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 薬屋で時間がかかりすぎた。今度は小物を売るために質屋に向かう。ディランはよい案内係だった。三人が他の人とぶつからないように気をつけてくれる。


 ディランがセシルたちに銀をコートの内側に隠すように助言してくれた。

 セシルもこの世界ではじめての買い物でかなり浮かれていて、スリが頻繁にいるということを忘れていた。前世の日本というよころは、ずいぶん安全な国だったんだとつくづく思う。

 薬屋で大金を下着ポケットにいれた。

 ディランもセシルたちが旅行の準備で、下着やら靴底などに宝石をいれるポケットを見た時に、最初は驚いた顔をしたけれど後は大笑いしていた。

 さっそく神殿長に手紙で教えると言っていた。セシルたちにはどうしてディランが笑うのかわからなかった。



「セーちゃん。いい匂いがする~。ねえ、喉が乾いた! 私、お買い物したい」


 リリーが匂いにつられて賑やかな声の方へ歩いていく。中央広場にはいろいろな市が開かれていた。


「わーー。すごい人だね」


 リリーは満面の笑顔だ。リリーだけではなくリンダもワクワクした顔をしている。もちろん男性が多いけれど、リンダはディランが隣にいるので安心しているようだ。


「見て、あれリンゴジュース?」


「まあ。あれ飲みましょう」


 セシルたちは一人一人鉛貨を3枚渡してコップ一杯のジュースを買う。


「これ私たちが飲むリンゴジュースと違うわ」


 リンダがいった。


「これはリンゴサイダーっていって、リンゴ果肉粒の懸濁により透明じゃなくてね。一般的な濾過済みのリンゴジュースよりも味が濃いの」


 リンゴサイダーは炭酸ソーダじゃない。濃厚なリンゴジュース。

 この世界でリンゴサイダーが飲めるなんて幸せだ。秋に収穫したリンゴをサイダーにして、地下の低温貯蔵庫で保存したのだろう。もうそんな風に食文化が発達していることを知れてうれしく思う。


「本当にセーちゃん、物知りだよね。私なんて薬師免許に必用な本しか読んでいなかったのに」


 セシルとリリーの薬師免許はラング国発行だ。今後セイズ国に行っても使用できるか聞いてみないといけない。


「リリーは薬師免許をとれるだけ勉強して偉いよ。それだけ本読んですごいよ」


 セシルとリリーが薬師免許を取れたのはセズのおかげだけれど、二人はかなり勉強した。普通は14才から6年間薬師学校へ行って試験に合格すれば免許が取れる。たしかセイズ国も他の国も薬師は同じだった気がする。


「だって暇なんだもん」


「あっはっはっは」


 たしかに箱庭は、一日規則正しく生活しないとなにもしないで時間だけが多くある。リリーは一生懸命勉強したことを照れ隠しでよく「暇だから」という。


「次はなにか食べよう? 私ピザが食べたい!」


 昼時で辺りからいろんな料理の匂いがしている。リリーの提案にみんなが頷く。

 ピザもセシルが料理長に教えて、手軽の料理として庶民に広まった。ピザと同様に、スパゲッティーなどのパスタ料理ラング国内に広まっている。


 ラング国は地球のイタリアだ。トマト料理は、トマトのピューレで保存がきき料理のバラエティーが増えている。もともとあるチーズも保存がきくのでピザは国民にすぐに受け入れられた。


「もちろん!」


「見つけたーーーー」


 思わず手に持っていたカバンを落としそうになった。リンゴソーダのコップはすでに飲み終わって返していたからソーダをこぼさなくてすんだ。でもリンダはまだ飲みかけで、ソーダが喉につまったようで咳をする。もし咳をしていなかったら、叫び声をあげていたかもしれない。


 セシルはこっちに向かってくる巨体を睨みつける。もしタイラさまがディランやリンダに無体をするのであれば、前世畑仕事とダイエットのためにしたキックボクシングで鍛えた足で蹴りをいれるつもりだ。


 もちろん前世と現世のセシルの体の作りは別物だが、いまのセシルにはそんな些細なことは問題ない!


(第一段階は、相手の隙をつく!!)


 リンダとディランを後ろに隠そうとしたけれど、なぜかディランがセシルの前に立っている。


「ディー、後ろに隠れていて」


「いいえ。今度こそ負けません!」


 ディランにもプライドがあるのだろう。だからなにもいわなかった。

 巨体なタイラさまを先頭に走ってくるセイズ軍隊を、市場にいる人たちは驚き道を開ける。

 もしスペインの闘牛と戦う時はこんな気持ちなんだろうと思った。大勢人がいるところで逃げる場所もないし、目の前に迫る闘牛はリンダをロックインしたみたいだし……。


「あれ、ルーク? さま?」


 ルークは闘牛師だった。


「叔父上! そんなに勢い良く迫ったら、リンダ(大声)さまを怖がらせて、嫌われます(大声)!!」


「嫌われる!!??」


 タイラさまがディランの前でピタリと止まった。リンダはセシルの腕を握ってふるえている。


「ええ。叔父上、女性の前で暴力をふるうと嫌われると母上がいっていました」


「じゃあ、護衛はどうなる? 俺はリンダをこの男から救おうとしただけだ!」


 タイラさまが大声を出してディランを指差した。


「男? 神殿騎士は男なのか? で、でもテルが美人って……」


「ひゃっはっっはっはーーー。息が苦しい」


 クールイケメンと思っていたレイが額の汗を拭きながら、笑いたいのか深呼吸をしたいのかわからない。


「もう王族がこんなところまで何をしにきたのですか?」


 セシルはディランの隣に立って大声を出す。


「おい。王族って。お前もだろ?」


(お前って、呼び捨て!! 何さま? 俺さまで王子さまだった……。)


「わたくしは元王女で、いまはただの一般庶民です!!」


 ドヤ顔をしいてみる。


「「「「……」」」」


「いや。父上に会うまでは王女だ。それより何をしている?」


「リンダさん! ご無事ですか?」


 ディランの後ろに隠れているリンダにタイラさまが尋ねようとする。ルークの言葉のおかげなのか声を落として紳士的な声だが、野獣攻めを見ているリンダには恐怖だろう。


「なにって、買い物ですわ! 見てわかりませんか? それよりルークさまのようなセイズ国騎士さまの軍服を着ているお方たちが近くに寄るとわたくしのような一般庶民には迷惑です!」


(いってやった!!)


 大勢の人がいたら不敬罪で罰せられないから、セシルはここぞとばかり強きになる。まだディランを汚された怨念をここで払おうとしていた。


「だからお前はまだ王女だ! って、なんで買い物が必用なんだ?」


 やっぱりルークは頭が悪いのかもしれない。


「喉が乾いたからに決まっているでしょう!! もうわたくしたち、今日はとっても忙しいので、ここで失礼します! ストーカーしないでくださいね!!」


「ストーカーってなんだ?」


「っ!! だから、女性の後にくっついてくる男のことです! ディー、行こう」


「おい。護衛をストーカーっていうのか? ディーって、なんでお前ら仲がいいのだ?」


 本当にストーカーにストーカーというものを教えてもその行為を正当化する。前世でセシル自体はなかったが、彼女のかわいい友人のストーカーと話をした時を思い出す。


「だ、か、ら、ディーはディーなの! 邪魔です!」


「あのー。ここは大勢の人がいます。この屋台の方にもご迷惑なので場所を移して話をしませんか?」


 護衛のテルが恐る恐る尋ねる。

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