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 両替所を出た後はウインドウショッピングをする。色とりどりの物珍しい商品が店頭に並んで見ているだけで心が弾む。いろいろ欲しい物があるけれど、荷物を増やしたらいけないと思い我慢した。

 セシルが興味津々であっちこっち見ている時も、ルークはずっとセシルの横にいた。

 セシルが「きれい~。かわいい~。見てみて」とルークの腕を掴んで話しかける度に、「ああ、そうだね」と微笑み返す。

 その度に、まわりから「かっこいいー。セイズ騎士だー」などの黄色い声がした。頬を赤らめている女性を見ていて、乙女でいいな、と思う。セシルは下手に前世の記憶を少し持っているから恋愛に対して諦めがあった。

 でも自分がそんなかっこいい王子さまと並んでいることに優越感を感じていた。今後一生こんな風にかっこいい王子さまと並んで買い物をすることがないと知っているから、少しだけ優越感に浸う。


「あれ、みんなは?」


 街の市場は多くの人で混雑している。隣にいるルークと護衛のテルとセイズ国神殿騎士のノブ以外にリンダたちがいないことに気づいた。辺りを見渡してもデカいタイラさまが見当たらない。


「セシルがあっちこっち動きまわるからはぐれたみたいだ。リンダとリリーにはそれぞれ叔父上とレイが付いているうえ、護衛も付いているから安全だ」


(……レイとタイラさまがいる時点で危険すぎる……。)


 キッとルークを睨むが、20センチの身長差がうらめしい。


「ん? あそこで舞台しているみたいだ。見てみるか?」


 ルークが人垣を指して尋ねた。

 市場の中央にある時計台の前で、大道芸人たちが踊りや歌をもよおしている。それで人垣ができていた。ルークは中央席の端に2人分の席をとってくれた。

 劇の内容は、とーさまとかーさまの話だった。傾国の側室が王妃さまに殺害され、側室を愛していた王さまが王妃を殺して死ぬ話だった。


 劇が終わった後に、ふと右手に固くて温かいぬくもりに気づく。剣だこで固い大きな左手。まだ19歳なのに、大人の手だ。この手をたくましく感じて、顔が熱くなる。

 それからまた市場を散策した。でもさっきと違っていまはずっとルークの手のぬくもりがあった。彼の手を放そうとした時に「セシルが所かまわずに動き回るから迷子にならないように手をつなごう」と言った。もちろんルークを睨みつけたら、幼い子どもを見ているような顔をしてにこっと笑い、一瞬握る手に力をこめた。


 城への帰り道はルークの馬に乗ることになった。はじめての乗馬で緊張する。馬上は高くて安定感がなくて体が緊張する。それにセシルは横乗りでルークの前に座っており、彼に触れそうでさらに緊張して体が硬直する。でも馬が動きはじめると、ルークの胸に抱きついた。肌さわりのいいルークの軍服から彼のぬくもりが頬に伝わり、自分の顔が赤くなる。


(なんでケチったのーー、私!)


 帰る時に馬車に乗ると言った時に「余分な予算を使うぞ。いいのか?」と言われて相乗りの提案を受けた。でも今こうしてルークの汗とスパイスの匂いがするがっしりとした胸板が身じかに触れ、心臓の鼓動がうるさい。


「なあ、セイズに行くの不安か? いや、不安に決まっているな。両親失って、いままで住んでいた場所から離れて知らない国に行くんだもんな……」


 耳がルーク体に触れているから、彼の声がさらに低く聞こえる。


「セシルはなにも心配しなくていい。俺がお前を守ってやるよ。いや、こ、これは同じ王族として、俺が最初におまえの家を荒らした者のせめてもの償いだ。い、いや、自分の自己満足だから、セシルはなにも罪悪感など感じなくていいんだよ。

 だ、だから、安心して俺に付いてくればいい。い、いや、つ、つまり、こ、これは任務なんだ!」


「ありがとう……」


 任務を全うしようとするルークに好意を感じて胸がドキドキする。彼の鍛えられた固い胸があったかくてたくましくて、自分を守ってくれると。ずっとこうしていたい、という自分と、これ以上彼といると離れられなくなる、と警戒するようにいう気持ちに戸惑いながら、夕日を浴びて照らされているラング城を見ていた。

 ラング城は綺麗だった。


 後宮に戻るとリンダとリリーは先に戻っていた。もちろんタイラさまたちもいた。リリーは相当興奮しており、セシルを見るとすぐにおしゃべりをはじめた。


 その晩は女官長が晩ご飯を王宮のキッチンから運んでくれた。料理長のヤーリがセシルたちにニンジンケーキを作ってくれた。晩ご飯も特別に牛肉のミートソースのスパゲッティーだった。

 もちろんルークたちも一緒に食べた。


「セイズの食事、あんまり期待するなよ」


 と箱庭にリンダと一緒にいるといって駄々をこねたタイラさまを引きずって帰っていくルークが別れ際につぶやいた。


 リリーはレイと一緒にいたことについてなにもいわずに、ただ街がおもしろいところとはじめての経験の話をしていた。

 ディランはリンダとタイラさまと一緒にいたらしい。帰りはリリーも一緒に馬車で戻ってきたらしい。「リンダ大丈夫だった?」と尋ねたら、「はい。ディランがずっと側に付いていてくれたから、安心してお店を見てまわれたわ」といった。


「タイラさまは?」


「……まだ大きくて怖くなる時があるけれど、陛下がルネンさまに接するように私に接してくれて……わからないの。怖いはずなのに、安心してしまうの……」


 といった。もしかしたらリンダはタイラさまに惹かれはじめているのかもしれない。やっぱり美中年は侮れない!  

 

(リンダの幸せはどっちなの?)


 タイラさまと結ばれた方が彼女の幸せになるのか……。このまま一緒に庶民としてプチお一人さま人生するのがいいのか……。


 お一人さま人生のセシルには難しい悩みだった。結局いろいろ考えたけれど、「全部ルークのせいだ!」という結論を出して、その晩はぐっすり眠った。

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