発明された技術の発案者は、セシル姫と申すのか? まさか、そんなことがあるはずない……!! それになぜ宝石職人ギルドがルネン妃へ金を払わないといけないのか?」
ますます理解できないことばかりで叔父上が余裕を失いつつあることを注意できないほど、ルーク自身混乱している。
「セシル姫さまは神童で天才なのです。幼い時から、この国を豊にするために知識を得て新しい発明をしました。水蒸気蒸留法は他国にはありません。これはセシル姫さまの案を技術開発者たちが物にしたのです。といっても、セシル姫さまがほとんどの道具の過程をお作りになりましたが。それにラング国技術開発機関自体、セシル姫さまの案を実現するために、セスさまとラング王が設立されたものです。
最初は香りのため、精油を接収するために開発されましたが、いまは薬草をより効果的に使用するために水蒸気蒸留法で成分を取る方法も試みています。
水蒸気蒸留法の精油習得により、ラング国産の石けんや化粧水、香水などは遠い国からも買い求めにきます。
この水蒸気蒸留法は国家秘密としていまはラング国が管理しています。そして、その技術者はセシル姫さまで。神殿もセシル姫さまの所持を認めています。よって、もし他国で無断に水蒸気蒸留法を真似た物や似た物がでた場合は、神殿が先頭になってその国に賠償金を支払われるようになっております」
つまりセシルが発案して得た収入の一部は、彼女に技術料として払われている。
「そんなばかな……。幼い姫が、機械を作るなんてできるなぞ……。いくら神童、天才だとしても実際に物にして国の経済を飛躍するなど……そんなおとぎ話は聞いたことがない。そんな天才がいるなど……。そしてなぜそこまで神殿はセシル姫の援護をするのだ……」
叔父上の言葉が何度も頭の中に駆け巡る。ルーク自身も宰相の言葉を信じられないでいた。
「はい。私も最初ラング王とセスさまからセシル姫さまのことを聞いた時は信じられませんでした。しかし、私は次々と新しい物を作られ、新しい国の産業やさらに農業改革の案をこの10年見て携わってきました。
セシル姫さまと国の内政について何度も手紙の交換をしました。
確かにこの国が豊になったのは、ラング王一人の偉業ではなくセシル姫さまの知識があったからです。セシル姫さまのお作りになった産業の収入の一部はセシル姫さまがお稼ぎになったお金です。
しかし、セシル姫さまは技術料はラングの技術の発展のために使って欲しいといわれ、ラング国内には優秀な者たちが無料で学べる学校を設立しました。ラング国には元来の貴族たち用の教育機関以外に国民誰もが学べる学校がいくつもあります。その他、ラング国民全員が読み書きできるようにと設立された学校もあります。
すべて5年前にセシル姫さまが提案されたものです」
「……そうか……ラング国のさまざまな改革について噂を聞いていた。実際に優秀な文官たちや騎士たちがこの城には多い。今回も我々の手助けなしに、国が、王亡き後も、動いていることに驚いていたのだ。
たしかにセイズ国にも薬師や医師、騎士や官僚になるために学校がある。しかし、それは無料ではない。ほとんどの生徒は貴族出身か裕福な家の出の者たちだ。
だがラング国は幼い時からすべての国民に教育を与えていると知った時は、正直驚いた。そして、それを行ったラング王は賢王だと思っていたが……それはセシル姫の案だったというのか……。
他にセシル姫はどのような改革をしたのだ?」
ルークは叔父上と宰相の会話をどこか夢模様で聞いていた。セシルが自分の知っているセシルじゃないことにジワジワと不安が募る。ルークの知っているセシルが遠くにいくようで、不安とともに胸が徐々に締め付けられて苦しくなる。
「それは私の口から申し上げることではありません。私もラング王の偉業のどれがセシル姫の案か全部把握しておりません。
ただセシル姫さまの技術料の収入をラング国教育に使っても、あまりが出て。それはすべてセシル姫の収入となっております。
学校ができてまだ5年しかたっていませんが、国内の企業や貴族たちや商会が、優秀な者を確保するために学校や教育機関へ寄付するようになりました」
「そうか、優秀な人材は国の資産だと改めて思う。セイズ王は、兄上は、セシル姫の価値を知っておったんだろうな……」
父王がセシルの安全を最優先事項にしたのは、ミチル国への牽制だけではなかった。
「ラング国民はセシル姫の偉業を知っておるのか?」
「いいえ。しかし、宝装飾ギルドの職人は、ルネン妃さまが作った学校出身で、孤児院出身の者ばかりです。もちろん彼らは技術学校はルネン妃さまが作ったと思っております。実際はセシル姫さまの案をラング国王が実行して宝装飾技術学校を作りました。この国において宝石加工は今は重要な産業です。この産業が他国に認められるまで、土地を持たない孤児院出身の者たちは、小作として貧しい未来しかありませんでした。だからルネン妃さまの一人娘のセシル姫さまを大切に思い感謝しています。
そしてラング国を豊にしたラング王が愛したルネン妃さまやセシル姫さまは、国民にとって尊きお方です」
「……そうだろうな……。もしセイズ国がセシル姫を不当に扱とラング国民が暴走するだろうな……」
「……はい。国がなくなっても国民の中ではセシル姫さまは王女なのです。今後、ラング国はセイズ国の一部になりますが、一州として豊かな地域になるでしょう。それだけ今後も飛躍的に発展していく技術も人材も資源もあります。
我々を統治されるセイズ王族には、くれぐれもセシル姫さまに対しての扱い方を間違いにならないで欲しいものです」
「もともとセイズ国はセシル姫の身を守ると決めている。タルード卿は、我々セイズ国を崩壊する力を他に持っておるのだろう?」
叔父上の言葉に息を飲む。