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特別にお店の奥の私室を借りた。いまこの部屋にセシルとディランとタイラサマとルークがいる。
「タイラさま。リンダを側室になさりたいのですか? それとも愛妾ですか?」
「はっ!!?? なんで叔父上がリンダを側室や愛妾にすると思うのだ? 普通はそこで正室にすると思わないのか?」
タイラさまの代わりにルークが答えた。
「だって、こんな小さな国の身分の低い侍女に求婚って、普通側室か愛妾って思うでしょ! だから、リンダをそんな男のところへやれません!」
「おい! セシル姫。さっき私の大事なところを蹴った時は見逃したが、リンダとの恋仲を裂いたりしたら、 いくらリンダが大切にしている姫さまだとしても許さんぞ!!」
「お、叔父上。お、落ち着いてください……。せ、セシルが叔父上の大事なところを蹴ったというのは……ま、まさか男性の象徴さまをですか……?」
「「「……」」」
部屋を静寂が支配する。男性軍がタイラさまの下半身をチラリと見た後に、なんともいえない顔でセシルを見る。
「だから、権力でリンダとの結婚を迫ることをやめてください。リンダは男性が怖いのです」
「怖いのは後宮にいて男性に会ったことがないからだろ? すぐに男が怖いのは治る。それよりリンダの元夫は誰だ?」
「リンダは未婚です。リンダが18歳の時に陵辱されてリリーを妊娠して、男爵家から追い出されたところをとーさまが拾って、かーさまの侍女にしたのです。
ちなみにディーはリンダの本当の息子じゃなくて、心の中の息子です。わかりますか? ディーやリンダやリリーはわたくしの心の中の家族だから、もしみんなになにかあったら、許しませんから」
セイズ王族受け侮辱調教BL小説を書いて、こっそり売り出してやる。と決意して睨む。もちろんチラリとタイラさまの下半身を見る。
「「「……」」」
タイラさまがすかさず腰にある剣を握り締めた。もちろんセシルから距離を取るために一歩さがったのは気のせいだろう。
「そ、そうか……。リンダは……。く、くそーー。その男は誰だ! 私が殺す!!」
「叔父上!! 落ち着いてください!」
「リンダは誰か話さなかったわ。だから、決してリンダに、相手のことや陵辱のことを聞かないでください。
もし聞いたら、絶対に嫌われますよ。まあ、いまも好意度ゼロだけれど、それがマイナスになるかも」
「マイナスってなんだ? まあ、それはいいとして。叔父上。リンダは男性へ対して恐怖心を抱いています。ここで叔父上が身勝手に近寄ると、怖がって逃げると思います」
ディランは「そんな過去があったのですね……」とどこか悲痛な顔をしていた。
「ど、どうすればいいのだ?」
タイラさまがルークに尋ねる。
「そうですね。あくまでも紳士的な態度で接してください。叔父上が母上へ接するように。決して大声を出さないようにしてください」
「王妃に接するようにするのだな? わかった。それで結婚はいつになるのだ?」
セイズ王族は残念な男ばかりなのかもしれない。
「叔父上。求婚を受け入れられた後に結婚するのです。その前に、叔父上のよさを相手にわかってもらうようにするのです。
というか叔父上になんでこんなことを教えないといけないのだ? 叔父上がいままで女性に興味がなかったのがいけないのです。
あんなに多くの婚約話ももみ消して。父上もおじいさまも叔父上を甘やかして。まあ、俺や兄上にも婚約者を勝手に決めないのは感謝しているが……。
女性のことは父上にでも聞いてください」
「わ、わかった。リンダには王妃さまに接するようにふるまう。後は宝石やドレスや剣や馬や家をあげたらいいのか? 一層のこと私の離宮をあげたらどうだ?」
「「「……」」」
タイラさまの言葉に嫌な未来がきそうな気がするのは気のせいだろう……と不安を頭の隅に追いやる。
話し合いが終わりテーブルに戻るとピザが冷めていた……。
「あっつあっつピザが……」
「セーちゃん。ほら、あっつあっつのリンゴカブラーだよ」
あまりにも絶望的な顔をしているセシルにリリーがデザートをすすめる。
パンドケーキの布地でリンゴなどの果物を焼くお菓子。アップルカブラー。バニラアイスが一緒にあれば、文句なしなんだけれど。
アイスクリームを食べたいと、いままででそこまで思ったことがなかった。
(よし! 今度の冬にアイスクリームを作る!)
生クリームの作り方は、料理長ヤーリに教えた。ケーキは砂糖が高価なのであまり市井に広まっていない。王宮でも外国の重要客がきた時に果物入りのパンドケーキに生クリームをのせて振る舞われた。
この世界にはコーヒーに似た飲み物があるけれど、チョコレートがない。セシルの野望の一つにカカオを作るがある。
体調がいい時にカカオの種を創造するけれどできない。
「うわーー。おいしい。このスパイス!!??」
(シナモンだ!!)
「本当にラングの食べ物はおいしい。ああ、これがリンゴというのか? 酸味があるのに甘い。スパイスはセイズの南で取れるものだ」
ルークの言葉に胸が踊る。やっぱり書物には書かれていない植物があるんだ。もしかしたらチョコレートがあるかもしれない。
セイズ国の市場に行くのが楽しみになった。護衛たちがセイズ国都には毎週市が開かれて、国中から珍しい食料品が集まると聞いた。
「セイズの市場に行くの楽しみだね」
隣にいるリンダにいう。
「ええ。きっとおいしい食材が手に入りますね」
リンダがにっこりする。タイラさまの求婚は無視していい、と伝えた。でももしよければ、少しでも彼を怖がらないで接して欲しいと頼んだ。
タイラさまはリンダに紳士的に接すると誓ってくれた。ここはタイラさまで少しでも男嫌いを直してもらわないと、今後の旅行や庶民になった時に大変なことになる。